別世界の住人
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役者をしている卓(森山未來)の元に、
警察から父・陽二(藤竜也)を保護しているとの連絡が入ります。
卓がまだ子どもの頃に両親が離婚して以来、父とは長らく疎遠になっていました。
父は認知症のため施設へ入ることになりましたが、
久しぶりに会った父は卓のことを認識はしたものの、
まるで別世界の住人のようになっています。
また、卓にとって義母になる父の再婚相手・直美(原日出子)は行方不明。
片付けのため父の家を訪れた卓は、
そこら中に日常生活に必要なことの父のメモが残っているのを見ます。
そんな中に義母の日記があり、そこには父が直美に宛てた
おびただしい数のラブレターが貼って残されていたのでした・・・。
一体彼らには何があったのか。
卓は父と義母の生活を調べ始めます。
父と卓の母が離婚して間もなく、父と義母は結婚したようです(義母にとっても再婚)。
多くのラブレターを見て分るように、陽二は始めから直美を愛していた。
だからなのか、陽二は卓にとって親しみを感じるような父親ではなかった。
しかし、陽二の2度目の結婚はさすがにうまくいって、
以来30年以上長らく連れ添っていた・・・。
けれど、陽二が壊れていくのですね。
元々独善的で、一方的に妻を従えようとするタイプ。
だから愛しているとは思いつつ、直美にとっては「耐える」部分も多かったはず。
が、しだいに陽二は「別人」になっていく。
ついには妻のことを妻と認識することもできなくなって、
直美はこれまでの人生の意味を見失ってしまったのではないでしょうか・・・。
ラストは極めて曖昧な描き方がされているのですが、
冒頭近くの陽二の言葉が思い出されるのです。
「お義母さんは、どこにいるの?」との卓の問いに、
何も知るはずのない陽二が言います。
「あれは、自殺した。」と。
誰が悪いわけでもない、単に脳が正常な機能を失うという老いによる病。
その残酷さがひしひしと身に迫ります。
でも、もともと父には近寄り難い印象を抱いていた卓が、
父のこれまでの心の変化を知るにつけ、
逆に少し自分と近づいたような気がしたように思えました。
じっくり考えさせられてしまう作品です。
<シアターキノにて>
「大いなる不在」
2023年/日本/133分
監督:近浦啓
脚本:近浦啓、熊野桂太
出演:森山未來、藤竜也、真木よう子、原日出子
人格崩壊度★★★★☆
満足度★★★★☆
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