心を接近させながらも、ふれあうことができない二人
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父の不要品回収会社で働く直己(佐々木詩音)は、
市民プールでアルバイトをする青年柳瀬槙(諏訪珠理)と知り合います。
槙は身の不自由な養母・美鳥(風吹ジュン)と暮らしています。
槙と直己は、美鳥の願いを叶えるため、
直己が回収して手に入れたレコーダーで「世界の音」を記録することに。
槙が実際に世界を旅したフリをして、自分たちで作り出した「音」を美鳥に届けるのです。
サハラ砂漠、イグアスの滝、カナダの草原・・・。
そんなことをするうちに、直己と槙は心を接近させていきます。
しかし、互いにひかれ合いながら、ふれあうことができない二人は、
まるで子犬のようにじゃれ合い、格闘を始める・・・。
別に意識したわけではないのですが、
先日紹介した「消えた初恋」や「チェリまほ」と
似ているようでまるで似ていないストーリー。
さすが、リアルです。
「自分には磁力のようなものがあって、
大切な人に触れたくても反発してしまうんだ」
どちらが言った言葉だったのか、
しかしそのことにおいて二人は全く同意見で、気があってしまいます。
でも、だからこそなのです。
二人は優しくふれあうことができない。
慰め合いたいのに抱きしめることもできない。
乱闘による押さえ込みなのか、強い抱擁なのか、
見ていて分からなくなってきます。
まさに同極同士というワケなのでしょう。
直己は不要回収品の中から、ビデオテープやレコードなどをそのまま収集しています。
好きだったモノはたとえ見たり聞いたりできなくても手元に置いていきたい、という。
一方槙は、好きなモノは心に残っているから、別になくてもいい、というのです。
本作終盤で起こる悲劇は、二人のこの食い違いから起きたのかも知れません。
直己は嘘の旅の音ではなくて、実際に二人で旅をしようといいます。
それは、二人の交友の証しとして、何か形になって残るモノがほしかったから。
そして、実際その思いが強すぎたのです。
ごくさりげなく淡々と進む物語描写の後ろ側で、
感情が激しく揺れ動き乱高下。
いい作品だと思います。
WOWOW「映画工房」で紹介してくれなかったら、見逃すところでした。
<WOWOW視聴にて>
「裸足で鳴らしてみせろ」
監督・脚本:工藤梨穂
出演:佐々木詩音、諏訪珠理、伊藤歌歩、甲本雅裕、風吹ジュン
純愛度★★★★☆
満足度★★★★☆