映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ながたんと青と-いちかの料理帖-

2023年05月13日 | テレビドラマ

15歳の年の差結婚で

 

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WOWOWのオリジナルドラマです。

戦後間もない京都。

いち日(いちか)(門脇麦)は、一度結婚しているのですが、
夫は戦死したため、老舗の料亭を営む実家に戻って来ています。
いち日は、元々ここの料理人になりたいと思っていたのですが、
女は料理場に足を踏み入れることさえタブーとされていて、
やむなく某ホテル内のイタリアンレストランで料理の腕を磨いています。
しかし実家の料亭は経営の危機を迎えており、
いち日は資産家の3男、15歳年下の周(あまね)(作間龍斗)と政略結婚をすることに。
ふたりは、反発し合いながらも、料亭の再建を目指します。

 

いち日と周は、
「お互いに別に好きな人がいるので、“そういうこと”はなしにしよう」
と、寝室を別にして過ごします。

周は、幼馴染みの兄嫁のことが好きで、忘れられずにいるのです。
そしていち日は、イタリアンレストランのシェフ・田嶋(中村蒼)が
気になっているようでもあるのですが・・・?

いち日は、まだ学生で自由な未来が開けているはずの周を、
料亭などに縛り付けておくのはよくないと思い、
なんとか料亭を建て直して、周を解放してあげようと決意しているのです。

 

どうにもよそよそしい二人が、次第に心の距離を縮めて行く当たりがなんともキュンキュン。

周は、いかにも若く、言いたいことをストレートに言ってしまうタイプなのですが、
それでも年上のいち日に対しては、若干の遠慮と引け目がある。
そしてまた19歳男子の硬質な真面目さと青い欲望も併せ持つという
なかなか複雑な役どころ。
それを、リアル19歳の作間龍斗さんが見事に表現してくれています。
19歳でも決して「かわいく」はなく、少年と大人の間、
いち日言うところの「青と」すなわち、青唐辛子のイメージそのまま。
よき、よき。

門脇麦さんも、私はすごーい美人とは思わないのですが、
でも彼女がいる場にはどこかほんのりとした味が出るというか・・・、
なかなかステキな女優さんなのであります。

 

ところで、作間龍斗さんは、ジャニーズJr.内のHiHi Jetsというチームの一員。
HiHi Jetsは、ローラースケートで踊ったりもするグループですが、
まだCDデビューはしていません。
でも近頃それぞれのメンバーがいろいろなドラマや映画によく顔を出しています。
今後の成長株。
ということで、先日「ヴィレッジ」の映画にも出ていた作間龍斗くんは、
また私の推しの一人となりました・・・!

 

<WOWOW視聴にて>

「ながたんと青と-いちかの料理帖-」

※TVドラマ 30分×10回

監督:松本壮史

原作:磯谷友紀(コミック)

出演:門脇麦、作間龍斗、中村蒼、戸川恵子、久間田琳加、白石隼也

胸キュン度★★★★☆

戦後の女性成長度★★★★☆

満足度★★★★★


劇場版TOKYO MER 走る救急救命室

2023年05月12日 | 映画(た行)

喜多見チーフは百人力

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おなじみのTVドラマの劇場版。
私ももちろんTVドラマを楽しく拝見していましたので、これは見逃せません。
そして、TVドラマファンの方なら実においしい作品となっています。

横浜のランドマークタワーで、大規模な爆発事故が発生。
東京都知事直轄の救命医療チーム「TOKYO MER」も出動します。
しかしそこには、厚生労働大臣により新設された
エリート集団「YOKOHAMA MER」も出動しています。

TOKYO MERのチーフ、喜多見(鈴木亮平)は、
「一刻も早く現場へ向かうべき」と主張しますが、
YOKOHAMA MERの鴨居チーフ(杏)は、
「安全な場所で待っていなくては、救える命も救えなくなる」主張し、
対立してしまいます。

そしてなんと、ランドマークタワーの最上階には、
喜多見の身重の妻・千晶(仲里依紗)がいることが判明。
そこには他にも多くの人々が行き場を失って閉じ込められています。

果たして彼らは多くの人々や喜多見の妻を無事救い出すことができるのか・・・?

例によって、普通に救急救命の役割を果たすことだけではなくて、
政治的な思惑や駆け引きがあって、なかなか一筋縄ではいきません。
そしてまた厚生労働省・音羽(賀来賢人)の立ち位置も、微妙です。

そんなわけで、たっぷりの緊張感に包まれます。
でもまあ、そこに喜多見チーフが現れさえすれば、
もう大丈夫・・・と安心感がこみ上げてきてしまう。
まさに、喜多見チーフは百人力です!

本作の予告編で、おっそろしいシーンがあったではありませんか。

千晶は臨月を迎えていて、この事態でいよいよ産気づき、
炎に巻き込まれそうになる。
そこへようやくたどり着いた夫に「赤ちゃんだけなら助けられるから」と言って、
夫に帝王切開をするようにと言うシーン。
それは詰まるところ、母体の方はあきらめろと言っているわけで・・・。

それじゃあ、最後の決まりセリフ「死者ゼロ!」にはならないのでは・・・と、
私は思っておりまして。
さあ、ここで喜多見がどのような決断を下すのか。
お楽しみ~。

あの炎に巻き込まれて、助かるのか???と、若干疑問には思いましたが、
まあ、満足のいく終わり方ではありました。

 

<シネマフロンティアにて>

「劇場版TOKYO MER 走る救急救命室」

2023年/日本/128分

監督:松木彩

脚本:黒岩勉

出演:鈴木亮平、賀来賢人、中条あやみ、佐野勇斗、ジェシー、菜々緒、杏、仲里依紗

 

緊迫度★★★★☆

使命感度★★★★★

満足度★★★★☆

 


RUN ラン

2023年05月10日 | 映画(ら行)

献身的で信頼できる母が・・・

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郊外の一軒家で、母ダイアン(サラ・ポールソン)と二人で暮らすクロエ(キーラ・アレン)。

クロエは生まれつきの慢性の病気により、体が弱く、車椅子での生活を送っています。
でも、前向きで好奇心旺盛なクロエは、
大学への進学を望み、今、自立しようとしているところ。
そしてクロエの体調や食事を管理し、後押ししてくれる母、ダイアン。

しかし、最近母が差し出す薬にクロエは違和感を覚えます・・・。

少し前に見た作品「MOTHER」同様に、
これはグレートマザーすなわち「毒母」を描くホラー作品なのでした。

しかし、ダイアンは表向きそれとは全く違って、実に献身的でやさしい母なのです。
一番身近でやさしく、信頼できるはずの母。

ところがその母が隠し持っていた悪意・・・! 
いえ、本人にとっては悪意ではないのでしょう。
いつまでも娘を手の届くところに置いて、そのすべてを掌握しなくては気が済まない、
自分の意に反することは少しでもさせたくない・・・。
自分の支配下にあって過ごすことこそが娘の「幸せ」だと心底思っている・・・。

このことは、クロエが生まれたときに端を発するのです。
クロエは瀕死の状態で生まれたので・・・。
がしかし、それにも衝撃の事実が隠されていたのでした。

 

クロエの抱えている病が凄まじいのです。
不整脈、喘息、糖尿病、そして足のマヒ・・・。
毎日大量の薬を飲みます。
でもそれは本当に「正しい」薬なのか?

終盤、クロエは自室に監禁状態となってしまうのですが、
車椅子での生活は、通常の室内がとてつもない障害だらけの場所に変貌します。
しかしあきらめない強い心を持つクロエの健闘が、実に涙ぐましい。

恐くて壮絶なドラマでした。

 

「RUN ラン」

2020年/アメリカ/90分

監督:アニーシュ・チャガンティ

出演:サラ・ポールソン、キーラ・アレン

 

毒母度★★★★★

恐怖度★★★★☆

満足度★★★.5


銀河鉄道の父

2023年05月09日 | 映画(か行)

やさしい悲しみに満ちている

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門井慶喜さんの直木賞受賞作の映画化。
私は原作をとても面白く読みまして、
しかも本作は宮沢賢治を菅田将暉さんが演じるということで、これは見逃せません!

岩手県で質屋を営む宮沢政次郎(役所広司)の長男、賢治(菅田将暉)。
家業を継ぐ立場ですが、賢治はそれを拒み、学校卒業後は農業大学へ進学。
人工宝石の製造を夢見たり、宗教に傾倒したり、我が道を突き進みます。
政次郎は厳格な父でありたいと思いながらも、つい甘やかして許してしまう。

やがて、妹のトシ(森七菜)が病で寝込むようになり、
それをきっかけに賢治は物語を書き始めます・・・。

かの宮沢賢治の話なのですが、本作は父・政次郎の視点で描かれているところがミソです。

原作は宮沢賢治の伝記ともいえるくらいに
詳しいいきさつが描かれていたかと思うのですが、
本作は賢治の細々した事情を省き、父と子の有り様を中心に描かれています。
そしてそこがみごとに成功。
約2時間という枠の中で、エピソードを詰め込みすぎずに、
賢治と父の絆のエッセンスを凝縮して現していると思います。

親バカ全開の父。

真面目なバカ息子。

そしてしっかり者の妹。

当時としては豊かな家ではあるのですが、
それはそれで、自分のやりたいことができない不自由さに、がんじがらめになっている。
そしてまた、当時の医学ではどうにもならない病。

基本、悲しい出来事の続く物語ですが、
ちょっとユーモラスでもある父と息子のありようがやさしく胸に迫ります。
全編が「やさしい悲しみ」に満満たされているような気がしました。

それは、私が宮沢賢治を知っている(そう、深くはないけれど)からかも知れませんが、
菅田将暉さんと役所広司さんが並び立っているからこその雰囲気なのではないかと・・・
そんなすごさを感じました。

<シネマフロンティアにて>

「銀河鉄道の父」

2023年/日本/128分

監督:成島出

原作:門井慶喜

脚本:坂口理子

出演:役所広司、菅田将暉、森七菜、豊田裕大、坂井真紀、田中泯

やさしい悲しみ度★★★★★

満足度★★★★★


「街とその不確かな壁」村上春樹

2023年05月08日 | 本(その他)

自分とは・・・、影とは・・・

 

 

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村上春樹、6年ぶりの最新長編1200枚、待望の刊行!

その街に行かなくてはならない。
なにがあろうと
――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、
封印された“物語”が深く静かに動きだす。
魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。

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村上春樹さんの、6年ぶりの新刊。
村上春樹ファンであれば、すぐにピンとくるでありましょう、
「壁に囲まれた街」が出てきます。

そう、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」ですね。
私が読んだのは、村上春樹さんを読み始めて間もない頃。
実のところ詳しい内容は忘れてしまっていますが、
この「街」のことは、さすがに印象深く残っています。

 

 

ぼくときみは、17歳と16歳の時に出会います。

きみが「高い壁にかこまれた街」の話をしはじめて、
ぼくときみはそこがどんなところか、空想を広げて語り合う。
ぼくときみは明らかに互いに好意を持っていたけれど、
キスをしただけで、それ以上の関係にはならなかった。
ところがある時、きみは消息を絶ってしまう。
連絡も取れず、どこへ行ってしまったのかも分からない。

その後わたしは喪失感を抱えたまま生きていくのですが、
45歳のある日、気がつくと壁の街の門の近くにいたのでした・・・。

わたしは壁の街の門衛に影を引き剥がされ、目を傷つけられて、
壁の街の図書館で「古い夢を読む」仕事に就きます。

そうして淡々と同じことを繰り返す日々が過ぎて・・・。
引き剥がされた影が、まもなく命を引き取ろうとしていることを知ったわたしは、
影を元の世界に逃がそうとする・・・。

 

 

わたしと影との関係が問題ですね。
壁の街とはすなわち、自己の無意識の世界のことなのかな?
と想像はつきます。
現実世界に現れている自分は、海に浮かぶ氷山のように、
ほんの一部が姿を現しているだけで、
その深部には膨大な無意識の世界が広がっている・・・。

「自分」というのはその見えている部分なのか、
それとも奥底の見えない部分なのか。
どちらが本体で、どちらが影なのか、ということでもあります。

 

ところで、この文を書くに当たって少し始めの方を読み返してみると

「本当のわたしが生きて暮らしているのは、高い壁に囲まれたその街の中なの。
今ここにいるわたしは、本当のわたしじゃない。
ただの移ろう影のようなもの」

ときみが言っています。

そう、始めから答えは出ているのですよね。
だから、決死の覚悟でわたしが「影」を元の世界に逃がした結果、
なぜかわたしも元の世界にはじき返されてしまうわけですが、
いやいや、つまり「第2部」で、福島の図書館で働くことになるわたしというのは・・・。

 

でも作中ではこうも言っています。

実体としての自分と影とは一体で、どちらが本物ということはない。
というよりも、双方合体しているものこそが本物なのでしょう。

わたしは最後の最後に「真の自分」になろうとする、ということなのかも知れません。

 

 

不思議な「壁の街」、村上春樹ワールドを旅した、私のゴールデンウィークでした!

 

「街とその不確かな壁」村上春樹 新潮社
満足度★★★★★


愛なのに

2023年05月07日 | 映画(あ行)

一方通行の愛の果て

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古本屋の主である多田(瀬戸康史)。
ある日、店に通う高校生・岬からいきなり求婚されてしまいます。

多田は、忘れられない女性がいることを理由にことわります。
その、多田が忘れられない女性・一花(さとうほなみ)は、
目下、婚約者との結婚の準備に追われています。
そしてまた、その婚約相手の亮介(中島歩)は、
ウェディングプランナーの美樹と男女の関係になっている・・・。
さて、この一方通行の愛の交差した関係は、どのように行き着くのか・・・?

全体に大人の風味ではありますが、
岬のパートはさすがに女子高生なので、ピュアです。

いきなり「結婚して」とは言ったものの、
彼女はそういう体の関係を望んでいるのではなくて、
いつも共に近くにいたいと思う、そういうことを指しているのです。

そしてもちろん多田も、女子高生に手を出すつもりもなく、
結婚を承知したりもしません。
ごくまっとうな成人男子なのであります。
30歳くらいとしても古書店の主としてはかなり若いですし、
私でも瀬戸康史さんが店番をしていたりしたら、
「結婚してください」と言いたくなるかも・・・。

まあそれはともかく、ここの部分まではピュアなラブストーリーかと思ったのですが、
一花と亮介の部分で一気に生臭い話になっていきます。

二人がお世話になっている結婚式場のウェディングプランナーの女性と、亮介ができている・・・。
ひどすぎる裏切りです。
しかしその女性の方はこんなことには慣れっこで、
単なる遊びと割り切っているのです。

このことを気づかないままならよかったのですが、
ある時一花は知ってしまった・・・。
この婚約者の裏切りをどうしようか・・・と、
一花は複雑な思いのはけ口を探すのです。

人を思う「愛」と、体のつながりとは、結局別物であるらしい。

それはやはり一対一の、人と人との関係性の中で築かれていくもの。
その愛のあり方も様々。
答えはないのかも知れませんね。

 

<Amazon prime videoにて>

「愛なのに」

2022年/日本/107分

監督:城定秀夫

脚本:今泉力哉、城定秀夫

出演:瀬戸康史、さとうほなみ、河合優実、中島歩、毎熊克哉

 

愛の一方通行度★★★☆☆

満足度★★★.5


サイドバイサイド 隣にいる人

2023年05月06日 | 映画(さ行)

静かにやさしくそばにいて

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末山(坂口健太郎)は、田舎の町で
恋人の詩織(市川実日子)とその娘・美々と穏やかに暮らしています。

末山には不思議な力があって、彼にはそこに存在しない「誰かの思い」を見ることができるのです。
それで、時には傷ついた人々の心身を癒したりもする。

そんなある日、末山は自分の近くに謎の青年の姿が見えるようになります。
末山は彼の思いをたどり始めます。

なんとそれは、亡くなった人の幽霊ではなくて、生きている実在の人物。
末山の高校時代の後輩で、ミュージシャンとして活躍する草鹿(浅香航大)でした。
草鹿は、とある女性の元へ末山を連れて行きます・・・。

とても静謐で、不思議な作品。

始め末山の横にじっとたたずむ青年は、絶対に幽霊だと思ってのですが、
なんと生き霊でした!! 
彼にはよほど末山に伝えたいことがあったのです。
そんないきさつで、末山はモトカノ、莉子(齋藤飛鳥)の元にたどり着く。

しかし驚くべきは、詩織さんの懐の深さ。
彼女は弱り切った莉子をも自宅に招き、共に住もうというのです。

なんの気負いもなく家事や美々の面倒を見る末山。
近所の人々の困りごとにも寄り添います。

そして、末山とそのモトカノとの共同生活に、
負の感情をみせず淡々と日常を送る詩織。
誰にでも人なつっこくて、ちょっぴり鋭いところものぞかせる美々。

静かなやさしさに満ちた、独特な雰囲気のある作品。
そしてまた、ラストが意外!!

イカします。

<サツゲキにて>

「サイドバイサイド 隣にいる人」

2023年/日本/130分

監督・脚本:伊藤ちひろ

出演:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、市川実日子、井口理

 

静謐度★★★★☆

やさしさ★★★★☆

満足度★★★★☆

 


アフター・ヤン

2023年05月04日 | 映画(あ行)

ロボットの心と命

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人型ロボットが一般家庭までに普及した近未来。
茶葉の販売店を営むジェイク(コリン・ファレル)と
妻・カイラ(ジョディ・ターナー=スミス)、
そして幼い養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャーヤ)の暮らす家で、
ミカの世話役として一体の中古ロボット・ヤン(ジャティン・H・ミン)を購入しました。

家族はまるで家族のようにヤンと共に過ごしていきます。
が、ある日突然ヤンは故障し、全く動かなくなってしまいます。
ヤンを兄のように慕っていたミカは失望を隠せません。

ジェイクはヤンをなんとか修理したいと思うのですが、とても難しい状態。
しかし、ヤンの体内に、毎日数秒間の動画を撮影し記録できる
装置が組み込まれていたこと知ります。

それはいわばヤンの視点の記録。
家族に向けられたヤンの柔らかなまなざしがよみがえりますが、
それと同時に、かつてヤンが巡り会った若い女性の姿もあって・・・。

誰が見てもそれは「愛」のまなざし。
ヤンはロボットでありながら、人への「思い」を
何なのか分からないままに「生きて」いたのでしょうか・・・。

機械ではあっても、人間同様の思考能力があれば、
自ずと「感情」も生じるものなのでしょうか・・・。

ちょっと謎めいて、ロマンティックでもあるヤンの人生(?)を思ってしまいます。

ここの家族は夫妻が西洋人と黒人、そして東洋人の娘。
そして、ロボットと他には「クローン」という存在もいます。
クローンは若干「人」から差別を受けているらしい。
実に多様性のるつぼ。

こんな中で、ロボットの立ち位置はもちろん最底辺なのですが、
こんな風にロボットの感情が喜怒哀楽のほかに、
「愛」すらも認められるようになっていけば、
状況は変わっていくのかも知れません。

<Amazon prime videoにて>

「アフター・ヤン」

2022年/アメリカ/96分

監督・脚本:コゴナダ

原作:アレクサンダー・ワインスタイン

出演:コリン・ファレル、ジャティン・H・ミン、ジョディ・ターナー=スミス、
   マレア・エマ・チャンドラ、ウィジャーチャンドラ

多様性度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ザ・ホエール

2023年05月03日 | 映画(さ行)

分かってはいるけれど、止められない

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40代チャーリーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、
過食と引きこもりを続け、過度の肥満体となってしまい、
もはや自力では歩くこともできず、心不全の症状も悪化してきています。

チャーリーは、アランの妹で看護師のリズに助けられながら、
オンライン授業の講師として生計を立てています。
そしてまた、病院へ行くことはかたくなに拒否。
死期が近いことも悟っています。

そしてチャーリーは8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた
娘・エリーを呼び寄せますが、彼女は学校生活や家庭に問題を抱えていて・・・。

 

舞台はほとんど、外出もできないチャーリーの室内のみ。
ということで気づいたとおり、これはもともと舞台劇なんですね。
そこを訪ねてくる人々とのやりとりで、ストーリーが進んでいきます。

看護師のリズは亡くなったというアランの妹であったことは中盤に明かされて、
なるほど、それでこんなにもチャーリーのことを気にかけているのかと、納得。

そして、宗教活動のためにここを訪ねてくる青年トーマス。
彼が熱心に勧める宗教は、実はアランの信じていたものでもあった、
というところがミソです。

そして娘・エリーは、長く会っていなかった父の変貌した姿に驚き、嫌悪を隠せません。
でも心がささくれ立っている彼女にいま、必要なものがある・・・。

また、チャーリーのオンライン授業では、チャーリーは自分の画像を受講者に見せません。
この姿を見たら、受講者はあきれて逃げ出すだろうと思う。
・・・確かにそうですよね。

自力で立ち上がれないほどの肥満・・・。
なぜそこまでになってしまったかと言えば、やはり愛する人の死。
しかもそのことに自分が無関係とは思えない。
そしてその愛のために、捨てた家族のこと・・・。
喪失感。孤独感。罪悪感。
これは極めて長い期間を見据えた一種の「自殺」であるのかも。

見た目は怪物になってしまったチャーリーだけれども、心は愛情深く人を見つめている。
人間とは不思議な生き物であります・・・。

超肥満体に扮するブレンダン・フレイザー。
全く、言われないと誰だか分からない。
もちろん特殊メイクではありますが、すごかったです・・・。

 

<サツゲキにて>
「ザ・ホエール」

2022年/アメリカ/117分

監督:ダーレン・アロノフスキー

原作:サム・D・ハンター

出演:ブレンダン・フレイザー、セイディーシンク、ホン・チャウ、サマンサ・モートン、タイ・シンプキンス

 

肥満度★★★★★

満足度★★★☆☆


「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢

2023年05月02日 | 本(その他)

トホホな人生が浮かび上がる歌

 

 

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誰にでもあるこんなトホホ、あんなトホホ。

でも、ここにあるのは、とびきりのトホホ。

――あなたに明日笑ってもらうために、世界の片隅で、僕の不幸をつぶやいてみました。

“歌人芸人"による、フリースタイルな短歌とエッセイ。

穂村弘さん、俵万智さん、板尾創路さん絶賛!

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北海道出身のお笑い芸人、岡本雄矢さんの歌集&エッセイ集です。

本の題名がもうそのまま短歌となっていて、

・全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割

と言うのには思わずクスリとなってしまいます。
それで思わずつられて手に取ってしまったこの本。

 

こんな感じです。

・あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです

・星空が綺麗なことで有名な露天風呂でのすごい曇天

・さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前

・趣味 君のLINEを見返すこと 特技 君から返事が届かないこと

 

作品を読むうちに、
真面目で実直に生きていて、だけれどなんだかトホホな人、
そんな人物像がくっきりと浮かび上がってきます。
そしてそれは私たち多くの人々が持っているものと同じでもありますね。
だから共感を呼んで、好きになってしまいます。

 

一番好きなのはやはり表題の一首。

サラダバーとかビュッフェ形式の食事でもそうですけれど、
皆一斉に席を立ってしまうと、荷物が心配。
それでつい、特に指名されたわけでもないけど、留守番役を引き受けてしまう。
でも、それでものすごく感謝されることもない・・・。
作中のエッセイでは、感謝されるどころか、
「なんで取りに行かないの?」と聞く人までいる、というように書かれていましたが・・・。

確かにいますよねえ、わざわざ損な役回りを引き受けてしまう人。
そうした一場面を実にうまく切り取って、
自分の性格や社会的位置までそれとなく示してしまうという、秀逸な歌であります。
でも悲惨ではなくて、ちょっと笑えてしまう所もいい。

続編も楽しみにしていますよ。

 

「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢 幻冬舎

満足度★★★★☆


シュアリー・サムデイ

2023年05月01日 | 映画(さ行)

ダメな5人組・・・

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先日とあるテレビ番組で、鈴木亮平さんがまだ駆け出しの頃に
小栗旬さんが映画初監督作品を作るおりに、
声をかけられて出演したという本作の話があり、興味を持ちました。
2010年作品です。

高校でバンドを組む5人組が、文化祭中止に抗議するため爆破予告をします。
本気ではなかったものの、仲間の一人が本物の爆薬を仕掛けたために、
事故になってしまいます。
その責で、5人は高校中退。

その3年後。
それぞれ行き詰まり中途半端な毎日を送る5人。
ところが真のことの発端は、実は10年前、
彼らの少年時代の出来事にあったことが分かってきます。

少年時代から仲のよかった5人。
巧少年は、父の持つ怪しいピンクサロンの紹介記事の中に、
一人丸印の付いた女性がいて、その女性に会うために5人でその店に行くのです。
そこで出会った女性とは・・・。
そして、10年前の「出来事」とは・・・。

 

この5人組というのが、こうです。

警察を退職し、バーを始めた父の店を手伝う巧(小出恵介)

大検を受けて、辛くも3流大学に進学した京平(勝地涼)

組長から預かった車と3億円を盗まれ、その不手際のために命を狙われる和生(鈴木亮平)

高校の事件のすぐあとに父が自殺し、その後引きこもりとなってしまった雄喜(ムロツヨシ)

高校時代のバンドの夢が忘れられず、路上ミュージシャンを続ける秀人(綾野剛)

10年前の5人の少年時代、3年前の高校生時代、
そして現在の出来事が絡まり合い、
次第に一つの筋が浮かび上がっていくのが実に心地よい!!

周囲の人たちの変化もまた、彼ら5人とは無関係でなかったことが分かります。
ダメ男のままではいられない。
なんとか頑張って変わらなければ、
という5人の心意気、それぞれの個性。
なんともステキな作品でした。

 

鈴木亮平さんのみならず、綾野剛さんもまた駆け出しの頃だったのでは?
そういう面々を見られることがなんとも嬉しいですし、
しかも、巧の小学生時代を演じている少年が、
うわ、美少年!と思ってよく見ると、
なんと北村匠海くんでした!!(ヤバい!)

 

・・・というわけで、スゴイお気に入り作品にして、オススメです。

 

 

「シュアリー・サムデイ」

2010年/日本/122分

監督:小栗旬

出演:小出恵介、勝地涼、鈴木亮平、ムロツヨシ、綾野剛、小西真奈美、吉田鋼太郎、北村匠海

 

伏線度★★★★★

フレッシュ度★★★★☆

満足度★★★★★