映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「やがて満ちてくる光の」梨木香歩

2023年07月13日 | 本(エッセイ)

自然と向き合って

 

 

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作家として、旅行者として、そして生活者として
日々を送るなかで、感じ、考えてきたことーー。
読書に没頭していた子ども時代。
日本や異国を旅して見た忘れがたい風景。
物語を創作するうえでの覚悟。
鳥や木々など自然と向き合う喜び。
未来を危惧する視点と、透徹した死生観。
職業として文章を書き始めた初期の頃から近年までの作品を集めた、
その時々の著者の思いが鮮やかに立ちのぼるエッセイ集。

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梨木香歩さんの新旧エッセイを凝縮した貴重な一冊。
私、やはり梨木香歩さんの自然と向き合って物事の本質を見極めるような、
そんなエッセイにいつも心惹かれるのであります。

 

★生まれいずる、未知の物語

キノコは目に見えない「菌糸」として繋がり合っているのがスタンダードな状態で、
たまたま何かの異常事態で外に出てきたのが「キノコ」。
人間も同じで、死ぬということも、キノコがまた菌糸に戻るように、
また「ひとつ」に戻っていくことかも知れない。

・・・生物が歳をとると、なんとなく輪郭がぼやけていくような気がする。
クリアな個から、だんだんぼやけていって、
「ひとつ」になる準備をしているのかな、と。

著者は「境界」のことをよく口にしますが、これもそんな話と繋がっているのかも知れません。
自己と他者の境界が次第にぼんやりとして、一つになっていくのが死なのだ、と。
なんだかそう考えると「死」もなかなか豊穣であるような気がする・・・。

 

 

★記録しないと、消えていく『家守綺譚』朗読劇講演

かなり前の話だと思われるのですが、著者が『家守綺譚』の朗読劇を鑑賞したときの話。
その時の演者が佐々木蔵之介さん、市川亀治郎(現・四代目市川猿之助)さん、佐藤隆太さんの三名。

著者はこのとき、舞台が次元の違う深みへと醸成されるような、
ものすごい奇跡の瞬間を見て、いたく感銘を受けたというのです。
それは、その舞台と役者、天候や観客の意識など
あらゆる要素が絡んで生み出した奇跡の瞬間であった、と。
ここに猿之助さんの名前が出てきたのにもビックリ。
もう戻ってはこないのでしょうか・・・。

 

★永遠の牧野少年

今、NHK朝ドラのモデルとなっている牧野富太郎氏の話であります。
氏の半生はまあ、およそドラマで見ていた通りなのですが、
その先のところで驚いた!!

彼の妻は、苦労続きで13人も子供を産み、
食うに困ってとうとう「待合」まで始めてひたすら彼の研究を支え続けた、とあります。
待合などとずいぶんふんわりとした表現ですが、
やはりちょっと怪しげな、そういうことですかね。
さて、ドラマではどうなるのか分かりませんが、
子供13人って、そこまでひどいとは思わなかった・・・。

夜寝る暇もなく研究していたようだけれど、やることはやっていたわけね・・・。
いやあ、なんというか、牧野富太郎氏は尊敬すべき人物と思っていましたが、
フェミニズム立場からは、ちょっと夢が覚めた感じです・・・。

 

★風の道の罠―――バードストライク

知らなかった意外な話。

風力発電の大きなプロペラは、再生可能エネルギーの代表格のように思っていたのですが、
オジロワシなどがぶつかり翼をもがれるなどの事故、
すなわちバードストライクが多発しているというのです。
そもそも風力発電施設は風の通り道に作る物。
そこは猛禽類などさまざまな鳥たちが風の力を利用して通る道でもある。

人の都合で作った物が鳥たちの大きな脅威になっているというのは、なんとも残念な話です。
なんとかこの脅威を減らす方向で研究が進むといいなと思います・・・

 

・・・と、色々と示唆に富む梨木香歩さんのエッセイは、
やはり今後も大切に読みたいと思います。

「やがて満ちてくる光の」梨木香歩 新潮文庫

満足度★★★★☆


MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

2023年07月12日 | 映画(ま行)

何度も繰り返せば、自ずと・・・

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小さな広告代理店に勤める吉川朱海(円井わん)。
憧れの人のいる大手広告代理店への転職を目指しながらも、仕事に追われる日々。

ある月曜の朝、後輩2人組から
自分たちが同じ一週間を何度も繰り返していることを知らされます。
他の社員たちにも、1人ずつタイムループのことを説明し理解してもらいますが、
ループ脱出の鍵を握る永久部長(マキタスポーツ)だけが
いつまで経っても分かってくれません。

どうにか部長に気づかせてタイムループから抜け出すべく、悪戦苦闘する社員たち・・・。

とても特殊な設定のタイムループ。

何度も同じ一週間を繰り返していることは、本人が特に意識しなければ、
まるで夢を見たように前の一週間のことが記憶から消え去り、忘れてしまうのです。
だから同僚にいきなり自分たちが「同じ一週間を繰り返している」と言っても、
何をバカなことを・・・と思われて、信じてもらえない。
それを信じてもらうために、先に起こることを言い当てたりして、
証拠を示していきます。

回りくどく、1人ずつこの状況を理解してもらうのは、
最終的に部長にもの申すことのできる人に順番にたどり着くため。

というと、部長は頑固で融通の利かない人物かと思えば、
そうではなく、部下思いのまっとうな上司。

まあとにかく吉川たちは、仕事の締め切りを抱えててんやわんや、
家にも帰らず泊まり込んで仕事をし続けるような一週間を繰り返していたのですが、
何度も同じことを繰り返すうちに、
クオリティの高い仕事を素早く仕上げるようになっていきます。
そして何よりも、チームワークができあがる。

タイムループというSF的テーマでありつつ、
しっかりとしたお仕事ドラマになっているのがなんともシャレているのです。

部長が持っているタイムループ脱出の鍵が、二重仕掛けになっているのも、うまい!!

 

面白いです!!

 

<WOWOW視聴にて>

「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」

2022年/日本/82分

監督:竹林亮

脚本:夏生さえり、竹林亮

出演:円井わん、マキタスポーツ、長村航希、三河悠冴、八木光太郎

 

タイムループ循環度★★★★☆

お仕事ドラマ度★★★★☆

満足度★★★★☆


偽りのないhappy end

2023年07月11日 | 映画(あ行)

ハッピーエンド???

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中学卒業後、故郷の滋賀を離れ上京したエイミ(鳴海唯)。
滋賀で暮らしていた母が亡くなり、エイミは
妹のユウ(河合優実)に東京での生活を勧めます。
ユウははじめ拒んでいましたが、なぜか急に東京へ来ることを決め、
引っ越してきます。
しかし、越してきてまもなく、行方不明に・・・。

そんな中、エイミは同じく妹が行方不明となっているヒヨリ(仲万美)と出会います。

やがて地元の琵琶湖で若い女性の遺体が見つかったとの警察からの連絡を受け、
エイミは琵琶湖へ。
ところが、その遺体はユウではなく、ヒヨリの妹だったのです・・・。

実はエイミが中学を出て東京へ行き、
その後ほとんど実家へは戻っていなかったことには理由があったのです。

それは彼女にとって決して忘れることのできない苦い自分の行動の記憶。
それを思い出したくないから東京で暮らしているのだけれど、
実は自身が東京に居続けることで逆に忘れがたいことになってしまっているのかも知れません。
その記憶と密接に絡んでいる「携帯電話」を、エイミはいまだに持つことができない・・・。

そんなわけで、実質自分の悩みに囚われているエイミは、
妹のことなどこれまで考えたこともない。
何が好きで、どんなバイトをしているのか、友人関係は? 
そしてまたどんな将来を思い描いているのか・・・?

 

一方、エイミよりよほどしっかりしていて大人びているように見える妹、ユウ。
彼女はエイミは自分のことを何も知らないとなじるのですが、
いやいや、ユウも実は姉のことを何も分かっていないのです。
どうして上京したっきり戻ってこなかったのか。

エイミとユウの理解し得ない姉妹関係は、
そのままヒヨリと彼女の妹との姉妹関係と重なるのです。

そして、エイミもヒヨリもあまりにも妹と関わろうとせず
分かろうともしなかった自分自身を責め、気持ちは常軌を逸していく・・・。

 

ハッピーエンドと呼ぶにはあまりにも苦い物語。

 

<WOWOW視聴にて>

「偽りのないhappy end」

2020年/日本/97分

監督・脚本:松尾大輔

出演:鳴海唯、仲万美、河合優実、田畑志真

 

姉妹の断絶度★★★★☆

満足度★★★☆☆


インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

2023年07月10日 | 映画(あ行)

インディよ、永遠なれ

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ハリソン・フォード80歳にして15年ぶりの「インディ・ジョーンズ」シリーズ新作。
まさかこんなことはないかと思っていましたが・・・。

時は人類が月に降り立った1969年。
考古学者で冒険家のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)、大学教授引退の日。
ヘレナ(フィービー・ウォーラ=ブリッジ)という女性が現れ、
インディが若き日に発見した伝説の秘宝「運命のダイヤル」の話を持ちかけます。
それは、人類の歴史を変える力を持つといわれる究極の秘宝。
今は不完全な形で保存されているそれを、
失われたピースを探して完全な物にしようというのです。

そうしていつものごとく波瀾万丈、ハラハラドキドキの冒険に巻き込まれてしまうインディ。
因縁の宿敵、元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)を相手に、
秘宝の争奪戦を繰り広げます。

 

息子を亡くし、妻とも離婚寸前。
孤独に老境に入るインディは燃え尽きたようにも見えたのですが、
いやいや、かつての活力を取り戻していきますよ。

さすがに本作がこれまでの集大成という意識を持って作ったのでしょう。
陸上はもちろん、海の中も、空中も、自在に駆け回る。

私が今回お見事と思ったのは、街中、宇宙飛行士のパレードの最中に乗馬で疾走するインディ。
そしてそのまま地下鉄の構内にまで入っていくという、すばらしいシーンでした。
お馬さん、ご苦労様であります!

この頃、インディの学生たちはさして考古学に興味を持たず、
時節柄宇宙や未来に興味を向けているわけです。
インディのかつての活躍も過去のものとなり、今や去り行く人物・・・
そんな境遇の意趣返しとしてのシーンですね。

疾走する列車の上での決闘シーンなども、今となっては定番ではありますが、イカします。

宿敵、フォラーがマッツ・ミケルセンというのも、
相手にとって不足無し。
ナイスなキャスティングです。

そして、この度の秘宝、「運命のダイヤル」
(「アルキメデスの羅針盤」という言い方の方が私は好きだけれど)
の秘密は、なんともスゴイ! 
これぞ考古学者にとってはこの上ない夢のアイテムではありませんか。
こうした設定も気に入っています。

そして、最初の方、第二次世界大戦終焉間近の若き日のインディが登場しますが、本当に若い。
どうやって撮ったの???と思いましたが、
これまでの映像を合成して作ったそうです。
今や、AIとCGで、どんな映像も作り出すことができるわけで、
ハリソン・フォードの亡き後にも新作ができかねないですね・・・。
それがいいのかどうか分からないけれど。

まあとにかく、興味深く拝見しました。

 

<シネマフロンティアにて>

「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」

2023年/アメリカ/154分

監督:ジェームズ・マンゴールド

出演:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラ=ブリッジ、アントニオ・バンデラス、マッツ・ミケルセン

 

ありったけつぎ込み度★★★★★

満足度★★★★☆

 


よだかの片想い

2023年07月09日 | 映画(や行)

コンプレックスとアイデンティティ

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理系の大学生、前田アイコ(松井玲奈)は、顔の左側に大きなアザがあります。
そのために人間関係や自己形成に複雑な影響を受けているアイコは、
恋や遊びはあきらめ、研究一筋に打ち込む毎日。

ところがある日、「顔にアザや怪我を負った人」の
ルポタージュ本の取材を受け、話題となります。
そして、その本を映画化したいという映画監督・飛坂(中島歩)と会うことになり、
次第に彼の人柄に惹かれていきますが・・・

題名の「よだか」は、宮沢賢治の「よだかの星」から来ていて、
そこでよだかはたいそう醜い鳥とされているのです。
そこで大きなアザのあるアイコが、よだかを自分と重ね合わせてもいるのでしょう。

自分の生まれついての顔のことで、それはそれとして受け入れているけれども、
人からかわいそうだとか哀れみの視線を受けるのがイヤだと彼女は思っているのです。

そんなことは特に大きな問題ではなくて、アイコをアイコ自身として受け入れてくれる人々、
例えば研究室内の人々や、先輩、そして飛坂とともにいるときに、
アイコは安らぎを感じるのです。

だからまっすぐに自分を見つめてくれる飛坂を好きにならない方がおかしいですよね。

しかーし、確かに飛坂は実にイイ奴なのだけれど、
仕事熱心なあまり、恋人を大事には扱わない。
もしかすると、映画化を承諾させるために自分と付き合ってくれているのかな・・・?
とそんな疑問も湧き出てしまうアイコ。
そしてまた、飛坂のモトカノの登場で、アイコは平常ではいられなくなってしまう・・・。

自分の持つコンプレックスと、自分が自分らしく在ること、
その二つが葛藤するドラマなのでしょう。
あの「よだか」が、鷹に「名前を変えなければ殺す」といわれるのだけれど、
名前こそが自分自身の証であるわけだから、
よだかは名前を変えようとはしないわけなんですね。

手術でアザを消すことができると言われたときのアイコの迷いと、
ここは重なります。

貴重な物語でした。
あ、原作が島本理生さんなので、物語はよくて当然。

青木柚さん演じるアイコの後輩くんがステキでした。
なんて淡々とした愛情表現。
でも、そういうのもアリだよなあ・・・と。

 

<WOWOW視聴にて>

「よだかの片想い」

2021年/日本/100分

監督:安川有果

原作:島本理生

脚本:城定秀夫

出演:松井玲奈、中島歩、藤井美菜、青木柚

 

自己発見度★★★★☆

満足度★★★★☆


「八月の銀の雪」伊与原新

2023年07月07日 | 本(その他)

科学と人

 

 

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「お祈りメール」の不採用通知が届いた大学生は、焦りと不安に苛まれていた。

2歳の娘を抱えるシングルマザーは、「すみません」が口癖になった。

不動産会社の契約社員は、自分が何をしたいのか分からなくなっていた……。

辛くても、うまく喋れなくても、
否定されても邪慳にされても、
僕は、耳を澄ませていたい
――地球の中心に静かに降り積もる銀色の雪に。
深海に響くザトウクジラの歌に。
見えない磁場に感応するハトの目に。
珪藻の精緻で完璧な美しさに。
高度一万メートルを吹き続ける偏西風の永遠に――。

科学の普遍的な知が、傷つき弱った心に光を射しこんでいく。
表題作の他「海へ還る日」「アルノーと檸檬」「玻璃を拾う」「十万年の西風」の傑作五編。

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先に、「月まで三キロ」の作品で強い印象を残した伊与原新さんの新たな短編集。

前巻同様、一篇ごとにこのような何かしら科学的なエピソードが語られ、
それと人々の人生模様がうまく絡まって描かれているのです。

 

表題作、「八月の銀の雪」では、就職の面接で落ちまくっている堀川が
とあるコンビニのレジでバイトをしている外国人女性と知り合うようになります。
コンビニ店員としては使えなく思える彼女、ベトナム人のグエンですが、
実は大学院で地球物理学を学んでいるのです。
彼女が研究しているのは地球の芯のこと。
誰も実際にそこを見たものはいない。
だから様々なことから検証していく。

堀川は、人間の中身も、地球と同じ層構造なのかも知れないと思います。
硬い層があるかと思えば、その内側にもろい層。
冷たい層を掘った先に、熱く煮えた層。
そんな風に幾重にも重なっている・・・。

地球の芯のところで、鉄の雪がゆっくりゆっくり降り注ぐという
幻想的なイメージが心に残ります。

 

こうした壮大な「真理」であり「ことわり」が、
わたし達の心の細々とした鬱屈を浄化していくような・・・、
そんな気がするので、やはりこの著者のストーリーは大好きです。

「八月の銀の雪」伊与原新 新潮文庫

満足度★★★★☆

 


耳をすませば

2023年07月06日 | 映画(ま行)

アニメのその後のストーリー

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ご存じ、ジブリの人気アニメの原作である、柊あおいの名作漫画を実写映画化したもの。
アニメで描かれた中学時代の物語に加え、
主人公2人が大人になった10年後のオリジナルストーリーが語られます。

松坂桃李さん出演ということで、興味はあったのですが、
いまさら「耳をすませば」の続きの話と言われてもなあ・・・と、
余計な物を作ってしまったのでは?という疑念が浮かび、
公開時には見ないで終わっていました。

この度は、それでもまあ、見なくてはなんともいえないわけで、その検証です。

天沢聖司くんが目指していたのは、アニメではバイオリン職人だったのが、
本作ではチェロ奏者に変わっています。

中学時代のストーリーは・・・

読書好きな中学生・月島雫(安原琉那)は、
図書貸出カードでよく名前を見かけていた天沢聖司(中川翼)と出会います。
はじめの印象はよくなかったものの、彼に大きな夢があることを知り、
次第に惹かれていきます。
そして、そんな聖司に背中を押され、雫自身も夢を持つようになります。
やがて聖司は夢をかなえるためにイタリアへ旅立ちます・・・。

そして、離ればなれになったまま10年が過ぎたところから本作が始まります。
中学時代の出来事は本編の合間合間に挿入される形です。

出版社で働きながら夢を追い続ける雫(清野菜名)。
イタリアで奮闘する聖司(松坂桃李)を思うことで、自分を奮い立たせていましたが・・・。
夢である児童向けの物語はうまく書けず、そしてまた仕事もつまずいている、
自信喪失している雫。
聖司は確実にチェロ演奏家としての地位を固めているのに・・・。
そんな雫の焦りの姿を描いています。

とはいえ、小さいながらも出版社で、
自分の好きな児童文学分野の編集者となっているなんて、
願ってもないことじゃん、と私などは思うのですが。
その割に、あまり仕事熱心でなさそうなのがなんともナサケナイ。
第一彼女の児童文学観というのが、
「子供に夢を与えるもの」というのがあまりにも浅薄。
私はそんなんじゃないと思うのだけど・・・。
そんなだから、いくら書いても入賞しないはずだわ。
・・・と、なぜか私は辛口になってしまう。

遠距離恋愛10年。25歳。
あまりにも2人ともピュア過ぎないかなあ・・・と、物足りなくも思う。

そして15歳に持った夢に、そこまでこだわらなくてもいいのではないか、
と思ったりもします。
それが変形していく道だってあってもいい。
やっぱり本作は蛇足に思えてなりません。

 

ところで少年時代の天沢聖司を演じた中川翼くんは、
まさに長じたら松坂桃李さんになりそうな雰囲気で、これはよかった♡

 

「耳をすませば」

2022年/日本/114分

監督・脚本:平川雄一朗

原作:柊あおい

出演:清野菜名、松坂桃李、山田裕貴、内田理央、松本まりか、田中圭、安原琉那、中川翼

夢を追う度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる

2023年07月05日 | 映画(さ行)

そっと寄り添うだけでいい

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漫画家の泉本真治(山下智久)は、連載漫画も軌道に乗り、
自身の作品が映画化されるという朗報を聞いたところです。

ところがその喜びもつかの間、突然失明してしまいます。
連載漫画も休載、一緒に暮らしていた祖母(夏木マリ)の面倒も見られなくなります。

一人になった真治は、孤独と恐怖に襲われ、ベランダから身を投げ出そうとします。
その時、真治の漫画ファンの相田響(ひびき)(新木優子)に助けられますが、
その響は耳が聞こえないのでした。

目が見えない真治と耳が聞こえない響。
互いの意思疎通はかなり困難ではありますが、
寄り添うだけで安心感を得る二人は、不思議な共同生活を始めます・・・。

障害のある二人というのは、あまりにも盛りすぎなのでは?
と思わないでもないのですが、でも、そういう二人だからこそ、
互いの痛みがよく分かるし、互いに補い合いたいという思いが強いのかも知れません。

響は生まれつきのろう者なので、発声が得意ではないのです。
そのため、ほとんど声を出すことはありません。
ということで、肝心の手話は真治には見ることができないので、役に立ちません。

ではどのように意思の疎通を図るのか。
響は、真治の手のひらに指で文字を書きます。
もっと細かなことを伝え合うときには、やはり今時のテクノロジーを利用します。
スマホのアプリで、真治からは話した言葉を文字に変換。
響からは打ち込んだ文字を音声に変換。
なるほど、今ならこういうこともできるわけですね。

でも、この二人には言葉は必要なくて、
互いに寄り添ってその温もりを確かめ合えればそれでいいのです。

が、しかし、生きていくためにはお金も必要なのであります。
真治は、かつてのアシスタントの協力も得て、
漫画の仕事を続けることができるようになったのですが、
編集者は「売る」ために無理な要求を真治にするようになる。
自分だけのことならそんな話を真治は受け付けないのですが、
でも二人の生活を支えなければならないとなれば・・・。
そんなことで、二人の気持ちがすれ違っていく。

美しい物語でした。

そうそう、この二人がいい感じになっていくところで、
いきなりムダにイケメンな金持ち青年(高杉真宙)登場。
果たしてこの人物は2人にとって幸となるのか不幸となるのか?・・・って、
高杉真宙さんなので、どうにも悪人に見えないのでしたが。
まあ、ストーリー上よきアクセントになっています。

 

 

「SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる」

2023年/日本/132分

監督・脚本:イ・ジェハン

原作:NASTY CAT「見えなくても聞こえなくても愛してる」

出演:山下智久、新木優子、山本舞香、夏木マリ、山口紗弥加、高杉真宙

 

障害克服度★★★★☆

愛情度★★★★★

満足度★★★★☆


破戒

2023年07月04日 | 映画(は行)

理不尽な「差別」というもの

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島崎藤村による名作でありますが、
これまでにも1948年・木下恵介監督、
1962年・市川崑監督によって映画化されています。
日本人としては知っておきたい内容です。

時代は明治。
日露戦争が行われている頃です。

父から、自身が被差別部落出身である出自を隠し通すよう、
強い戒めを受けていた瀬川丑松(間宮祥太朗)。
今は地元を離れ、小学校の教員として勤務しています。
子どもたちに慕われる丑松ですが、出自を隠していることに悩んでいます。
また丑松は、下宿先の氏族出身の女性、志保に恋心を抱いているのですが、
それも自分の出自のことがあるので、気持ちを打ち明けることもできません。

そんな彼は、被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎に傾倒していきます。
しかしやがて、丑松の出自のことが周囲に疑念を抱かれるようになり、
学校内の立場も危うくなっていきます。

まず始めに、丑松が父から
「どんな相手にも気を許すな、絶対に出自のことは話すな」
と強く言い渡されるシーンがあります。
そのことが知られれば、もう周囲からは人間扱いされない、
卑しい身分として蔑まれ、忌み嫌われることになるからです。

明治の世になり「四民平等」が歌われながらも、根強く残る部落民への差別。
見ている私も、いつこの秘密が露見するかと、ついビクビクしながら見ていました。

昨今、性的マイノリティや移民に対しての差別が取り上げられることは多いのですが、
この種のことが取り上げられることはあまりないように思います。

それは多分、なくなったからではなくて、
公に取り上げること自体がほとんどタブー化していて、
口にしないことで、ないことにしてしまおう
という意図があるのかもと思ったりします。

 

実は北海道は「同和教育」という言葉もあまり知られていません。
歴史の浅い北海道は被差別部落がないのです
(と思っているだけで実はあったのかもしれないけれど)。
北海道はむしろアイヌへの差別場問題がありましたし。
どこから流れてきたのかよく分からない北海道の人たちは、
あえて出自を探り合うことも少なかったのかも・・・。

ということで、こういうことがあった、あるいはある
ということを再認識しておく必要はあると思うので、有意義な作品ではあります。

 

それにしても、その出自のことだけでこんなにも悩み苦しむことになるというのが、
いかにも理不尽。
実は差別する側の人間性を問われることなのにね。

 

<WOWOW視聴にて>

「破戒」

2022年/日本/119分

監督:前田和男

原作:島崎藤村

出演:間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、高橋和也、小林綾子、竹中直人、本田博太郎

 

差別度★★★★☆

満足度★★★★☆


波紋

2023年07月03日 | 映画(は行)

ついすがりついてしまう何かの正体

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緑命会という新興宗教を信仰し、祈りの勉強会に励みながら
心穏やかな日々を過ごす、須藤依子(筒井真理子)。

10数年前、夫(光石研)は自身の父の介護を依子に押しつけたまま失踪。
一人息子(磯村勇斗)は九州で就職して暮らしていて、今は一人暮らし。

そんなところへ、突然夫が帰ってきます。
自分はガンなのでここにいさせてほしい、薬代も援助してほしいと。
そしてまたある日、息子が障害のある恋人を結婚相手として連れてきます。
また、パート先では理不尽な客に罵倒され・・・。

依子にとっては耐えがたい苦難が降りかかり、
湧き上がる黒い感情を宗教にすがり、必死に押さえつけようとしますが・・・。

依子は夫が失踪した後に、夫が作っていた庭の花々を皆引き抜いてしまいます。
そしてそこに、白い砂利と大きな岩を配して、枯山水の庭にしてしまった。
そこに美しい波紋の模様を描き、整えるのが彼女の生きがいとなっています。

依子にとっては、心が波たたず平和、平穏、調和のとれた生活こそが
幸せと思えていたのでしょう。
そんな彼女にとってこの宗教はとても居心地がよかった。

けれども、通常「安らぎ」の源とされるはずの「家族」がやって来たことで、
彼女の心は乱れるのです。

そして、彼女がそんな心の鬱憤を打ち明けるのは、
緑命会のリーダーではなく、職場仲間の達観してサバサバした感じの女性(木野花)。
しかし実は彼女自身も問題を抱えていたことが分かるのですが・・・。

 

結局は誰の心の中にも鬱屈や生きにくさがあり、
必死に何かにすがり、執着しながら
それを乗り越えていくための手段としているのかも知れません。

そのすがりついた何かこそが、
世間一般から見ると「異様」なのかも。

 

依子は最後のある瞬間に、自分がすがりついている物の愚かさに気がついたのでしょう。

自身が健康で、仕事があって、生きていくだけのお金もまああって・・・、
それだけで十分幸せなのに、どうしてそう思えないのか。
自分自身にも、問うてみたい気がします。

 

<サツゲキにて>

「波紋」

2023年/日本/120分

監督・脚本:荻上直子

出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗、江口のりこ、
   平岩紙、ムロツヨシ、木野花、キムラ緑子

 

依存度★★★★★

崩壊度★★★★☆

満足度★★★★☆


「詩歌川百景 3」吉田秋生

2023年07月01日 | コミックス

温泉町のドラマ

 

 

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穏やかな山間の温泉町を揺さぶる、事件。
老舗温泉旅館「あずまや」で湯守見習いとして働く青年・和樹の頼れる幼なじみ類は、
冷静で優秀でお年寄りにもやさしい林田家の「最強の長男」。
そんな彼をおとしめる投書が・・・!?

* * * * * * * * * * * *

お待ちかね、「詩歌川百景」3巻目。

 

本巻は林田類クンが中心といっていいでしょうか。
前巻で、類が思いを寄せているのは妙ではなくて、剛ということが判明しました。
類は一生このことは胸に秘めて生きていくつもりだったようです。
ところが、類は家族のことでもっと困難を抱えている。
類の母が怪しげな新興宗教にはまり大金をつぎ込んでしまっていたのです。
父は単身赴任で離れて暮らしていたので、分かっていなかった・・・。
また、類の妹はそんな出来事を父からも兄からも
秘密にされたことが不本意でオカンムリ。

また、類にとっては従兄弟に当たる男がいかにも悪意に満ちた嫌なヤツで、
さらに類の生活を脅かそうとする・・・。
しかし、責任感の強い長男気質の類は、
すべての困難を自分で背負って何とかしようとするわけで・・・。

でも、彼を取り巻く人々はそんなことをすべて理解して、彼に手を差し伸べます。
そういう所がやっぱりいいんですよねえ・・・。

類も、一生秘密を引きずるのはやめにして、和樹と妙には剛を好きなことを打ち明けるのです。
もっともその時には二人とも、もう気づいていましたが。

 

一見のどかそうな温泉町にも様々なドラマがありますね。

また、本巻には鎌倉で暮らすあの姉妹の関係者も登場。
そういうのがなんとも嬉しい!

いろいろなことがあって、少しずつ成長していく和樹くんをもっと見守っていきたいです。

 

「詩歌川百景 3」吉田秋生 フラワーズコミックス

満足度★★★★☆