昭和天皇は多くの日本人にとっては様々な存在だったが、私のような昭和生まれの日本人には「おじいちゃん」みたいな存在だったと言っても間違いない。
優しそうだが威厳を持ち、一言一言が大きな影響力を持っていた。
戦前は政治向けのことにコメントを出し、政局に大きな影響を与えたことを晩年は気にされていたらしいのだが、国民としてはそれはそれで歴史のひとつとして受け止める必要があるように思う。
戦後はそういうことで政治向けの話はしなかったものの、例えば側近に対してはユーモアを交えたコメントを出していたことは幾つもの書籍に記されている。
例えば昭和36年。
中京地区に甚大な被害を及ぼした伊勢湾台風が去った後、三重県の復旧にあたって農林相の福田赳夫に訊ねたご質問。
「福田、桑名のしじみは大丈夫かね?」
この時、後に総理大臣になる福田赳夫は「桑名といえばハマグリだろ。陛下はボケたか」と思ったのだという。
ところが実際に調べさせると三重県桑名は「桑名のハマグリ」の通りハマグリの水揚げもあるにはあるが、当時はしじみの水揚げが最大だった。
昭和天皇は福田農林大臣にチクっと「ちゃんと調べてしっかりと支援しなさい」とジョークにして指示をしていたのだった。
また晩年、昭和天皇の耐力が減少し内閣の任命や国会の開会に際して国会議事堂へ行くのは大変だろうということになり、まだ皇太子だった今上陛下に摂政として天皇の代行をしていただこうという意見が現実のものとなった時、
「あなた達は私の楽しみを奪うのですか」
と言って政局をややこしくする摂政を置くことにジョークで意見された。
実に頼りになる国民のおじいちゃんなのであった。
で、話は飛んで英国。
この国は日本が近代国家に変革するときにそのお手本にすることに決めた国だけに、元首と国民の関係は極めて近似している。
女王陛下の発言は政治的影響力が日本同様強いためにめったに意見をおっしゃらない。
しかし言いたいときはジョークで表現するのは、ジョークの本家本元たるセンスを見せる。
先日、習近平中国国家主席が放映した時の女王陛下のつぶやきをテレビクルーが収録していたことが大きな話題になった。
「とても下品な人たち」
の一言だ。
報道によるとどうもわざと収録されるようにつぶやいた形跡があり、女王ならではの金に目がくらんでいる首相以下自国の国民に向けたメッセージと受け取れなくもない。
しかもこの時の習近平の公式晩餐会にはイギリス的なブラックユーモアが含まれてということも聞き知って大いに感心した。
ウィリアムズ王子は晩餐会のさなかに居眠りをしていた。
晩餐会の乾杯のワインは天安門事件のあった1989年ものであった。
などなど。
イギリス国民はきっと女王陛下のつぶやきを、
「エリザベスお祖母様の粋な呟き」
と思っているに違いないだろう。
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