萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk14 南風月―dead of night

2013-08-03 00:44:00 | dead of night 陽はまた昇る
南風、時節を呼ぶ



secret talk14 南風月―dead of night

樹影ゆらいで梢が鳴る、そして山唸る。

頭上の葉擦れ交わされる彼方、遥か天穹に茜雲が奔りゆく。
大らかに薄紅いろ翻して風は馳せる、その跫に森ざわめき山動く。
天降り吹き下ろす大風に今、樹木は揺るがせ天候の変化を全山が告げる。

「…あと1時間かな、」

風に独りごと微笑んで英二は登山靴を速めた。
きっと天候は大崩する、その前に登山者の全てが安全な場所へ着いてほしい。
そんな願いに駆けてゆく山、風は救助隊服を透って空へ駈け昇って樹影から木の葉を散らす。
くるり翻り舞う葉の影に、英二は伸ばした長い指に一葉を受けとめた。

「楓、かな?」

指に一葉と歩きながら、空に翳して透かし見る。
あわい紫と紅いろ棚引かす落陽に一葉きらめいて、その葉影に英二は綺麗に笑った。

「山苞ってやつだな、」

山の土産を喜ぶ人は今、家で自分を案じてくれている。
そんな心配がいつもながら申し訳なくて、それ以上に嬉しくて温かい。
無事を祈り待っている人が居てくれる、そんな幸せは想う体温の寄添いにただ、愛しい。







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