萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第83話 辞世 act.13-another,side story「陽はまた昇る」

2015-09-21 23:35:02 | 陽はまた昇るanother,side story
此岸にて
周太24歳3月



第83話 辞世 act.13-another,side story「陽はまた昇る」

ぱちり、金いろ爆ぜて火の粉が舞う。

三月なかば過ぎの山の夜、凍れる雪の川に焚火は温かい。
朱色やわらかな炎はなんだ落着かす、雪嶺の火端で先輩が笑った。

「あの小隊長やるな、さすが後藤さんの秘蔵っ子だ、」

ぱちっ、火音に笑った声は低いくせ透る。
マスクの黒に覆われる横顔は表情も見えない、けれど眼ざし明るくて周太も微笑んだ。

「後藤さんの知り合いだって、伊達さんもご存知なんですか?…あ、」

名前つい呼んで周り見まわしてしまう。
こんな時こんな所で本名は迂闊だ、気づいて首すじ逆上せるまま笑われた。

「名前つい呼んでまずいって思ってるだろ?でもここなら安全だ、隠れる場所なんか無いからな、」

言いながら薪くべてくれる手元は慣れている。
その仕草に懐かしい人たち見るから気懸りで尋ねた。

「ありがとうございます、でも七機の人たちもビバークしていませんか?…みなさん慣れてるし、」
「SATは敬遠される、こっちには来ないだろ、」

さらり答えられて鼓動が絞まる。
言われた現実が今は傷んで、そんな想いに伊達は指さした。

「川むこう灯りが見えるだろ?山岳レンジャーは集まってやってるな、県警も一緒か、」

川音に透かした闇の先、赤色ふたつ夜に明るい。
あそこに懐かしい人たちがいる、つい見つめてしまう視線そらし笑いかけた。

「伊達さんは焚火じょうずですね、山は慣れているんですか?」
「親戚の手伝いしてたからな、」

応えてくれる声は穏やかに低い。
からり、薪くべながら教えてくれた。

「後藤さんのことは俺も知ってるよ、同郷の大先輩だからな。あの小隊長に期待してることも有名だぞ、」

そんな話を聴いたことあったな?
思いだしながら可笑しくて、つい笑った。

「さっき伊達さん、さすがだなって言って笑いましたよね…あれ可笑しかったです、」

あの間合いで言われたら笑ってしまう。
また記憶ぶりかえす焚火のほとり先輩も笑いだした。

「つい本音が出ちまった、さすが弁が立つなってさ。理路整然と追い詰めてくれて嬉しくってな?」
「追い詰めてって…班長のこといじめたいみたいですよ?」

言葉つられて笑って、ぱちり炎また爆ぜる。
その光に低い声が言った。

「いじめたいよ、腹立ってるからな?」

こんな言い方、伊達には余程のことだ。

いつも落着いて冷静、公正で理知的、そんな評価される男に「いじめたいよ」は似合わない。
意外で見つめた真ん中、マスクの翳で沈毅な瞳は微笑んだ。

「上官として信じたかったから腹立つ、」

ああ、その気持ち自分は良く解かる。
信じたかった、だからこその溜息ひとつ笑いかけた。

「信じたいからってわかります…僕も、」

自分だってそうだった、あのひとに。

―だから英二に腹が立つんだ、いつも話してくれない…お父さんのことも、

父のことを追いかけて今、ここに自分はいる。
その想い全て裏切られる気がして、そのくせ再会はうれしかった。
うれしい分だけ悔しくて哀しくなる、そっと溜息こぼれて言われた。

「湯原、彼女の連絡先と伝言をくれ、」

からん、

燃え崩れる木音に言葉が傷む。
ゆらめく火影ごと熱なびく、温かな火端で伊達は続けた。

「新宿でも言った通りだ、引受人が一人だと辛い、引受人自身のためにも助け合える人間がいるほうがいい、」

落着いた声、でも本当は何を想うのか今は解かる。
それくらい時間を共有してくれた人に微笑んだ。

「はい…預かってもらえますか?」

ポケットからチェーン引っ張りだし外す。
そのまま差しだした掌に沈毅な瞳が訊いた。

「携帯を俺に預けるって言うのか?」
「はい、」

うなずいて見つめた真中、黒いマスクが火影に赤い。
むきあった瞳も朱いろ一点ゆらす、あかるい光のほとり口を開いた。

「もし美代さんからメールが来たら返信してもらえますか?僕が無事って想えるように…受験生なんです彼女、今は集中しないといけない大事な時で、」

きっと伊達なら代り務めてくれる。
信頼と見つめながら想い言葉にした。

「今日は前期試験の発表だったんです、でも落ちて…後期日程で受けなおすんです、その試験日まで心配かけたくありません、お願いします、」

これだけで伊達には解るだろう、そして考えてくれる。
ただ信じて開いた掌に震動が起きた。

「あ、」

火影ゆれる手の上、ちいさなランプ点滅する。
ふるえる音かすかな前、低い声かすかに笑った。

「メールか?遠慮するな、」
「…はい、」

素直に開いた画面、発光が闇にまぶしい。
あわいブルー見つめながら受信ボックス開封した。

From  :関根尚光
Subject:瀬尾その他
本 文 :おつかれ、ひさしぶりだけど元気か?
     来月どっかで時間つくれるか?瀬尾の祝いのこと打合せしよう、俺も報告っていうか相談あるんだ。
     英理さんからもメールか電話いくとおもうけどよろしくな。

久しぶりの名前、これからの約束、報告と相談。
どれも嬉しくて温かい、だから余計に締めつけられて泣きたくなる。

「…っ、」

マスクの翳そっと呑みこんで喉つまる。
だって今こんなとき思いだしてしまった、自分には大事な人たちがいて、そして明日を疑っていない。

―もし僕が死んだら最期にメールしたって想わせるんだ、関根に…英理さんにも瀬尾にも辛い想いさせて、

電子文字のむこう友達は今きっと笑っている。
笑っているだろうから繋げていいか解らない、だって今この現実を知られたら苦しめる。
きっと怒るだろう、泣くだろう、そんな真直ぐな相手だから哀しくて辛くて、どうしていいか解らない。

「どうした湯原?」

呼びかけて肩そっと温もりふれる。
大きな掌に呼吸ひとつ、黙って携帯電話さしだした。

「読んでいいのか?」
「…はい、」

うなずいた前、マスクの瞳が画面におちる。
まなざし微かに動いて低い声がすこし笑った。

「楽しそうなメールだな、だから返信に困ってるのか?」

ほら解ってくれる。
こんな理解が今は安らげて小さく笑った。

「はい、困っています…約束していいのかなって、」

約束したい、でも明日が解からない。
こんな現実と焚火ながめながら先輩は言った。

「俺が約束する、来月も無事だ、」

ほら、約束をくれる。

こういう人だから結局は疑えない、それだけ素顔も見てしまった。
この6ヶ月の時間どうしても信じたくて、ただ信頼に微笑んだ。

「はい…返信させてもらいますね、」

掌のなか電子文字は明るい、その画面ひとひら小雪が舞った。


(to be continued)

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ FC2 Blog Ranking

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深夜雑談:悪戯坊主の芸術

2015-09-21 23:00:00 | 雑談
加筆あいま気分転換に雑談します、笑

昨日の朝、出かけようって支度していたら悪戯坊主のう○○な臭いがして、
猫トイレをチェックしたらヤッパリ○○こがあったんだけど、

アレなんだっけ、そうだストーンサークルだ。

環状列石、石ぐるり円形に並べて中央に一本石柱を立てるアレ。
アレそっくりに悪戯坊主の○ん○がならんでいる@猫トイレのトイレ砂の上。
丸いのが5つ+円柱状ひとつ、倒れることなく屹立してナンダカおごそかだ。

こんなこと初めてだ、ていうかドウやってやったんだろう?

なんて疑問と大笑いさせられた連休2日目の朝だった。
なんて書いている今すでに連休4日目の深夜0時、悪戯坊主は元気です、笑

ウチの猫さんです!_14ブログトーナメント



にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ FC2 Blog Ranking

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山岳点景:毒茸譚

2015-09-21 09:35:09 | 写真:山岳点景
恩恵と礼儀



山岳点景:毒茸譚

昨夜、ベニテングダケについて書きましたけど、
毒茸だと知りながら食べるコトが肝試し×食い意地から一部で流行っているそうです、笑
一本くらい食べても大丈夫ってカンジらしいんですけど、なんでソンナ発想になるのか?
っていう原因は、毒素自体がうま味成分ソックリなことにあります。

テングタケ科の毒成分=イボテン酸はグルタミン酸と類似の構造

グルタミン酸はうまみ成分の代表、
アミノ酸の一種で昆布に多く含まれていることが知られています。
ちょっと知られていないのは過剰摂取が死にいたることです、が、人間の致死量は体重50kgに1kgです、笑

グルタミン酸は興奮性神経伝達物質の一つです。
内因性興奮毒としての性質を持ってるんですけど、脳虚血など病的状態においては大脳皮質で神経細胞を破壊します。
ようするにグルタミン酸が多くなりすぎるとアウトってことなんですけど、うつ病もグルタミン酸の神経毒性が起こすという仮説があります。
こうした不調はグルタミン酸の作用をコントロール=ブレーキになるミネラル分であるマグネシウムが欠乏することで起きます。
そのため、マグネシウムなど不足しているミネラル分の投与で犯罪者の脳が正常化→再犯率の低下って実験データもあります。

で、イボテン酸はグルタミン酸ナトリウムの約10倍ほどうま味を感じさせます。
人間がうま味を感じる最低濃度はグルタミン酸ナトリウムの約0.02%、対してイボテン酸は0.001~0.003%なんだとか。
そのためイボテン酸をふくんだ茸はグルタミン酸由来の旨味調味料と同じように美味しく感じられるってワケです、が、落とし穴があります。

グルタミン酸は上述したとおり、脳に興奮を伝える神経伝達物質です。
その点でもイボテン酸は類似しており、グルタミン酸よりも3~7倍の興奮作用があると言われています。
またイボテン酸は乾燥などでムッシモールという成分に変化するんですけど、ムッシモールは抑制性の神経伝達物質と構造が似ています。
抑制性=脳の働きを不活発にするってことですが、この抑制と興奮がイボテン酸を摂ることで同時に起きるワケです。

で、抑制×興奮の相乗効果で中枢神経が混乱させられます。
症状は精神錯乱、アルコトナイコト言いだす譫妄、躁鬱、幻覚、昏睡状態に陥るそうです。

またベニテングダケは微量ですがα-アマニチンを含んでいます。
α-アマニチンは猛毒成分でタンパク質の合成を阻害します、で、細胞組織はタンパク質で作られてるワケですから、

タンパク質の合成がダメになれば細胞組織は壊死するワケです。
具体的にどうなるかというと内臓あちこち細胞からダメになって多臓器不全を起こします。

α-アマニチンは一般的な加熱調理では分解されず、解毒剤も存在しません。
そのため中毒の治療は対処療法しかなく、摂取直後に胃を洗浄することが最も効果的な方法になります。
ですが遅効性なため、摂取10時間以内は症状がほとんどなく摂取後24時間経過して気づくことも多いそうです。
そんだけ時間経過すれば毒素は胃から吸収完了→そうなれば胃洗浄などの対処療法も当然効果がありません、いわゆる手遅れです。
そうして吸収されたα-アマニチンによりタンパク質は合成できず、細胞組織の壊死は進んでゆき多臓器不全に陥ります。

初期症状は下痢と痙攣、一時的に症状が治まっても偽回復期で4~5日間に肝臓と腎臓の細胞破壊は進行して機能障害を起こします。
そうなると約15%は腎不全・肝不全、昏睡、呼吸困難などが進行し約10日で死亡、全中毒者の50%は最終的に死に至ります。
こうしたケース以外でも後遺症の残ることが多いそうです。

このα-アマニチンはテングタケ科の他の茸にも含まれます。

で、なぜベニテングタケは一本くらい食べても平気なんて言われるかというと、利用されていた歴史の所為もあります。
イボテン酸の薬理作用=興奮&幻覚作用をシャーマニズムの儀式に使ったり、戦争の士気高揚に利用されていたんだとか。
そうした前例から「一本くらい食べても大丈夫」って意見も出てきたようです。

が、毒物の致死量は個人差があるため保証ナンカありませんよ?笑



登山などアウトドアの流行りでキノコ採取も楽しみにされる方が増えているそうですけど、危険が2つあります。

1.無断採取は「盗掘」犯罪

山で採れる恵みは山の所有者のものです、
個人所有の山ではなくても入会地として入会権が定められ、地元の方の生活資源として管理しているケースが多くあります。
登った先、見つけたからって勝手に採れば犯罪になることを知ってください。

2.誤食→中毒死or後遺症

毒キノコと食用キノコは似ているものが多くあります。
例えばテングタケとタマゴタケ、どちらも同じ赤い笠なところが特徴なんですけど。
トップ写真の通りテングタケは白いイボ+白い柄、根元にリング状のツボ+笠の下に膜状のツバがあります。
でもこの白いイボが雨で流れ落ちてしまうと2番目の写真みたいなカンジです、この状態だとタマゴタケと間違えたりするワケです。

で、毒キノコと似ている食用キノコは美味で知られることが多いんですよね、笑
それで食べてしまい中毒にいたることが毎年ずっと絶えません、死亡、そうでなくとも後遺症で苦しむことになります。
ベニテングタケで書きましたが、タンパク質阻害成分や神経毒に起こされるため細胞自体が壊死→細胞の再生が困難→後遺症になるわけです。

また震災後は原発の影響から放射能物質の含有量が規定値を超えている→採取禁止になっているエリアもあります。
そうした情報も無断採取のケースでは解りません、で、食べてしまうと数年後に放射性物質による内部被ばくなんてコトに。

法的リスクと身体的リスク、どっちにしても素人だけでキノコ狩はしないほうが無難です、笑



山の恵みは地元のひと+野生獣に権利有・部外者はノータッチが無難です、笑
マニアックな情報 3ブログトーナメント

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ FC2 Blog Ranking

PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする