春雪の夜
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第83話 辞世 act.14-another,side story「陽はまた昇る」
頬なぶる小雪、けれど夜の雲かすかに明るます。
そのうち月がでるのだろうか、ふる雪を透かして空仰いだ。
「…ほんとに吹雪だ、」
雪ふる林のはざま、見えるはずの山頂はない。
風雪に融けこんだ闇は薄青くかすむ、そんな視界に低い声がすこし笑った。
「国村さんが言ったとおりだな、ジャスト1時間だ、」
「はい、」
うなずいた先、黒いマスクとヘルメットに火影ゆれる。
深けてゆく刻限に焚火は温かい、座りこむ温もりは安らがせる。
―こんな時なのに僕、なんか安心してる…ね、
朱色ゆるやかな光、温度、けぶる木の香。
ふる雪にも温もり明るます、ただ優しい時間におだやかな声が言った。
「あの山岳レンジャー、防犯カメラの男と似ている、」
とくん、
鼓動ひとつ息止めらる。
言われたことの重み胸圧して、咽かけた呼吸のみくだした。
―伊達さんに気づかれた?英二とお父さんの、
この男に気づかれてしまった、あの人の存在を。
それでも今は何も調べられない、そんな山懐にすこし微笑んだ。
「そうでしたか?」
「あの男、宮田は湯原の同期だったな、」
低く告げる言葉に鼓動また絞められる。
この追及は逸らせるのだろうか?不安せまらすまま声が続ける。
「同一人物なら辻褄があう、あの画像の日は山岳レンジャーが本庁に来ていた。あいつの家族について知ってるか?」
ほら核心ついてくる、答え方まちがえば曝される。
―もう同期だって知ってるんだ、仲良くしてたことも調べてるかも…でもどうして伊達さん、
なぜ伊達はこんなにも調べるのだろう?
目的は何だろう、こんな時までなぜ訊くのだろう、そのままに声がでた。
「どうして今、そんなこと訊くんですか?なぜ伊達さんがそこまで拘るんですか、」
踏みこむ理由、それはどこにある?
問いただした雪の夜の底、低い声は穏やかに言った。
「納得いかないからだ、なぜ湯原が指名されたのか、」
落着いた声、けれど燻ぶっている。
ぱちり、爆ぜた炎に薪くべながら低く続けた。
「一名だけ行くなら今回の状況だと俺だ、まだ経験が浅い湯原が選ばれるのは何か仕組まれているとしか思えない。同行者が同期だってこともな、」
たどり着いてしまうかもしれない、この人なら。
その頭脳に確かめたくて口開いた。
「伊達さんは、…宮田が僕の同期になったことも、仕組まれたことって考えるんですか?」
君と出逢った、そのことすら意図がある?
それなら君は何者なのだろう、自分が見てきた君は嘘?
聴かせてくれた言葉は、約束は、ほんとうは誰がくれたものだろう?
英二、君は誰?
「まだ解らない、俺は、」
ぱちっ、炎の音に声は透る。
火影ゆれるマスクの顔すこし傾けて伊達は言った。
「似ているけど断定はまだできない、あいつと話したこともないからな?相手を知らないで判断は難しいだろ、」
落着いた声は冷静なのに温かい。
その声に見つめた小雪の夜、沈毅な瞳すこし笑った。
「どっちにしても今は信じるしかないだろ、今はパートナーだからな?」
今はパートナー、それなら信じるしかない。
そんな現実の底は雪に炎あかるい、ゆるやかな熱の火端でうなずいた。
「はい、…そうします、」
うなずいた視界、金色ふわり舞いあげて小雪にとける。
こんなふう炎ずっと見るのは初めてだ、その温もりに穏かな声が言った。
「すこし寝ておけ、夜明の雪道はきつい、」
(to be continued)
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周太24歳3月
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第83話 辞世 act.14-another,side story「陽はまた昇る」
頬なぶる小雪、けれど夜の雲かすかに明るます。
そのうち月がでるのだろうか、ふる雪を透かして空仰いだ。
「…ほんとに吹雪だ、」
雪ふる林のはざま、見えるはずの山頂はない。
風雪に融けこんだ闇は薄青くかすむ、そんな視界に低い声がすこし笑った。
「国村さんが言ったとおりだな、ジャスト1時間だ、」
「はい、」
うなずいた先、黒いマスクとヘルメットに火影ゆれる。
深けてゆく刻限に焚火は温かい、座りこむ温もりは安らがせる。
―こんな時なのに僕、なんか安心してる…ね、
朱色ゆるやかな光、温度、けぶる木の香。
ふる雪にも温もり明るます、ただ優しい時間におだやかな声が言った。
「あの山岳レンジャー、防犯カメラの男と似ている、」
とくん、
鼓動ひとつ息止めらる。
言われたことの重み胸圧して、咽かけた呼吸のみくだした。
―伊達さんに気づかれた?英二とお父さんの、
この男に気づかれてしまった、あの人の存在を。
それでも今は何も調べられない、そんな山懐にすこし微笑んだ。
「そうでしたか?」
「あの男、宮田は湯原の同期だったな、」
低く告げる言葉に鼓動また絞められる。
この追及は逸らせるのだろうか?不安せまらすまま声が続ける。
「同一人物なら辻褄があう、あの画像の日は山岳レンジャーが本庁に来ていた。あいつの家族について知ってるか?」
ほら核心ついてくる、答え方まちがえば曝される。
―もう同期だって知ってるんだ、仲良くしてたことも調べてるかも…でもどうして伊達さん、
なぜ伊達はこんなにも調べるのだろう?
目的は何だろう、こんな時までなぜ訊くのだろう、そのままに声がでた。
「どうして今、そんなこと訊くんですか?なぜ伊達さんがそこまで拘るんですか、」
踏みこむ理由、それはどこにある?
問いただした雪の夜の底、低い声は穏やかに言った。
「納得いかないからだ、なぜ湯原が指名されたのか、」
落着いた声、けれど燻ぶっている。
ぱちり、爆ぜた炎に薪くべながら低く続けた。
「一名だけ行くなら今回の状況だと俺だ、まだ経験が浅い湯原が選ばれるのは何か仕組まれているとしか思えない。同行者が同期だってこともな、」
たどり着いてしまうかもしれない、この人なら。
その頭脳に確かめたくて口開いた。
「伊達さんは、…宮田が僕の同期になったことも、仕組まれたことって考えるんですか?」
君と出逢った、そのことすら意図がある?
それなら君は何者なのだろう、自分が見てきた君は嘘?
聴かせてくれた言葉は、約束は、ほんとうは誰がくれたものだろう?
英二、君は誰?
「まだ解らない、俺は、」
ぱちっ、炎の音に声は透る。
火影ゆれるマスクの顔すこし傾けて伊達は言った。
「似ているけど断定はまだできない、あいつと話したこともないからな?相手を知らないで判断は難しいだろ、」
落着いた声は冷静なのに温かい。
その声に見つめた小雪の夜、沈毅な瞳すこし笑った。
「どっちにしても今は信じるしかないだろ、今はパートナーだからな?」
今はパートナー、それなら信じるしかない。
そんな現実の底は雪に炎あかるい、ゆるやかな熱の火端でうなずいた。
「はい、…そうします、」
うなずいた視界、金色ふわり舞いあげて小雪にとける。
こんなふう炎ずっと見るのは初めてだ、その温もりに穏かな声が言った。
「すこし寝ておけ、夜明の雪道はきつい、」
(to be continued)
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