萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第85話 暮春 act.12-side story「陽はまた昇る」

2016-09-18 22:30:02 | 陽はまた昇るside story
And red with blushing 瞬間あざやかな紅に、
英二24歳3月下旬



第85話 暮春 act.12-side story「陽はまた昇る」

雪が止んだ、きっと。

障子戸のむこうは晴れゆく山の夜、そんな気配まだ解る。
まだ酒量を過ごしてはいない?微笑んだ自信に呼ばれた。

「ほら宮田、次は高木さんの酒だぞ?」

笑いかけられ馥郁あまい、さらり盃は満たされる。
笑顔いくつも賑やかな酒の席、それでも障子窓を透かして伝わる。

「ありがとうございます、いただきます、」

笑って蕎麦猪口かかげて口つける。
唇から舌に甘さ絡みつく、喉すべりこんで熱が熾きる。
ほっと吐いた息アルコール香って、胡坐座の隣が笑いかけた。

「さすが宮田だね、アイカワラズ呑んでも顔あんまり赤くないね?」
「国村さんは頬ちょっと赤いですよ、」

微笑んで答えて蕎麦猪口を置く。
ことん、卓上が鳴って指先つかんだグラス口つけた。

「は…、」

呼吸ひとつ水を飲む、冷たい感覚すべりこむ。
熾きていた喉の熱しずかに消えて、また呼ばれた。

「おい宮田、大丈夫か?」

低い落ちついた声どこか心配げ、そして微かに香ほろ苦い。
この声すっかり聴き慣れた親しさに笑いかけた。

「大丈夫ですけど黒木さん、タバコ吸うなら俺に声かけて下さいよ?」

吸いたい気持ち、自分には解る。
そんな同調に精悍な瞳が困ったよう笑った。

「いいけど宮田、おまえは常習じゃないだろ?山の記録ほしいならタバコは勧めないぞ、」
「吸いたい気分ってありますよね、次の酒は黒木さんですか?」

言い返しながら視界の端、座卓の向こう見てしまう。

―赤くはなるんだな、佐伯は?

ならんだ宴の皿の向こう、盃を置く手は節くれ逞しい。
ことん、乾された蕎麦猪口に赤らんだ雪焼あざやかに笑った。

「国村さん、僕から国村さんに注いでもいいですか?」

涼しい瞳さわやかに徳利かざす。
凛々しい眉くつろがす笑顔やわらかで、盃つい差し出した。

「佐伯さん、酒を注ぐなら俺にどうぞ?勝負相手がお相手しますよ、」

注がせたくない、なんて子供じみた想いだ?

―でも妬けたら仕方ないよな?

佐伯が光一に酒を注ぐ、今それを見たくない。
こんな本音は自分でも可笑しくて、笑った腕ぽんと敲かれた。

「おまえがコンナに呑む気って珍しいね、み・や・た?」

底抜けに明るい目が笑ってくれる。
きっと自分の想いなんて気づいていない、そんなザイルパートナーに笑いかけた。

「国村さんのリクエストに応えようとしてるんですよ、俺を酔い潰したいんでしょう?」

こう言えば断られない。
確信と笑いかけた先、澄んだ瞳は愉快に笑った。

「だね?セッカクだし佐伯、宮田に注いでやってくれるかね?」

この男に言われたら注ぐしかないだろう?

―さて、どうする佐伯?

きっと本当は注ぎたくない、でも注ぐしかない。
そんな本音が解かるから注がせたくなる酒を武骨な手は傾けた。

「はい、」
「ありがとうございます、」

受けた盃ことん、卓へ置く。
そのまま徳利ひとつ掴むと笑いかけた。

「佐伯さんにも注がせて下さい、どうぞ?」

自分と酌み交わす、なんて望むところじゃないだろう?
だからこそ注いでやりたい底意地に山っ子が笑った。

「佐伯も受けてやんなね、飲んだ回数を合わせないとさ?」
「それもそうですね、」

武骨な手も蕎麦猪口さしだしてくれる。
その横顔は雪焼さわやかで、引き締まった口元さらり笑った。

「いただきます、」

盃を呷る、その仕草どこまでも潔い。

―それに底が明るいんだ、裏表ないんだろうな?

仕草ひとつ表情ひとつ相手を見る。
この男と明日からザイルを繋ぐ、もう近い未来と酒を呑みこんだ。

そして置いた盃の向こう、雪焼さわやかな笑顔ぐらり傾いた。


(to be continued)

【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】

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山岳点景:標高千七百の初秋、森

2016-09-18 09:06:01 | 写真:山岳点景
木洩陽に秋を、



山岳点景:標高千七百の初秋、森

標高1,700メートルの森は黄葉あわく秋の気配、


静かな森の底、茸があちこち。


紅天狗茸ベニテングダケを多く見ました、


絵本に出てくる姿そのまんま生えています、が、猛毒注意なのでオサワリ禁止です、笑


あざやかな朱色×白い軸×白いイボが特徴的、なんですけど・雨降ると白イボが流され消えてしまいます。


白イボが消えた赤いカサ×白い軸は美味で有名な茸・タマゴダケと似ています。
そのため誤食による事故が絶えません。


森の縁、竜胆リンドウが多く咲いていました。


ここの岳樺ダケカンバの大木が好きです。


ダケカンバと白樺シラカバは白い樹皮が似ているんですけど、見分け方は、

○シラカバ :樹皮に黒い「へ」の字型の枝痕がある。
○ダケカンバ:老木は樹皮が縦に割れて荒く剥がれる。


陽だまりに透ける黄色は、秋の麒麟草アキノキリンソウ、


森のはざま、草原たなびく薄紫は松虫草マツムシソウ。


渋い赤紫色の茎が秋の風情。


青紫色あざやかな鳥兜トリカブト、毒草だけれど蜂には蜜を与えます。
第154回 昔書いたブログも読んで欲しいブログトーナメント

撮影地:山梨県某所

秋の森ちょっと和めたらイイんですけど、笑
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