And red with blushing 瞬間あざやかな紅に、
第85話 暮春 act.12-side story「陽はまた昇る」
雪が止んだ、きっと。
障子戸のむこうは晴れゆく山の夜、そんな気配まだ解る。
まだ酒量を過ごしてはいない?微笑んだ自信に呼ばれた。
「ほら宮田、次は高木さんの酒だぞ?」
笑いかけられ馥郁あまい、さらり盃は満たされる。
笑顔いくつも賑やかな酒の席、それでも障子窓を透かして伝わる。
「ありがとうございます、いただきます、」
笑って蕎麦猪口かかげて口つける。
唇から舌に甘さ絡みつく、喉すべりこんで熱が熾きる。
ほっと吐いた息アルコール香って、胡坐座の隣が笑いかけた。
「さすが宮田だね、アイカワラズ呑んでも顔あんまり赤くないね?」
「国村さんは頬ちょっと赤いですよ、」
微笑んで答えて蕎麦猪口を置く。
ことん、卓上が鳴って指先つかんだグラス口つけた。
「は…、」
呼吸ひとつ水を飲む、冷たい感覚すべりこむ。
熾きていた喉の熱しずかに消えて、また呼ばれた。
「おい宮田、大丈夫か?」
低い落ちついた声どこか心配げ、そして微かに香ほろ苦い。
この声すっかり聴き慣れた親しさに笑いかけた。
「大丈夫ですけど黒木さん、タバコ吸うなら俺に声かけて下さいよ?」
吸いたい気持ち、自分には解る。
そんな同調に精悍な瞳が困ったよう笑った。
「いいけど宮田、おまえは常習じゃないだろ?山の記録ほしいならタバコは勧めないぞ、」
「吸いたい気分ってありますよね、次の酒は黒木さんですか?」
言い返しながら視界の端、座卓の向こう見てしまう。
―赤くはなるんだな、佐伯は?
ならんだ宴の皿の向こう、盃を置く手は節くれ逞しい。
ことん、乾された蕎麦猪口に赤らんだ雪焼あざやかに笑った。
「国村さん、僕から国村さんに注いでもいいですか?」
涼しい瞳さわやかに徳利かざす。
凛々しい眉くつろがす笑顔やわらかで、盃つい差し出した。
「佐伯さん、酒を注ぐなら俺にどうぞ?勝負相手がお相手しますよ、」
注がせたくない、なんて子供じみた想いだ?
―でも妬けたら仕方ないよな?
佐伯が光一に酒を注ぐ、今それを見たくない。
こんな本音は自分でも可笑しくて、笑った腕ぽんと敲かれた。
「おまえがコンナに呑む気って珍しいね、み・や・た?」
底抜けに明るい目が笑ってくれる。
きっと自分の想いなんて気づいていない、そんなザイルパートナーに笑いかけた。
「国村さんのリクエストに応えようとしてるんですよ、俺を酔い潰したいんでしょう?」
こう言えば断られない。
確信と笑いかけた先、澄んだ瞳は愉快に笑った。
「だね?セッカクだし佐伯、宮田に注いでやってくれるかね?」
この男に言われたら注ぐしかないだろう?
―さて、どうする佐伯?
きっと本当は注ぎたくない、でも注ぐしかない。
そんな本音が解かるから注がせたくなる酒を武骨な手は傾けた。
「はい、」
「ありがとうございます、」
受けた盃ことん、卓へ置く。
そのまま徳利ひとつ掴むと笑いかけた。
「佐伯さんにも注がせて下さい、どうぞ?」
自分と酌み交わす、なんて望むところじゃないだろう?
だからこそ注いでやりたい底意地に山っ子が笑った。
「佐伯も受けてやんなね、飲んだ回数を合わせないとさ?」
「それもそうですね、」
武骨な手も蕎麦猪口さしだしてくれる。
その横顔は雪焼さわやかで、引き締まった口元さらり笑った。
「いただきます、」
盃を呷る、その仕草どこまでも潔い。
―それに底が明るいんだ、裏表ないんだろうな?
仕草ひとつ表情ひとつ相手を見る。
この男と明日からザイルを繋ぐ、もう近い未来と酒を呑みこんだ。
そして置いた盃の向こう、雪焼さわやかな笑顔ぐらり傾いた。
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
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英二24歳3月下旬
第85話 暮春 act.12-side story「陽はまた昇る」
雪が止んだ、きっと。
障子戸のむこうは晴れゆく山の夜、そんな気配まだ解る。
まだ酒量を過ごしてはいない?微笑んだ自信に呼ばれた。
「ほら宮田、次は高木さんの酒だぞ?」
笑いかけられ馥郁あまい、さらり盃は満たされる。
笑顔いくつも賑やかな酒の席、それでも障子窓を透かして伝わる。
「ありがとうございます、いただきます、」
笑って蕎麦猪口かかげて口つける。
唇から舌に甘さ絡みつく、喉すべりこんで熱が熾きる。
ほっと吐いた息アルコール香って、胡坐座の隣が笑いかけた。
「さすが宮田だね、アイカワラズ呑んでも顔あんまり赤くないね?」
「国村さんは頬ちょっと赤いですよ、」
微笑んで答えて蕎麦猪口を置く。
ことん、卓上が鳴って指先つかんだグラス口つけた。
「は…、」
呼吸ひとつ水を飲む、冷たい感覚すべりこむ。
熾きていた喉の熱しずかに消えて、また呼ばれた。
「おい宮田、大丈夫か?」
低い落ちついた声どこか心配げ、そして微かに香ほろ苦い。
この声すっかり聴き慣れた親しさに笑いかけた。
「大丈夫ですけど黒木さん、タバコ吸うなら俺に声かけて下さいよ?」
吸いたい気持ち、自分には解る。
そんな同調に精悍な瞳が困ったよう笑った。
「いいけど宮田、おまえは常習じゃないだろ?山の記録ほしいならタバコは勧めないぞ、」
「吸いたい気分ってありますよね、次の酒は黒木さんですか?」
言い返しながら視界の端、座卓の向こう見てしまう。
―赤くはなるんだな、佐伯は?
ならんだ宴の皿の向こう、盃を置く手は節くれ逞しい。
ことん、乾された蕎麦猪口に赤らんだ雪焼あざやかに笑った。
「国村さん、僕から国村さんに注いでもいいですか?」
涼しい瞳さわやかに徳利かざす。
凛々しい眉くつろがす笑顔やわらかで、盃つい差し出した。
「佐伯さん、酒を注ぐなら俺にどうぞ?勝負相手がお相手しますよ、」
注がせたくない、なんて子供じみた想いだ?
―でも妬けたら仕方ないよな?
佐伯が光一に酒を注ぐ、今それを見たくない。
こんな本音は自分でも可笑しくて、笑った腕ぽんと敲かれた。
「おまえがコンナに呑む気って珍しいね、み・や・た?」
底抜けに明るい目が笑ってくれる。
きっと自分の想いなんて気づいていない、そんなザイルパートナーに笑いかけた。
「国村さんのリクエストに応えようとしてるんですよ、俺を酔い潰したいんでしょう?」
こう言えば断られない。
確信と笑いかけた先、澄んだ瞳は愉快に笑った。
「だね?セッカクだし佐伯、宮田に注いでやってくれるかね?」
この男に言われたら注ぐしかないだろう?
―さて、どうする佐伯?
きっと本当は注ぎたくない、でも注ぐしかない。
そんな本音が解かるから注がせたくなる酒を武骨な手は傾けた。
「はい、」
「ありがとうございます、」
受けた盃ことん、卓へ置く。
そのまま徳利ひとつ掴むと笑いかけた。
「佐伯さんにも注がせて下さい、どうぞ?」
自分と酌み交わす、なんて望むところじゃないだろう?
だからこそ注いでやりたい底意地に山っ子が笑った。
「佐伯も受けてやんなね、飲んだ回数を合わせないとさ?」
「それもそうですね、」
武骨な手も蕎麦猪口さしだしてくれる。
その横顔は雪焼さわやかで、引き締まった口元さらり笑った。
「いただきます、」
盃を呷る、その仕草どこまでも潔い。
―それに底が明るいんだ、裏表ないんだろうな?
仕草ひとつ表情ひとつ相手を見る。
この男と明日からザイルを繋ぐ、もう近い未来と酒を呑みこんだ。
そして置いた盃の向こう、雪焼さわやかな笑顔ぐらり傾いた。
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
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