yet is loth to lose me 自分の位置
第85話 暮春 act.11-side story「陽はまた昇る」
罰杯(ばっぱい) 宴席で罰として酒を飲ませること、またはその酒。
「ってワケで宮田と佐伯は全員の盃を受けてもらうね、先に潰れた方が負けだよ?」
朗らかなテノール愉快に笑ってくれる。
底抜けに明るい目は陽気で、そんな同齢の上司に英二は笑った。
「呑むのはいいですけど国村さん、帰りの運転はどうするんですか?指揮車に代車は頼めませんよ、」
だから今夜は呑まない予定でいる。
それなのに上司かつザイルパートナーは言った。
「黒木がしてくれるよ、だから宮田は遠慮なくイっちゃいなね?」
準備しっかりしているんだ?
あいかわらず油断ない上司に笑いかけた。
「遠慮なくって言われても黒木さんに悪いですよ?」
「悪いコトないよ、黒木からの提案だからね?ちゃんと黒木はノンアルコールしてるから心配いらないよ、」
からり応えられて追い詰められる。
もう呑むしかないだろうか?そんな酒席に困り顔が笑った。
「ほんとに俺から提案したんだ、国村さんが餞別に泥酔した宮田を見たいって言うからな?俺もちょっと見たいし、」
そんなもの見てどうするのだろう?
考えながらも可笑しくて笑ってしまった。
「酔っぱらった俺を見て面白いんですか?せっかく青梅署も五日市署もいる席なのに、」
今夜は第七機動隊だけじゃない、合同訓練を共にした全員がいる。
それでも陽気な上司はからり言った。
「みんないるから面白いんだろが?イザとなったら藤岡と原がおまえの面倒見てくれるしさ、安心して飲んじゃいな?」
懐かしい名前と蕎麦猪口もちだしてくれる。
受けとった藍の染付は大ぶりで、そんな盃に肩ひとつ叩かれた。
「そういうわけだから宮田、潰れたら俺んとこ泊れな?いちおう寮にも許可もらったよ、」
この朗らかな声は懐かしい。
ひさしぶりの笑顔にほっと笑いかけた。
「ありがとな藤岡、でも反対するって選択肢はナシ?」
「あははっ、俺が反対する理由なんてないだろ?国村の餞別に呑んでやりなよ、」
大きな目くるくる笑ってくれる。
あいかわらず明るい同期、けれど逞しくなった腕に微笑んだ。
「なんか藤岡、大きくなったな?」
背は高くない、そのくせ頑健だと感じさせる。
この健やかさは超えた過去だろうか、そんな笑顔が肩また敲いてくれた。
「宮田も雰囲気なんか変わったよな?話したいけど今は呑んでこいよ、」
「うん、ありがとな藤岡、」
笑った掌の盃に酒が注がれる。
徳利ゆるやかな音に香たつ、あまやかな馥郁に山ヤが笑った。
「宮田は肚が決まったね?佐伯も罰杯キッチリ受けてくれるかね、」
底抜けに明るい目は愉しげでいる。
ご機嫌、そんな笑顔に雪焼あざやかな青年が訊いた。
「いいですけど国村さん、俺が罰杯もらう理由はなんですか?」
「宮田のパートナーとして連帯責任だよ、一日フライングだけどさ?ほら蕎麦猪口とりな、」
深いテノール朗らかに蕎麦猪口さしだす。
その盃を節くれた掌は受けとった。
「国村さんのご指名じゃ断れないですね、」
応える低い声が笑う、凛々しい口元ほころぶ。
雪焼あざやかな笑顔どこまでも爽やかで、そっと肚底うずく。
―あんな貌で笑うんだ光一には、そっか?
なぜ自分にだけ態度が違うのか?
その理由なんだか解かる気がする、だってこの笑顔だ?
そこにある肚底を見つめて英二はきれいに笑った。
「佐伯さん、遠慮なく呑みましょう?」
些細なことも負けたくない、この男には。
そんな想い向きあったテーブルに雪焼の顔すこし笑った。
「いいよ、呑もう、」
穏やかな声は低く静かに響く、その瞳まっすぐ澄んでいた。
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
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英二24歳3月下旬
第85話 暮春 act.11-side story「陽はまた昇る」
罰杯(ばっぱい) 宴席で罰として酒を飲ませること、またはその酒。
「ってワケで宮田と佐伯は全員の盃を受けてもらうね、先に潰れた方が負けだよ?」
朗らかなテノール愉快に笑ってくれる。
底抜けに明るい目は陽気で、そんな同齢の上司に英二は笑った。
「呑むのはいいですけど国村さん、帰りの運転はどうするんですか?指揮車に代車は頼めませんよ、」
だから今夜は呑まない予定でいる。
それなのに上司かつザイルパートナーは言った。
「黒木がしてくれるよ、だから宮田は遠慮なくイっちゃいなね?」
準備しっかりしているんだ?
あいかわらず油断ない上司に笑いかけた。
「遠慮なくって言われても黒木さんに悪いですよ?」
「悪いコトないよ、黒木からの提案だからね?ちゃんと黒木はノンアルコールしてるから心配いらないよ、」
からり応えられて追い詰められる。
もう呑むしかないだろうか?そんな酒席に困り顔が笑った。
「ほんとに俺から提案したんだ、国村さんが餞別に泥酔した宮田を見たいって言うからな?俺もちょっと見たいし、」
そんなもの見てどうするのだろう?
考えながらも可笑しくて笑ってしまった。
「酔っぱらった俺を見て面白いんですか?せっかく青梅署も五日市署もいる席なのに、」
今夜は第七機動隊だけじゃない、合同訓練を共にした全員がいる。
それでも陽気な上司はからり言った。
「みんないるから面白いんだろが?イザとなったら藤岡と原がおまえの面倒見てくれるしさ、安心して飲んじゃいな?」
懐かしい名前と蕎麦猪口もちだしてくれる。
受けとった藍の染付は大ぶりで、そんな盃に肩ひとつ叩かれた。
「そういうわけだから宮田、潰れたら俺んとこ泊れな?いちおう寮にも許可もらったよ、」
この朗らかな声は懐かしい。
ひさしぶりの笑顔にほっと笑いかけた。
「ありがとな藤岡、でも反対するって選択肢はナシ?」
「あははっ、俺が反対する理由なんてないだろ?国村の餞別に呑んでやりなよ、」
大きな目くるくる笑ってくれる。
あいかわらず明るい同期、けれど逞しくなった腕に微笑んだ。
「なんか藤岡、大きくなったな?」
背は高くない、そのくせ頑健だと感じさせる。
この健やかさは超えた過去だろうか、そんな笑顔が肩また敲いてくれた。
「宮田も雰囲気なんか変わったよな?話したいけど今は呑んでこいよ、」
「うん、ありがとな藤岡、」
笑った掌の盃に酒が注がれる。
徳利ゆるやかな音に香たつ、あまやかな馥郁に山ヤが笑った。
「宮田は肚が決まったね?佐伯も罰杯キッチリ受けてくれるかね、」
底抜けに明るい目は愉しげでいる。
ご機嫌、そんな笑顔に雪焼あざやかな青年が訊いた。
「いいですけど国村さん、俺が罰杯もらう理由はなんですか?」
「宮田のパートナーとして連帯責任だよ、一日フライングだけどさ?ほら蕎麦猪口とりな、」
深いテノール朗らかに蕎麦猪口さしだす。
その盃を節くれた掌は受けとった。
「国村さんのご指名じゃ断れないですね、」
応える低い声が笑う、凛々しい口元ほころぶ。
雪焼あざやかな笑顔どこまでも爽やかで、そっと肚底うずく。
―あんな貌で笑うんだ光一には、そっか?
なぜ自分にだけ態度が違うのか?
その理由なんだか解かる気がする、だってこの笑顔だ?
そこにある肚底を見つめて英二はきれいに笑った。
「佐伯さん、遠慮なく呑みましょう?」
些細なことも負けたくない、この男には。
そんな想い向きあったテーブルに雪焼の顔すこし笑った。
「いいよ、呑もう、」
穏やかな声は低く静かに響く、その瞳まっすぐ澄んでいた。
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
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