そして朝は
第85話 春鎮 act.11-another,side story「陽はまた昇る」
目が覚めて、想うのは君のこと。
「…ん、」
視界やわらかに明るます、シーツの波しずかな白い光。
頬ふれるコットン優しい温もり、それでも白い波に周太は昨日を見た。
―…ごめんねカイ僕はっ…でもぼくは、まだすきなんだ…、
潮風に泣いているのは、僕の声。
茶色い温もり抱きしめ泣いている、優しい茶色の犬にすがって泣く。
どうしても忘れられない唯ひとり、ただ君に泣いている。
「…でもぼくは、まだ好きなんだ…、」
声なぞって鼓動そっと熱ともる。
あれが自分の本音、だから昨日ひとつ宣言した。
その言葉を真実にするのは今日だ、覚悟ほっと息つき起きあがる。
ほら、カーテンのむこうきっと晴れ。
「ん、」
ベッド降りた指さき冷たい、でも昨日より柔らかい。
ふれる床まっすぐ光さす、また春が近づく朝陽にカーテンごと窓ひらいた。
「ん…いい天気、」
青い空、ベランダあふれる花の先は青い海。
潮騒やわらかに青色うねる、銀色きらきら朝陽ゆらす。
「…いいてんき、だね…」
今日はいい天気だ、終りのスタートに。
キャンパスも花が咲く。
「きれい…、」
微笑んだ頭上、薄紅ちいさく青映える。
澄んで晴れた空はるか明るくて、朝のキャンパスどこか華やぐ。
もう据えられた掲示板は貼りだし待つばかり、そんな図書館前を過ぎて呼ばれた。
「しゅうーた、周太っ、」
靴音ひとつ駆けてくる、ラバーソール軽やかに明るい。
その声も闊達に懐かしくて、ふりむいて笑った。
「賢弥…おはよう、」
おはよう、って言う前に「ひさしぶり」が正しい?
すこしの途惑いと見つめた真中、眼鏡の瞳ぱっと笑った。
「おはよ周太、喘息たいへんだったな?ホントにもう平気?」
浅黒い顔くしゃっと笑う、記憶のまま明るい顔。
明敏な瞳どこまでも無邪気で、ただ温かで響いてしまう。
「ん…ありがとう賢弥、」
うなずいて瞳、熱ゆるむ。
こぼれだしそうで顔上げた先、ほころぶ薄紅に笑った。
「桜きれいだね…染井吉野の他もある?」
「少ないけどあるよ、実生の変異かもしれないけど、」
闊達な笑顔すぐ隣きてくれる。
並んで歩きだすキャンパス、華やぎと緊張に友達は笑った。
「やっぱ緊張するよな、合格発表って、」
眼鏡ひょいと直しながら瞳が笑う。
のどやかなくせ敏捷な眼に笑いかけた。
「うん…自分のじゃないとなおさらかも、」
「だよなあ、ほんとそれだ、」
肯いてブルゾンの肩くるり回す。
心身ほぐしている?そんな仕草の友達は言った。
「でも周太、俺たちだって他人事じゃないだろ?秋なんてすぐだぞ、」
秋、なんだろう?
「…秋、」
秋は特別だ、自分にとって。
もう一昨年になる秋つい見つめて、けれど闊達な瞳は言った。
「この秋だろ周太?俺たちの大学院入試、」
ああ、その話だったんだ。
納得すぐ頷きながらも不思議で、それとなく訊いた。
「そうだね…おばあさまと話したの、賢弥?」
たぶんそうだろう?
推測と微笑んだ隣、気さくな笑顔は肯いた。
「話したよ、入試のために仕事も辞めるから忙しかったんだろ?無理しすぎたんだろ周太、」
あ、そういう話にしてくれたんだ?
-嘘にはならないようにしてくれてる、おばあさま…、
本音、大叔母はいくらか強引だ。
けれど自分の気持ちを解かってくれている、その信頼と微笑んだ。
「うん…ちょっと無理しすぎたんだ、迷惑かけてごめんね?」
この友人にも迷惑きっとかけている。
予定約束それだけ果たせなかった、けれど闊達な瞳が笑った。
「あははっ、周太のせいで俺、仏語だいぶ翻訳力アップしたぞ?」
「あ、田嶋先生のお手伝いもしてくれたの?」
すこし意外で見つめてしまう。
だってフランス語は苦手だったはず?それでも向学心の声は言った。
「田嶋先生すげーしょげてたんだぞ?周太がらみなら慰める適任者は俺だし、」
午前の陽ゆれるキャンパス、友達が笑う。
凛と冴えた青空ふたり歩く光、ただ優しくて解からなくなる。
「うん…ありがとう賢弥、田嶋先生いらしてるかな?」
「たぶんウチの研究室にいるな、待ち伏せする言ってたから、」
闊達な笑顔が応えてくれる、ただ朗らかに冴えて明るい。
あたりまえに寄りそって歩いてくれる、その温もり瞳の底にふかい。
(to be continued)
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harushizume―周太24歳3下旬
第85話 春鎮 act.11-another,side story「陽はまた昇る」
目が覚めて、想うのは君のこと。
「…ん、」
視界やわらかに明るます、シーツの波しずかな白い光。
頬ふれるコットン優しい温もり、それでも白い波に周太は昨日を見た。
―…ごめんねカイ僕はっ…でもぼくは、まだすきなんだ…、
潮風に泣いているのは、僕の声。
茶色い温もり抱きしめ泣いている、優しい茶色の犬にすがって泣く。
どうしても忘れられない唯ひとり、ただ君に泣いている。
「…でもぼくは、まだ好きなんだ…、」
声なぞって鼓動そっと熱ともる。
あれが自分の本音、だから昨日ひとつ宣言した。
その言葉を真実にするのは今日だ、覚悟ほっと息つき起きあがる。
ほら、カーテンのむこうきっと晴れ。
「ん、」
ベッド降りた指さき冷たい、でも昨日より柔らかい。
ふれる床まっすぐ光さす、また春が近づく朝陽にカーテンごと窓ひらいた。
「ん…いい天気、」
青い空、ベランダあふれる花の先は青い海。
潮騒やわらかに青色うねる、銀色きらきら朝陽ゆらす。
「…いいてんき、だね…」
今日はいい天気だ、終りのスタートに。
キャンパスも花が咲く。
「きれい…、」
微笑んだ頭上、薄紅ちいさく青映える。
澄んで晴れた空はるか明るくて、朝のキャンパスどこか華やぐ。
もう据えられた掲示板は貼りだし待つばかり、そんな図書館前を過ぎて呼ばれた。
「しゅうーた、周太っ、」
靴音ひとつ駆けてくる、ラバーソール軽やかに明るい。
その声も闊達に懐かしくて、ふりむいて笑った。
「賢弥…おはよう、」
おはよう、って言う前に「ひさしぶり」が正しい?
すこしの途惑いと見つめた真中、眼鏡の瞳ぱっと笑った。
「おはよ周太、喘息たいへんだったな?ホントにもう平気?」
浅黒い顔くしゃっと笑う、記憶のまま明るい顔。
明敏な瞳どこまでも無邪気で、ただ温かで響いてしまう。
「ん…ありがとう賢弥、」
うなずいて瞳、熱ゆるむ。
こぼれだしそうで顔上げた先、ほころぶ薄紅に笑った。
「桜きれいだね…染井吉野の他もある?」
「少ないけどあるよ、実生の変異かもしれないけど、」
闊達な笑顔すぐ隣きてくれる。
並んで歩きだすキャンパス、華やぎと緊張に友達は笑った。
「やっぱ緊張するよな、合格発表って、」
眼鏡ひょいと直しながら瞳が笑う。
のどやかなくせ敏捷な眼に笑いかけた。
「うん…自分のじゃないとなおさらかも、」
「だよなあ、ほんとそれだ、」
肯いてブルゾンの肩くるり回す。
心身ほぐしている?そんな仕草の友達は言った。
「でも周太、俺たちだって他人事じゃないだろ?秋なんてすぐだぞ、」
秋、なんだろう?
「…秋、」
秋は特別だ、自分にとって。
もう一昨年になる秋つい見つめて、けれど闊達な瞳は言った。
「この秋だろ周太?俺たちの大学院入試、」
ああ、その話だったんだ。
納得すぐ頷きながらも不思議で、それとなく訊いた。
「そうだね…おばあさまと話したの、賢弥?」
たぶんそうだろう?
推測と微笑んだ隣、気さくな笑顔は肯いた。
「話したよ、入試のために仕事も辞めるから忙しかったんだろ?無理しすぎたんだろ周太、」
あ、そういう話にしてくれたんだ?
-嘘にはならないようにしてくれてる、おばあさま…、
本音、大叔母はいくらか強引だ。
けれど自分の気持ちを解かってくれている、その信頼と微笑んだ。
「うん…ちょっと無理しすぎたんだ、迷惑かけてごめんね?」
この友人にも迷惑きっとかけている。
予定約束それだけ果たせなかった、けれど闊達な瞳が笑った。
「あははっ、周太のせいで俺、仏語だいぶ翻訳力アップしたぞ?」
「あ、田嶋先生のお手伝いもしてくれたの?」
すこし意外で見つめてしまう。
だってフランス語は苦手だったはず?それでも向学心の声は言った。
「田嶋先生すげーしょげてたんだぞ?周太がらみなら慰める適任者は俺だし、」
午前の陽ゆれるキャンパス、友達が笑う。
凛と冴えた青空ふたり歩く光、ただ優しくて解からなくなる。
「うん…ありがとう賢弥、田嶋先生いらしてるかな?」
「たぶんウチの研究室にいるな、待ち伏せする言ってたから、」
闊達な笑顔が応えてくれる、ただ朗らかに冴えて明るい。
あたりまえに寄りそって歩いてくれる、その温もり瞳の底にふかい。
(to be continued)
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