そして朝は
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/f2/c185f6d79905672c58a9695eddbc7f7c.jpg)
第85話 春鎮 act.11-another,side story「陽はまた昇る」
目が覚めて、想うのは君のこと。
「…ん、」
視界やわらかに明るます、シーツの波しずかな白い光。
頬ふれるコットン優しい温もり、それでも白い波に周太は昨日を見た。
―…ごめんねカイ僕はっ…でもぼくは、まだすきなんだ…、
潮風に泣いているのは、僕の声。
茶色い温もり抱きしめ泣いている、優しい茶色の犬にすがって泣く。
どうしても忘れられない唯ひとり、ただ君に泣いている。
「…でもぼくは、まだ好きなんだ…、」
声なぞって鼓動そっと熱ともる。
あれが自分の本音、だから昨日ひとつ宣言した。
その言葉を真実にするのは今日だ、覚悟ほっと息つき起きあがる。
ほら、カーテンのむこうきっと晴れ。
「ん、」
ベッド降りた指さき冷たい、でも昨日より柔らかい。
ふれる床まっすぐ光さす、また春が近づく朝陽にカーテンごと窓ひらいた。
「ん…いい天気、」
青い空、ベランダあふれる花の先は青い海。
潮騒やわらかに青色うねる、銀色きらきら朝陽ゆらす。
「…いいてんき、だね…」
今日はいい天気だ、終りのスタートに。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/f0/cd3966b38e4d6761c5a04c3c71572c86.jpg)
キャンパスも花が咲く。
「きれい…、」
微笑んだ頭上、薄紅ちいさく青映える。
澄んで晴れた空はるか明るくて、朝のキャンパスどこか華やぐ。
もう据えられた掲示板は貼りだし待つばかり、そんな図書館前を過ぎて呼ばれた。
「しゅうーた、周太っ、」
靴音ひとつ駆けてくる、ラバーソール軽やかに明るい。
その声も闊達に懐かしくて、ふりむいて笑った。
「賢弥…おはよう、」
おはよう、って言う前に「ひさしぶり」が正しい?
すこしの途惑いと見つめた真中、眼鏡の瞳ぱっと笑った。
「おはよ周太、喘息たいへんだったな?ホントにもう平気?」
浅黒い顔くしゃっと笑う、記憶のまま明るい顔。
明敏な瞳どこまでも無邪気で、ただ温かで響いてしまう。
「ん…ありがとう賢弥、」
うなずいて瞳、熱ゆるむ。
こぼれだしそうで顔上げた先、ほころぶ薄紅に笑った。
「桜きれいだね…染井吉野の他もある?」
「少ないけどあるよ、実生の変異かもしれないけど、」
闊達な笑顔すぐ隣きてくれる。
並んで歩きだすキャンパス、華やぎと緊張に友達は笑った。
「やっぱ緊張するよな、合格発表って、」
眼鏡ひょいと直しながら瞳が笑う。
のどやかなくせ敏捷な眼に笑いかけた。
「うん…自分のじゃないとなおさらかも、」
「だよなあ、ほんとそれだ、」
肯いてブルゾンの肩くるり回す。
心身ほぐしている?そんな仕草の友達は言った。
「でも周太、俺たちだって他人事じゃないだろ?秋なんてすぐだぞ、」
秋、なんだろう?
「…秋、」
秋は特別だ、自分にとって。
もう一昨年になる秋つい見つめて、けれど闊達な瞳は言った。
「この秋だろ周太?俺たちの大学院入試、」
ああ、その話だったんだ。
納得すぐ頷きながらも不思議で、それとなく訊いた。
「そうだね…おばあさまと話したの、賢弥?」
たぶんそうだろう?
推測と微笑んだ隣、気さくな笑顔は肯いた。
「話したよ、入試のために仕事も辞めるから忙しかったんだろ?無理しすぎたんだろ周太、」
あ、そういう話にしてくれたんだ?
-嘘にはならないようにしてくれてる、おばあさま…、
本音、大叔母はいくらか強引だ。
けれど自分の気持ちを解かってくれている、その信頼と微笑んだ。
「うん…ちょっと無理しすぎたんだ、迷惑かけてごめんね?」
この友人にも迷惑きっとかけている。
予定約束それだけ果たせなかった、けれど闊達な瞳が笑った。
「あははっ、周太のせいで俺、仏語だいぶ翻訳力アップしたぞ?」
「あ、田嶋先生のお手伝いもしてくれたの?」
すこし意外で見つめてしまう。
だってフランス語は苦手だったはず?それでも向学心の声は言った。
「田嶋先生すげーしょげてたんだぞ?周太がらみなら慰める適任者は俺だし、」
午前の陽ゆれるキャンパス、友達が笑う。
凛と冴えた青空ふたり歩く光、ただ優しくて解からなくなる。
「うん…ありがとう賢弥、田嶋先生いらしてるかな?」
「たぶんウチの研究室にいるな、待ち伏せする言ってたから、」
闊達な笑顔が応えてくれる、ただ朗らかに冴えて明るい。
あたりまえに寄りそって歩いてくれる、その温もり瞳の底にふかい。
(to be continued)
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harushizume―周太24歳3下旬
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第85話 春鎮 act.11-another,side story「陽はまた昇る」
目が覚めて、想うのは君のこと。
「…ん、」
視界やわらかに明るます、シーツの波しずかな白い光。
頬ふれるコットン優しい温もり、それでも白い波に周太は昨日を見た。
―…ごめんねカイ僕はっ…でもぼくは、まだすきなんだ…、
潮風に泣いているのは、僕の声。
茶色い温もり抱きしめ泣いている、優しい茶色の犬にすがって泣く。
どうしても忘れられない唯ひとり、ただ君に泣いている。
「…でもぼくは、まだ好きなんだ…、」
声なぞって鼓動そっと熱ともる。
あれが自分の本音、だから昨日ひとつ宣言した。
その言葉を真実にするのは今日だ、覚悟ほっと息つき起きあがる。
ほら、カーテンのむこうきっと晴れ。
「ん、」
ベッド降りた指さき冷たい、でも昨日より柔らかい。
ふれる床まっすぐ光さす、また春が近づく朝陽にカーテンごと窓ひらいた。
「ん…いい天気、」
青い空、ベランダあふれる花の先は青い海。
潮騒やわらかに青色うねる、銀色きらきら朝陽ゆらす。
「…いいてんき、だね…」
今日はいい天気だ、終りのスタートに。
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キャンパスも花が咲く。
「きれい…、」
微笑んだ頭上、薄紅ちいさく青映える。
澄んで晴れた空はるか明るくて、朝のキャンパスどこか華やぐ。
もう据えられた掲示板は貼りだし待つばかり、そんな図書館前を過ぎて呼ばれた。
「しゅうーた、周太っ、」
靴音ひとつ駆けてくる、ラバーソール軽やかに明るい。
その声も闊達に懐かしくて、ふりむいて笑った。
「賢弥…おはよう、」
おはよう、って言う前に「ひさしぶり」が正しい?
すこしの途惑いと見つめた真中、眼鏡の瞳ぱっと笑った。
「おはよ周太、喘息たいへんだったな?ホントにもう平気?」
浅黒い顔くしゃっと笑う、記憶のまま明るい顔。
明敏な瞳どこまでも無邪気で、ただ温かで響いてしまう。
「ん…ありがとう賢弥、」
うなずいて瞳、熱ゆるむ。
こぼれだしそうで顔上げた先、ほころぶ薄紅に笑った。
「桜きれいだね…染井吉野の他もある?」
「少ないけどあるよ、実生の変異かもしれないけど、」
闊達な笑顔すぐ隣きてくれる。
並んで歩きだすキャンパス、華やぎと緊張に友達は笑った。
「やっぱ緊張するよな、合格発表って、」
眼鏡ひょいと直しながら瞳が笑う。
のどやかなくせ敏捷な眼に笑いかけた。
「うん…自分のじゃないとなおさらかも、」
「だよなあ、ほんとそれだ、」
肯いてブルゾンの肩くるり回す。
心身ほぐしている?そんな仕草の友達は言った。
「でも周太、俺たちだって他人事じゃないだろ?秋なんてすぐだぞ、」
秋、なんだろう?
「…秋、」
秋は特別だ、自分にとって。
もう一昨年になる秋つい見つめて、けれど闊達な瞳は言った。
「この秋だろ周太?俺たちの大学院入試、」
ああ、その話だったんだ。
納得すぐ頷きながらも不思議で、それとなく訊いた。
「そうだね…おばあさまと話したの、賢弥?」
たぶんそうだろう?
推測と微笑んだ隣、気さくな笑顔は肯いた。
「話したよ、入試のために仕事も辞めるから忙しかったんだろ?無理しすぎたんだろ周太、」
あ、そういう話にしてくれたんだ?
-嘘にはならないようにしてくれてる、おばあさま…、
本音、大叔母はいくらか強引だ。
けれど自分の気持ちを解かってくれている、その信頼と微笑んだ。
「うん…ちょっと無理しすぎたんだ、迷惑かけてごめんね?」
この友人にも迷惑きっとかけている。
予定約束それだけ果たせなかった、けれど闊達な瞳が笑った。
「あははっ、周太のせいで俺、仏語だいぶ翻訳力アップしたぞ?」
「あ、田嶋先生のお手伝いもしてくれたの?」
すこし意外で見つめてしまう。
だってフランス語は苦手だったはず?それでも向学心の声は言った。
「田嶋先生すげーしょげてたんだぞ?周太がらみなら慰める適任者は俺だし、」
午前の陽ゆれるキャンパス、友達が笑う。
凛と冴えた青空ふたり歩く光、ただ優しくて解からなくなる。
「うん…ありがとう賢弥、田嶋先生いらしてるかな?」
「たぶんウチの研究室にいるな、待ち伏せする言ってたから、」
闊達な笑顔が応えてくれる、ただ朗らかに冴えて明るい。
あたりまえに寄りそって歩いてくれる、その温もり瞳の底にふかい。
(to be continued)
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