雪がふる、君を。
第X話 聖夜山守 「Angel's tale」 ―「Future Christmas 」side story S.P
風なびく、雪が舞う。
「は…」
吐息そっと白くなる、ネックゲイターかすめて靄くゆらす。
さくり登山靴の底に雪が鳴る、やわらかな雪はまだ新しい。
それでも今夜には凍るだろう、冷厳の夕山に無線ふるえた。
「はい、こちら宮田、」
繋いで自分の名前がなじむ。
すこし切ない自称を同僚も呼んだ。
「こちら原、異常なしだ。石尾根はどうだ?」
「異常ありません、装備不足の2名に下山を促しましたが、引き返したので大丈夫かと、」
答えながら聴覚に風ふれる。
上空はるかな風音なだからで、おだやかな降雪に微笑んだ。
「良いホワイトクリスマスですね、原さん直帰でいいよ?」
きっと待っているだろう?
微笑んだ無線ごし、低い声はにかんだ。
「あー…気ぃ遣ってんならいいぞ?」
照れている、その貌なんだか見えてしまう。
浅黒い頬ちょっと掻いている?そんな同僚に笑いかけた。
「遣わないわけいかないですよ、新婚はじめてのクリスマスだろ?」
「う…まあ、そうだけどさ、」
くちごもる声の向こう、アイゼンの雪音リズミカルに速い。
聞こえる本音に帰らせてあげたくて笑った。
「直帰とはいっても備品の預けはお願いします、おつかれさまでした、」
青梅署なら帰宅経路だ?
笑いかけた先、低い声ぶっきらぼうに言った。
「わかった、じゃ、明日また、」
無線すっと切れて笑いたくなる。
あれは本気、かつ全力の照れだ?
―ほんと可愛いよな、原さん?
雪空の道つい笑ってしまう。
先輩で同僚の貌を思うと可笑しくて、笑いたい道を交番に着いた。
「宮田、ただいま戻りました、」
声かけて扉をくぐる。
乾いた香ふわり頬なでて、ストーブの熱やわらかに呼ばれた。
「おう宮田、おつかれさん、」
「おつかれさまです後藤さん、まだいらしたんですね?」
笑いかけて深い瞳も笑ってくれる。
青い冬隊服のベテランは湯呑ふき吹き言った。
「そりゃいるさ、当番勤務だからな?」
飄々と笑ってくれる、その言葉に瞳ひとつ瞬いた。
「後藤さんが当番勤務するんですか?」
当番勤務は24時間体制で交番に詰める。
合間に8時間の休憩はあるが実質、書類作成などで徹夜も珍しくない。
ローテーションで最もハードな勤務形態で、だから意外な相手はからり笑った。
「堀田の代打だよ、あいつもサンタクロースしないとイカンだろう?クリスマス・イヴだからなあ、」
深い瞳が大らかに笑う。
日焼けあざやかなベテランに敬意と微笑んだ。
「そういうことですか。堀田さんにとったら、後藤さんがサンタクロースですね?」
「あっはは、そうかもしれんなあ、」
朗らかな空気がストーブに温かい。
暮れてゆく山懐、雪ふる交番の窓辺に言われた。
「宮田はいいのかい?今夜こんなところにいて、」
今夜、
その窓に面影そっと映りこむ。
今ごろ何しているだろう?ただ想い微笑んだ。
「今夜は演習林の仲間で集まるそうです、美代さんも一緒で、」
楽しい時間にいるだろうか、君は今?
願うような縋るような、小さな痛みにベテラン山ヤが言った。
「宮田、サンタが来たぞ?」
ぱちっ、
ストーブ爆ぜて香が乾く。
冬の匂い懐かしい、そんな感想と言葉に笑った。
「サンタが来たって、なんかの謎かけですか?」
ストーブかすかな音に乾いた香、灯油やわらかに燃える匂い。
零下に曇らす窓を白が舞う、雪ふる交番の扉そっと軋んだ。
「あの、こんばんは?」
声ひとつ、雪そっと吹きこむ。
遠慮がちな穏やかな声、気配、それからブルーグレーのダッフルコート。
ああそうか、サンタクロースが来た。
「やあ、久しぶりだなあ?元気かい、まずストーブにあたっとくれ、」
青い隊服姿が立ち上がる。
深い瞳は楽しげで、小柄なダッフルコート姿も微笑んだ。
「はい…おひさしぶりです、ご無沙汰をすみません、」
「いいんだよ、演習林は忙しい時季じゃないかい?研究室との往復は大変だろう、」
「はい、おかげさまでだいぶ慣れました…後藤さんもお元気そうですね?」
「おかげさまで元気だよ、そこにいるヤツが頑張ってくれとるからなあ、」
ベテラン山ヤが笑う、小柄なダッフルコートも微笑む。
雪の滴きらきら黒髪やわらかい、その横顔しずかに薄紅のぼせる。
「あの、おべんとう差し入れに来ました…よかったら後藤さんも一緒に、どうぞ?」
包そっと机に置いてくれる手、指先やわらかに赤い。
寒い中を来てくれた、その黒目がちの瞳はにかんだ。
「そういうわけで英二…おつかれさまです、」
小柄なダッフルコートが会釈する、黒髪やわらかな滴こぼす。
クセっ毛やさしい頭ふわり下がって、ぱさりフード被さった。
あ、天使だ?
「えっ、ぇえいじ?」
呼んでくれる、戸惑う声に腕を伸ばす。
抱きしめて懐そっと柑橘あまく香って、凍えたコートがただ愛しい。
「うん…ありがとな?」
言葉そっと抱きしめた唇、君の髪が香る。
(to be continued)
にほんブログ村
blogramランキング参加中!
英二X歳@第85話+α年
第X話 聖夜山守 「Angel's tale」 ―「Future Christmas 」side story S.P
風なびく、雪が舞う。
「は…」
吐息そっと白くなる、ネックゲイターかすめて靄くゆらす。
さくり登山靴の底に雪が鳴る、やわらかな雪はまだ新しい。
それでも今夜には凍るだろう、冷厳の夕山に無線ふるえた。
「はい、こちら宮田、」
繋いで自分の名前がなじむ。
すこし切ない自称を同僚も呼んだ。
「こちら原、異常なしだ。石尾根はどうだ?」
「異常ありません、装備不足の2名に下山を促しましたが、引き返したので大丈夫かと、」
答えながら聴覚に風ふれる。
上空はるかな風音なだからで、おだやかな降雪に微笑んだ。
「良いホワイトクリスマスですね、原さん直帰でいいよ?」
きっと待っているだろう?
微笑んだ無線ごし、低い声はにかんだ。
「あー…気ぃ遣ってんならいいぞ?」
照れている、その貌なんだか見えてしまう。
浅黒い頬ちょっと掻いている?そんな同僚に笑いかけた。
「遣わないわけいかないですよ、新婚はじめてのクリスマスだろ?」
「う…まあ、そうだけどさ、」
くちごもる声の向こう、アイゼンの雪音リズミカルに速い。
聞こえる本音に帰らせてあげたくて笑った。
「直帰とはいっても備品の預けはお願いします、おつかれさまでした、」
青梅署なら帰宅経路だ?
笑いかけた先、低い声ぶっきらぼうに言った。
「わかった、じゃ、明日また、」
無線すっと切れて笑いたくなる。
あれは本気、かつ全力の照れだ?
―ほんと可愛いよな、原さん?
雪空の道つい笑ってしまう。
先輩で同僚の貌を思うと可笑しくて、笑いたい道を交番に着いた。
「宮田、ただいま戻りました、」
声かけて扉をくぐる。
乾いた香ふわり頬なでて、ストーブの熱やわらかに呼ばれた。
「おう宮田、おつかれさん、」
「おつかれさまです後藤さん、まだいらしたんですね?」
笑いかけて深い瞳も笑ってくれる。
青い冬隊服のベテランは湯呑ふき吹き言った。
「そりゃいるさ、当番勤務だからな?」
飄々と笑ってくれる、その言葉に瞳ひとつ瞬いた。
「後藤さんが当番勤務するんですか?」
当番勤務は24時間体制で交番に詰める。
合間に8時間の休憩はあるが実質、書類作成などで徹夜も珍しくない。
ローテーションで最もハードな勤務形態で、だから意外な相手はからり笑った。
「堀田の代打だよ、あいつもサンタクロースしないとイカンだろう?クリスマス・イヴだからなあ、」
深い瞳が大らかに笑う。
日焼けあざやかなベテランに敬意と微笑んだ。
「そういうことですか。堀田さんにとったら、後藤さんがサンタクロースですね?」
「あっはは、そうかもしれんなあ、」
朗らかな空気がストーブに温かい。
暮れてゆく山懐、雪ふる交番の窓辺に言われた。
「宮田はいいのかい?今夜こんなところにいて、」
今夜、
その窓に面影そっと映りこむ。
今ごろ何しているだろう?ただ想い微笑んだ。
「今夜は演習林の仲間で集まるそうです、美代さんも一緒で、」
楽しい時間にいるだろうか、君は今?
願うような縋るような、小さな痛みにベテラン山ヤが言った。
「宮田、サンタが来たぞ?」
ぱちっ、
ストーブ爆ぜて香が乾く。
冬の匂い懐かしい、そんな感想と言葉に笑った。
「サンタが来たって、なんかの謎かけですか?」
ストーブかすかな音に乾いた香、灯油やわらかに燃える匂い。
零下に曇らす窓を白が舞う、雪ふる交番の扉そっと軋んだ。
「あの、こんばんは?」
声ひとつ、雪そっと吹きこむ。
遠慮がちな穏やかな声、気配、それからブルーグレーのダッフルコート。
ああそうか、サンタクロースが来た。
「やあ、久しぶりだなあ?元気かい、まずストーブにあたっとくれ、」
青い隊服姿が立ち上がる。
深い瞳は楽しげで、小柄なダッフルコート姿も微笑んだ。
「はい…おひさしぶりです、ご無沙汰をすみません、」
「いいんだよ、演習林は忙しい時季じゃないかい?研究室との往復は大変だろう、」
「はい、おかげさまでだいぶ慣れました…後藤さんもお元気そうですね?」
「おかげさまで元気だよ、そこにいるヤツが頑張ってくれとるからなあ、」
ベテラン山ヤが笑う、小柄なダッフルコートも微笑む。
雪の滴きらきら黒髪やわらかい、その横顔しずかに薄紅のぼせる。
「あの、おべんとう差し入れに来ました…よかったら後藤さんも一緒に、どうぞ?」
包そっと机に置いてくれる手、指先やわらかに赤い。
寒い中を来てくれた、その黒目がちの瞳はにかんだ。
「そういうわけで英二…おつかれさまです、」
小柄なダッフルコートが会釈する、黒髪やわらかな滴こぼす。
クセっ毛やさしい頭ふわり下がって、ぱさりフード被さった。
あ、天使だ?
「えっ、ぇえいじ?」
呼んでくれる、戸惑う声に腕を伸ばす。
抱きしめて懐そっと柑橘あまく香って、凍えたコートがただ愛しい。
「うん…ありがとな?」
言葉そっと抱きしめた唇、君の髪が香る。
(to be continued)
にほんブログ村
blogramランキング参加中!
著作権法より無断利用転載ほか禁じます