萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第85話 春鎮 act.26-another,side story「陽はまた昇る」

2017-04-09 21:32:01 | 陽はまた昇るanother,side story
Thou art more lovely and more temperate.
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.26-another,side story「陽はまた昇る」

からり、扉が開く。

「あ、よかった一番乗りだ周太、」

チタンフレームの瞳ぱっと笑う、ひとなつっこい眼ざし明るい。
こじんまり寛ぐ座敷、腰おろした手がパネルとった。

「腹減ったよなあ、まず何いく周太?」

もう注文していいのかな?
まだ二人の酒席、花束そっと置きながら訊いた。

「でも賢弥、みんなまだだけど…?」
「大丈夫だよ、先にオーダーしとけって言われてるんだ、」

愉しげな笑顔のむこう、活けられた花やさしい。
やわらかな照明に咲く春たちに微笑んだ。

「きれい…さくらに菜の花、かわいいね?」

座敷のかたすみ春が咲く。
匂いやかな薄紅と明るい黄色、燈される花に友達が笑った。

「サクラサクでいいな?合格祝いだって予約したからかも、」
「ん、お祝いらしいね…、」

うなずいて見つめる花ひとつ、ふわり肩くつろぐ。
都会の一室でも花は優しくて、心そっと声こぼれた。

「賢弥、さっきの話だけど…いい? 」

たしかめたい、今すこしだけ。
まだ来ない待ち人の時間にチタンフレームの瞳が笑った。

「ときにオーダーしたらな、オレンジのカクテルあんぞ?」

パネル差しだして明眸が笑ってくれる。
メニュー眺めて、決めて発注すると言ってくれた。

「たぶん5分でくるよ、先生たちは15分後だってさ。そのつもりで話そ?」
「ん…ありがと、」

うなずいて溜息ひとつ、それから息ひとつ呑む。
さっきから聴きたかった疑問ひとつ、そっと声にした。

「僕…もっと驚かれると想ってた、」

どうして君、驚かないでくれたのだろう?

“冷たい偏見で見られる事も知っている。ゲイと知られて、全てを否定された事もありました、”

新宿のガード下、あの青年が言ったこと。
ごく普通の会社員に見えた、それでも否定された現実がある。
あんなふう自分も泣くだろう、そう思っていた現実にチタンフレームの瞳が笑った。

「まあなあ、ヒント無かったら驚いたかもな?」

どういう意味?

「…ひんと?」
「うん、ココロの準備ってあるだろ、お?」

かたん、

気配に眼鏡の視線が扉見る。
瞳笑って、浅黒い指ひとつ口もと立ててくれた。

「一旦停止な周太、予想より2分速かった、」

また話そう?
そんな仕草に扉から声かかる。
ノックからり開いて、運ばれた盆からオレンジ香る。

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 18」】

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