Rough winds do shake the darling buds of May,
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/5c/6c23bea1e1a8bc61ae2c2504defa2224.jpg)
第85話 春鎮 act.29 another,side story「陽はまた昇る」
賑やかな廊下の片隅、呼んでくれる。
「周太?飲み会中にごめんね、」
今朝も聞いた声、でも懐かしくなる。
こんなふう電話では久しぶりな声に微笑んだ。
「ううん…お母さんこそ仕事おつかれさま、いま帰り?」
「まだ会社よ、ちょっと休憩がてらね?」
優しいアルトどこか弾んでいる。
残業中のはず、それでも朗らかな声が言った。
「美代ちゃん合格したのね、ほんと良かったわ、」
祝いの言葉やわらかに明るい。
心から喜んでくれる声に笑いかけた。
「ん、よかったけど…連絡しそびれてごめんね?」
「ふふっ、今回はニュースが連絡くれたわね?合格も恋もよかったわ、」
笑っている声に首すじ熱くなる。
本当は大笑いしたそう?そんなトーンに口開いた。
「あ…のねおかあさんあれはテレビがいったことでぼくたちそんなじゃなから、ね?」
ああどうして撮られちゃったんだろう?
ほらもう頬まで熱い、困らせられる廊下すみっこ言われた。
「そんなかと想ったわ、だって今夜は泊まりに来るんでしょう?」
ああ、そのこと聴いて電話くれたんだ?
納得しながら障子戸の明かり肯いた。
「ね…おばあさまに聴いてくれた?美代さんのお家のこと、」
「今メール見たとこよ、」
アルトやわらかに微笑んでくれる。
いつもどおり穏やかな声、そのまま言ってくれた。
「美代ちゃんの進学ね、こうなる予想お母さんは少ししてたの。旧家の末娘さんなら親御さんとして仕方ないのだと思うわ、」
明かり淡い廊下、母の声やわらかに届く。
誰のことも責めていない、そんな言葉に問いかけた。
「あの…お母さんは解ってたのに引き受けてくれたんだ?」
「考えてたわ、それでも応援したかったの、」
アルト穏やかに優しくて、でも揺るがない。
こんなふう母は強い、あらためての声に頭そっと下げた。
「ありがとうお母さん、…ごめんなさい、」
「お母さんこそごめんなさいよ?美代ちゃんに前もってアドバイスしておくべきだったわ、美代ちゃん今はお酒楽しんでるかしら?」
優しい声にこちら側、アルコールかすかに香る。
廊下あちこち扉ざわめく、にぎやかな酒の香に微笑んだ。
「ん、すごく楽しそうだよ…青木先生も田嶋先生も明るいお酒なんだ、」
「ならよかったわ、いっぱい合格を喜んで笑うときだもの、」
朗らかなアルト温かい。
この声も美代を励ましてくれる、やわらかな信頼に母が言った。
「それでね周?できれば周は今夜、お友達の家に泊めてもらったらどうかしら?」
言われた言葉ゆっくり頭めぐる。
どうしてこんな提案するのだろう?かしげた耳もと言ってくれた。
「年頃のお嬢さんをお泊めするでしょう?そこに若い男がいるってどうかと思ったの、美代ちゃんのご両親を想うと、ね?」
どうして今更そんなこと言うのだろう?
去年と違う母の言葉に尋ねた。
「でもお母さん、去年は普通に泊めてくれたよね?…雪で美代さん帰られなくなったとき、」
「そうね、でも周?あのときとは違うのよ、」
穏やかな声が応えてくれる。
いつもどおり優しいアルト、けれど困ったよう微笑んだ。
「あのときは美代ちゃんのご両親に了解いただいて、だったわね?しかも電車が動かなかったでしょう、ご両親にしたら知りあいの家に泊めてもらうことが一番安心な解決法だったの。お家に招いてくださるほど気に入ってらっしゃる友達で、その実家で母親もいるから賛成されたのよ?でも今回は違うわ、」
あのときとは違う、
言われて納得しずかに沁みてくる。
本当にそうだ、自分の浅慮そっと見つめるまま言われた。
「美代ちゃんはご両親の反対を押し切って、家出してきたのよ?お仕事を休んでも夜通し看病するような相手のとこに、よ?」
どういうことか、わかるでしょう?
そんな問いかけ滲みだす、沁みてくる。
言われるまで考えてもいなかった自分、蝕まれるもどかしさに母が言った。
「看病に来てくれるとき、ご両親は喜んで送りだしたそうよ?もうご両親は美代ちゃんの気持ちにお気づきよ、」
あまからい惣菜の香、盆はこぶ声、笑い声。
かすかなアルコール甘やかなかたすみ、優しいアルトが続く。
「きっと美代ちゃんはそこまで考えてないわ、でも、ご両親からしたらね、ここまでするからには結婚前提のおつきあいって考えるわよ?」
こんなことになるなんて、嘘みたいだ。
「今夜も周太といるって思われてるでしょうね、テレビにも映ったんだもの?ご覧になっていたら当然そう思うわ、」
やわらかな声、けれど明確に言ってくれる。
言われて鼓動そっと叩く、ただ途惑って声もでない。
だって考えたこともなかった、でも、それでも現実だ。
「それにね周、叔母さまも美代ちゃんのこと大歓迎なの。このまま美代ちゃんと周が結婚したら幸せになれるって、よく仰るの、」
ほら、現実また言葉にしてくれる。
こんなふうになること一年前は考えもしなかった。
あの春の雪、あれから一年でこんなに遠くきて想い、そっと声にした。
「そうだね…僕もそう想う、」
想っている、自分こそ。
声にした唇アルコール甘い、そんな電話ごし訊かれた。
「そうね、それでも周太?いますぐ英二くんを忘れるなんて、できないでしょう?」
とくん、
君の名前に鼓動が打つ、響く。
ほら?こんなに自分は卑怯でずるくて、もう瞳の底が熱い。
「…おかあさん、僕は…」
好きだ、大好きだ。
でも今はもう唯ひとりじゃない、だって今日も本当に嬉しかった。
あの女の子に頼られて嬉しくて、自分の前で泣いてくれた瞬間どんなに誇らしかったろう?
「周?聴こえるかしら、」
優しい声が訊いてくれる、きっと気づいているのだろう?
あいかわらず泣き虫な息子を知ってくれる声、そっと微笑んだ。
「急がないでほしいわ、お母さんは…のんきさんな周でしょう?恋愛もゆっくりだっていいの、焦らないでいいのよ?」
ほら、解ってくれる。
言わないでも、電話ごしでも、いつも受けとめてくれるひと。
こんなふう何度もなんども支えてくれた、その声が温かい。
「今夜もし周がお友達の家に泊まるなら、叔母さまも美代ちゃんのご両親もまだ恋人未満だなって納得しやすいと思うの、周はどう思う?」
そのとおりだろう、言われて当然だ?
納得すなおに肯いた。
「その通りだと思う…ごめんなさい、僕、よく考えてなかった、」
もっと考えなくちゃいけなかった、自分は。
噛みしめた自戒に母が微笑んだ。
「考えてないというより忘れがちかな?周太は大人の男性なのよ、」
自分は男、もう成人。
その現実あらたまる言葉に応えた。
「そうだね…もっと慎重に考えないと、だね?」
「そうね?同じように美代ちゃんは結婚も適齢期のお嬢さんなの、本人も周りもいろいろ考えるのがあたりまえ、ね?」
諭してくれる声やわらかに温かい。
こんなこと言わせる申し訳なさに頭そっと下げた。
「ごめんなさいお母さん…あの、僕、賢弥に泊めてもらえるか訊いてみる、」
「訊いてみて?でも…、」
応えて、けれど少し曇る。
その想いに考えていたこと微笑んだ。
「ん…長野みたいなことは大丈夫だと思う、」
母の不安、それは疑心ではなく現実のこと。
雪ふる駐車場で泣かせてしまった、あの時間から考えてきたまま微笑んだ。
「だってお母さん、僕が免職じゃなくて退職なのはね、今むこうも騒ぎにしたくないからだよ?…だから大丈夫、」
だから大丈夫、今は。
思考ひそやかに微笑んだ先、電話の声そっと笑った。
「そうね…大丈夫ね?叔母さまもさりげなく見守ってくださってるし、」
「そうだよ?大丈夫じゃなかったら僕のこと、おばあさまは家から出さないもの…おばあさまに外泊のこと連絡するね、」
自分から言ったほうがいい、そのほうが大叔母は納得するだろう?
考えに母の声すこし明るんだ。
「そうね、ちゃんとお電話してね?でも朝食には帰ってきてあげて、朝食でお祝いするって楽しみにされてるから、」
「ん、朝一の電車で帰るようにするね…でも美代さん、一人では葉山に行きにくいよね?」
いちど送っていくほうがいいだろうか?
考えかけてすぐ言ってくれた。
「お母さんが美代ちゃんと待ち合わせて帰るわ、このあとお電話するね?」
「うん…ありがとう、お母さん、」
じゃあまたね、そんな言葉かわして通話きれる。
ほっと息ひとつ吐いて、電話番号もうひとつ繋いだ。
(to be continued)
harushizume―周太24歳3月下旬
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第85話 春鎮 act.29 another,side story「陽はまた昇る」
賑やかな廊下の片隅、呼んでくれる。
「周太?飲み会中にごめんね、」
今朝も聞いた声、でも懐かしくなる。
こんなふう電話では久しぶりな声に微笑んだ。
「ううん…お母さんこそ仕事おつかれさま、いま帰り?」
「まだ会社よ、ちょっと休憩がてらね?」
優しいアルトどこか弾んでいる。
残業中のはず、それでも朗らかな声が言った。
「美代ちゃん合格したのね、ほんと良かったわ、」
祝いの言葉やわらかに明るい。
心から喜んでくれる声に笑いかけた。
「ん、よかったけど…連絡しそびれてごめんね?」
「ふふっ、今回はニュースが連絡くれたわね?合格も恋もよかったわ、」
笑っている声に首すじ熱くなる。
本当は大笑いしたそう?そんなトーンに口開いた。
「あ…のねおかあさんあれはテレビがいったことでぼくたちそんなじゃなから、ね?」
ああどうして撮られちゃったんだろう?
ほらもう頬まで熱い、困らせられる廊下すみっこ言われた。
「そんなかと想ったわ、だって今夜は泊まりに来るんでしょう?」
ああ、そのこと聴いて電話くれたんだ?
納得しながら障子戸の明かり肯いた。
「ね…おばあさまに聴いてくれた?美代さんのお家のこと、」
「今メール見たとこよ、」
アルトやわらかに微笑んでくれる。
いつもどおり穏やかな声、そのまま言ってくれた。
「美代ちゃんの進学ね、こうなる予想お母さんは少ししてたの。旧家の末娘さんなら親御さんとして仕方ないのだと思うわ、」
明かり淡い廊下、母の声やわらかに届く。
誰のことも責めていない、そんな言葉に問いかけた。
「あの…お母さんは解ってたのに引き受けてくれたんだ?」
「考えてたわ、それでも応援したかったの、」
アルト穏やかに優しくて、でも揺るがない。
こんなふう母は強い、あらためての声に頭そっと下げた。
「ありがとうお母さん、…ごめんなさい、」
「お母さんこそごめんなさいよ?美代ちゃんに前もってアドバイスしておくべきだったわ、美代ちゃん今はお酒楽しんでるかしら?」
優しい声にこちら側、アルコールかすかに香る。
廊下あちこち扉ざわめく、にぎやかな酒の香に微笑んだ。
「ん、すごく楽しそうだよ…青木先生も田嶋先生も明るいお酒なんだ、」
「ならよかったわ、いっぱい合格を喜んで笑うときだもの、」
朗らかなアルト温かい。
この声も美代を励ましてくれる、やわらかな信頼に母が言った。
「それでね周?できれば周は今夜、お友達の家に泊めてもらったらどうかしら?」
言われた言葉ゆっくり頭めぐる。
どうしてこんな提案するのだろう?かしげた耳もと言ってくれた。
「年頃のお嬢さんをお泊めするでしょう?そこに若い男がいるってどうかと思ったの、美代ちゃんのご両親を想うと、ね?」
どうして今更そんなこと言うのだろう?
去年と違う母の言葉に尋ねた。
「でもお母さん、去年は普通に泊めてくれたよね?…雪で美代さん帰られなくなったとき、」
「そうね、でも周?あのときとは違うのよ、」
穏やかな声が応えてくれる。
いつもどおり優しいアルト、けれど困ったよう微笑んだ。
「あのときは美代ちゃんのご両親に了解いただいて、だったわね?しかも電車が動かなかったでしょう、ご両親にしたら知りあいの家に泊めてもらうことが一番安心な解決法だったの。お家に招いてくださるほど気に入ってらっしゃる友達で、その実家で母親もいるから賛成されたのよ?でも今回は違うわ、」
あのときとは違う、
言われて納得しずかに沁みてくる。
本当にそうだ、自分の浅慮そっと見つめるまま言われた。
「美代ちゃんはご両親の反対を押し切って、家出してきたのよ?お仕事を休んでも夜通し看病するような相手のとこに、よ?」
どういうことか、わかるでしょう?
そんな問いかけ滲みだす、沁みてくる。
言われるまで考えてもいなかった自分、蝕まれるもどかしさに母が言った。
「看病に来てくれるとき、ご両親は喜んで送りだしたそうよ?もうご両親は美代ちゃんの気持ちにお気づきよ、」
あまからい惣菜の香、盆はこぶ声、笑い声。
かすかなアルコール甘やかなかたすみ、優しいアルトが続く。
「きっと美代ちゃんはそこまで考えてないわ、でも、ご両親からしたらね、ここまでするからには結婚前提のおつきあいって考えるわよ?」
こんなことになるなんて、嘘みたいだ。
「今夜も周太といるって思われてるでしょうね、テレビにも映ったんだもの?ご覧になっていたら当然そう思うわ、」
やわらかな声、けれど明確に言ってくれる。
言われて鼓動そっと叩く、ただ途惑って声もでない。
だって考えたこともなかった、でも、それでも現実だ。
「それにね周、叔母さまも美代ちゃんのこと大歓迎なの。このまま美代ちゃんと周が結婚したら幸せになれるって、よく仰るの、」
ほら、現実また言葉にしてくれる。
こんなふうになること一年前は考えもしなかった。
あの春の雪、あれから一年でこんなに遠くきて想い、そっと声にした。
「そうだね…僕もそう想う、」
想っている、自分こそ。
声にした唇アルコール甘い、そんな電話ごし訊かれた。
「そうね、それでも周太?いますぐ英二くんを忘れるなんて、できないでしょう?」
とくん、
君の名前に鼓動が打つ、響く。
ほら?こんなに自分は卑怯でずるくて、もう瞳の底が熱い。
「…おかあさん、僕は…」
好きだ、大好きだ。
でも今はもう唯ひとりじゃない、だって今日も本当に嬉しかった。
あの女の子に頼られて嬉しくて、自分の前で泣いてくれた瞬間どんなに誇らしかったろう?
「周?聴こえるかしら、」
優しい声が訊いてくれる、きっと気づいているのだろう?
あいかわらず泣き虫な息子を知ってくれる声、そっと微笑んだ。
「急がないでほしいわ、お母さんは…のんきさんな周でしょう?恋愛もゆっくりだっていいの、焦らないでいいのよ?」
ほら、解ってくれる。
言わないでも、電話ごしでも、いつも受けとめてくれるひと。
こんなふう何度もなんども支えてくれた、その声が温かい。
「今夜もし周がお友達の家に泊まるなら、叔母さまも美代ちゃんのご両親もまだ恋人未満だなって納得しやすいと思うの、周はどう思う?」
そのとおりだろう、言われて当然だ?
納得すなおに肯いた。
「その通りだと思う…ごめんなさい、僕、よく考えてなかった、」
もっと考えなくちゃいけなかった、自分は。
噛みしめた自戒に母が微笑んだ。
「考えてないというより忘れがちかな?周太は大人の男性なのよ、」
自分は男、もう成人。
その現実あらたまる言葉に応えた。
「そうだね…もっと慎重に考えないと、だね?」
「そうね?同じように美代ちゃんは結婚も適齢期のお嬢さんなの、本人も周りもいろいろ考えるのがあたりまえ、ね?」
諭してくれる声やわらかに温かい。
こんなこと言わせる申し訳なさに頭そっと下げた。
「ごめんなさいお母さん…あの、僕、賢弥に泊めてもらえるか訊いてみる、」
「訊いてみて?でも…、」
応えて、けれど少し曇る。
その想いに考えていたこと微笑んだ。
「ん…長野みたいなことは大丈夫だと思う、」
母の不安、それは疑心ではなく現実のこと。
雪ふる駐車場で泣かせてしまった、あの時間から考えてきたまま微笑んだ。
「だってお母さん、僕が免職じゃなくて退職なのはね、今むこうも騒ぎにしたくないからだよ?…だから大丈夫、」
だから大丈夫、今は。
思考ひそやかに微笑んだ先、電話の声そっと笑った。
「そうね…大丈夫ね?叔母さまもさりげなく見守ってくださってるし、」
「そうだよ?大丈夫じゃなかったら僕のこと、おばあさまは家から出さないもの…おばあさまに外泊のこと連絡するね、」
自分から言ったほうがいい、そのほうが大叔母は納得するだろう?
考えに母の声すこし明るんだ。
「そうね、ちゃんとお電話してね?でも朝食には帰ってきてあげて、朝食でお祝いするって楽しみにされてるから、」
「ん、朝一の電車で帰るようにするね…でも美代さん、一人では葉山に行きにくいよね?」
いちど送っていくほうがいいだろうか?
考えかけてすぐ言ってくれた。
「お母さんが美代ちゃんと待ち合わせて帰るわ、このあとお電話するね?」
「うん…ありがとう、お母さん、」
じゃあまたね、そんな言葉かわして通話きれる。
ほっと息ひとつ吐いて、電話番号もうひとつ繋いだ。
(to be continued)