萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk65 安穏act.2 ―dead of night

2018-02-01 21:35:15 | dead of night 陽はまた昇る
鍵たぐる鎖を、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk65 安穏act.2 ―dead of night

週末、君の場所にゆく。

「これでよし、っと…」

書類一通、ペン置いて確かめる。
記入欄どこも間違いない、携え関門の前に立った。

「失礼します、外泊届をお願いします、」
「はい?」

担当窓口ふりむいて、いつもどおり受け取ってくれる。
その視線さっと一読、すぐに英二を見た。

「宮田君、実家ではない所が書いてあるけど?」

やっぱり訊かれるんだ?
想定通りの質問へきれいに笑いかけた。

「同期の家です、苦手科目の勉強会をします。教場の首席に教わりたくて、」

理由なら考えてある、同期なら身元不安もない。
たぶん許される、そんな想定に担当者の唇うごいた。

「…、」

なにか言った、なんだろう?

―同期か、って言ったのか?

唇かすかな動き読む、その視線も。

―変な貌だな、なんだ?

警察官の制服姿、いつもいる顔、けれど貌が違う。
どこか違和感わだかまる?確かめたくて微笑んだ。

「実家以外の外泊は難しいですか?消灯時間を気にせず教われると考えたのですが、」

重ねる言葉に変化を読む、この男は今なにを考える?
確かめたい違和感の底、警察官は瞬き一つこちら見た。

「わかりました、担当教官と話してもらえますか?」

回答する貌「いつもどおり」唇うごかす。
何も変わらない、それでも眼が何か違う。

―なにか問題があるのか、なんだろう?

廊下また歩きながら思考めぐる。
この違和感なんだろう、あの貌なにを意味する?

―瞳孔が大きく見えたな、

瞳孔は瞳の中心にある孔、瞳孔括約筋と瞳孔散大筋の働きで大きさが変化する。
眼に入る光の量、視界のピント合わせ、時に応じて散瞳と縮瞳をくりかえす。
そして、それは感情の起伏でも起きる。

―感情の揺れがあったってことか、でも何で?

外泊先が常と違う、それだけ。
それだけで何故あんな貌しなくてはいけない?

―湯原の家に俺が泊まる、それだけのことに何でだ?

規則違反ならそう言えばいい、それだけのこと。
でもあの貌は違う「それだけ」じゃなかった。

なぜだ?

―まったく無関係ならあんな貌しない、警察学校の警官が関係しそうなことは何だ?

書類一通、警察学校の見習い警察官、それだけが今の事実。
それが「警察学校に勤める警察官」の瞳孔を開かせた、起こした感情は何だろう?
どうして感情を起こされなくてはいけない?その原因はなんだ、何を見過ごしているだろう?

―書いてあるのは俺と湯原の名前、だけど?

たずさえた書類一通、歩きながら見つめてみる。
外泊希望日、外泊先、それから必要事項ただ記された紙。

―普通の外泊届だ、違いがあるとしたら?

規定の書類、規定の記入事項、それだけ。
いつもどおりの書面で、いつもと「違う」は一ヵ所だけだ。

「宮田、なにやってる?」

呼ばれて肩どすん、大きな掌に止められる。
ふりむいた至近距離、担当教官の眼じろり自分を見た。

「外泊届か、」

見せろ、そんな視線が書類とりあげる。
一読して低い声が訊いた。

「湯原の家に行くのか、理由は?」

訊いてくれる眼は鋭い。
けれど拒絶とは違う視線に英二は微笑んだ。

「徹夜勉強に行きます、消灯時間を気にせず教わりたくて、」
「ふん?」

うなずいて書類ながめて、胸ポケット印鑑ひとつ出す。
かつん、キャップ開かれて検印ひとつ教官は言った。

「電気は消して寝ろ、」

黒い眼じろり、一瞥の肩ひろやかに踵かえす。
規則正しい靴音の制服姿ゆく、その青い背につい笑った。

「へえ?」

意外と優しいらしい、自分の担当教官は?
意外な貌つい可笑しくなる、そうしてまた思考もどす。

意外な貌、なぜ窓口は「違う貌」になった?

※校正中
secret talk64 安穏act.1← →secret talk66

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睦月晦日、金縷梅―eclipse

2018-02-01 00:30:10 | 創作短篇:日花物語
月が消えた、その先
1月31日の誕生花


睦月晦日、金縷梅―eclipse

運命の揶揄だ、今日が月食だなんて?

「…何歳になるんだっけ?」

つぶやいた窓、月が消えてゆく。

パソコン画面ネットニュース、天体ショー報せて流れる。
こんな電子文字に言われなくても解る、ただ現実を見ればいい。

「今日に、なあ…?」

ひとり開きっぱなしの窓、凍てつく風。
冷たくなる吐息、凍りついてゆく指先の冷感、でも甘い。
夜の底ふかく芳香くゆる、あまい高雅なままに冴えてゆく。

ほら?昔のまま聴こえる、

「…まんさくが咲いたね、」

聴こえる声なぞる唇、風があまい。
凍える零度なぶる髪、額から皮膚あわく冷えて視界が凍る。
それでも甘い風どうしても懐かしくて、待ちわびる過去が聲くりかえす。

「マンサク咲いたぞ、…見えてるんだろ?」

呼びかけて窓の先、隣家の窓に灯りはない。
でも灯っている、昔のまま今夜を祝われたくて。

“まんさくが咲いたね、ね?なんて言ってくれる日?”

過去の聲が澄む、その生まれた日に。
そうして消えた月また薫り、黄金の花に顕れる。
「悲しい」62ブログトーナメント

金縷梅:マンサク、花言葉「呪文、霊感、閃き」

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