端緒、黎明、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日
secret talk66 安穏act.3 ―dead of night
月が昇る、夜がゆく。
明日がもう今日になる。
「どうなるかな…」
ひとりごとベッドの上、開けっぱなした月に融ける。
カーテン揺らす夜の風、紺青色ひるがえす雲に銀色かがやく。
あの月が動くたび朝は近づいて、そして来る時間に英二は微笑んだ。
「…遠足の子どもみたいだ、俺、」
もう今日になる、そうして来る朝に待ちわびる。
ただ楽しみで、そうして燻る鼓動に眠られない。
―どんな家なんだろ、湯原の部屋とか、
誰かの家に行く、それだけのことに想像めぐる。
どんな場所があの横顔を育てたのだろう?それに、
―湯原の「母さん」か、
母親。
どんな母親なのだろう、あの横顔を生んだのは。
どんな貌でどんな声で育てられたのだろう?
―俺の母さんとは全く違うんだろうな、たぶん、
違う、きっと。
その「違う」はたぶん君に限ったことじゃない。
自分の家とは全て違う、そんな予感にあの声が映る。
“ 殉職したんだ ”
君の声が叫ぶ、静かに。
涙が声になるのなら、たぶんあんな声だ。
―湯原の父さん…か、どんな人だったんだろ、
殉職、その現実はきっと苦しい。
苦しいから多分あんな声になる、あんな貌で、あんな眼で。
自分は知らない苦しみがある、でも、自分と比べてどちらが幸せなのだろう?
「…泣けるかな俺は、」
想い声になる。
あの涙に考えてしまう、自分は泣くだろうか?
もし自分の親が死んだなら、自分の心は正しく泣くのだろうか?
―お祖父さんの時は泣いたな俺、でも、
でも、父に母に泣くだろうか?
こんな疑問自体もう「正しく」ない、そういう自分の家だ。
そういう自分が君の家に行く、そうして知れるなら幸せだろうか?
「湯原の家…か、」
声なぞって瞳を閉じて、今日の時間なぞりだす。
明日のため外泊申請書を書いた、それだけで鼓動いつもと違った。
それを提出する鼓動も違って、それから、
『宮田君、実家ではない所が書いてあるけど?』
そうだ、あの担当者の貌。
―なんであんな貌したんだ?
一瞬のこと、けれど確かな違和感。
なぜ外泊先を見た瞬間、あんな眼になった?
『わかりました、担当教官と話してもらえますか?』
回答する貌「いつもどおり」唇うごかした、でも眼が違った。
瞳孔が大きく見えた。
―感情が揺れて瞳孔が大きくなるんだよな、
心理学のテキストに書いてあったこと。
その知識が今こんなところで反芻する、それだけの違和感があった。
外泊先が常と違う、それだけ、それだけで何故あんな貌しなくてはいけない?
―湯原の名前を見てあの貌になったんだ、もしかしたら?
もしかしたら?
仮定ひとつ見つめて瞳がひらく。
ベッド寝ころんだ視界に月が高い、開けたままのカーテン、月。
※校正中
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