萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

P.S 雪郷山籠act.2―P.S ext.side story「陽はまた昇る」

2014-10-10 22:10:10 | 陽はまた昇るP.S
雪の夢、現
side story第78‐79話の幕間@黒木サイド



P.S 雪郷山籠act.2―P.S ext.side story「陽はまた昇る」

浮上した視界、ゆっくり天井が白く映りこむ。

もう明るい色彩に時刻が解かる、たぶん7時前だろう?
こんな時間に目覚めるなんて久しぶりで、だから要は思いだした。

「…きょぉぁぅぃぁ、な?」

今日は休みだったな?

そう言ったつもりが発声がおかしい、けれど昨日よりマシだ。
体もいくらか軽くなった、これなら熱も下がっているだろう。
そんな期待と起きあがったベッドの向う、がたり扉が開いた。

「ぁ?」

なんで扉が開くのだろう施錠したはずなのに?
いぶかしく見つめたまま開かれた影、さらり雪白の笑顔が現れた。

「おはよ黒木、調子どうかね?」

だからなんでこのひとがくる?

「ぅぃむぁぁんっぅぁんでぁぎあぇてんでぅかっ?!」

国村さんなんで鍵開けてるんですか?

って言ったつもりなのに声やっぱり変で言葉にならない。
それでも昨日よりは通じるだろう?そんな期待に秀麗な笑顔は言った。

「あははっ、ホントひどい声だね?宮田が言ってた通りだよ、黒木は明日も代休取得しな、小隊長命令だからね?」

命令されてしまった、でもこちらの発言への返事は無い。
発声が悪くて通じないのだろうか、それともワザと無視されている?
そんな思案しながらも状況に混乱させられてしまう、けれど夢を見ていなくて良かった。

―あの夢の直後だったらさすがにちょっとな?

昨日は見てしまった雪山の夢、あの笑顔そっくりな顔がベッド近くに立っている。
だけど現実の「これ」は男で上司でファイナリストにもなれるクライマーだ、あの夢の人じゃない。
その認識させたくて頭いつもの仕草に振って、ぐらり目眩が座りこんだままベッドよろけた。

「っぅ、」

しまった熱あるのに頭振るなんて?
後悔ごとベッドに手をついて体支える、でも自分で腹が立つ。
こんな弱っている醜態なんか見せてしまった、そのプライドに額へ白い手が触れた。

「ぅあっ!?」

叫んで避けて白い手に固まらされる、だって今この手に触られた。
そんな認識すぐ逆上せだす、そして自分で情けなくなる。

―なんだって男に触られてアがるんだよ俺、夢と混濁してんじゃねえよ?

独り声なく毒づきながら困る、今きっと変に想われたろう?
けれど白い手の持ち主は底抜けに明るい目で笑った。

「やっぱまだ熱あるね、だのに頭ふっちゃダメだよ黒木、それくらい救急法で知ってるだろが、」

ああ今なんかダメ救助隊員って罵られてる?

こんな自分が不甲斐ない、なんだって今こんなに調子狂うのだろう?
その元凶はもう片方の手を伸ばして、ことん、ペットボトル2本置いてくれた。

「水分きっちり摂って寝ときな?飯食えそうなら持ってきてやるけどね、ちっと喉見せてみな?あーんって、」

それはお願いです勘弁して?

そう言いたいけど声また変だろう、そして通じない。
または敢えて無視される、そんな予想に口の前で両手クロスさせ謝絶した。

―今ほんと近づかないでくれよ国村さん、なんか調子狂っちまう、

ほんとに今は近づかないでほしい、喉見せるなんてトンデモナイ。
そんな意志表示したのに雪白やさしい笑顔は強硬に微笑んだ。

「ほら手をどけな?上司が直々に診てやろうって言ってるんだよ、黒木は命令違反しちまうツモリ?」

だからその言い回しホント卑怯だ?
そう言いたいけど言えない、ただ追い詰められるベッドに笑顔が腰下した。

「ほら遠慮するなって、喉の具合で食える飯も変わるだろ?だから診せなって、」
「っぇんぃぉぃますっ」

遠慮します、

即答に声押しだして、けれど言葉になってくれない。
これだと解釈また勝手されるだろうか?そんな心配の向こう低い綺麗な声が笑った。

「おはようございます黒木さん、昨夜は国村さんと一緒に寝たんですか?」

それは誤解だ酷すぎるだろ?

「っみぁたっそぇはごぁぃぁっ、ぉまぇこぉあさがぇぃぁっ?」

弁明の声あげて、けれど声また言葉になってくれない。
それでもこの男なら汲んでくれるだろう?そんな期待に白皙の端整な笑顔は言った。

「誤解じゃなくて冗談ですよ?俺は朝帰りで正解ですけどね。国村さん、今日の訓練のルートを確認したいので来て下さい、」

ああホントこの男は頼りになるな?



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