萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第44話 山櫻act.1―another,side story「陽はまた昇る」

2012-06-02 23:57:59 | 陽はまた昇るanother,side story
想い、記憶の祈りに写しとって



第44話 山櫻act.1―another,side story「陽はまた昇る」

山蔭の雪と日向の若草が交ぜ織る道を辿り、登っていく。
今、前を歩いてくれる頼もしい背中は、スカイブルーに「警視庁」と白く染め抜かれたウェア姿がまぶしい。
そして今日は母も一緒に歩いている、こんなふうに家族3人で歩いている今が嬉しくて周太は微笑んだ。

「…ん、幸せだな、」

ひとりごと微笑んだ前から、くるりカーキ色の救助隊制帽がふり向いた。
振向いて笑顔見せてくれながら、きれいな低い声が微笑んだ。

「周太、今、幸せ?」
「あ、…ん、幸せだよ?」

聞えちゃったんだな?気恥ずかしさが熱になって首筋を昇ってしまう。
そんな周太の隣から、快活な黒目がちの瞳が愉しそうに笑ってくれた。

「お母さんも、幸せよ?」

やさしい声が、同じように感じると言ってくれる。
こんな肯定が嬉しいな?嬉しくて微笑んだ周太に、きれいな低い声が笑いかけてくれた。

「俺も、幸せだよ、」

きれいな幸せな笑顔が周太に笑いかけてくれる。
笑顔に笑いかけ見あげた向こう、萌黄やさしい梢から翠が馥郁と香たつ。
春ふくんだ香がうれしい、梢見あげ微笑んだ足元はアイゼンの下で雪が踏みしめられた。

さくり、ざく、…

踏んでいく残雪の音に、今冬の記憶が懐かしい。
いま冬と春が交ぜ織られる奥多摩で、大好きなひとの背中に連れられ、大切な母と歩いている。
大切な人と歩く笑顔の道。この今が幸せで温かで、やわらかな想いに今充たされていく。

…この今を、きちんと見て、感じておきたい…

いま4月も下旬にかかる頃、あと1週間少しで初任科総合が始まる。
春が終わり夏を迎えたら、きっと「今」はすこし遠くなっていく。
きっと秋までには、父が斃れた部署へ召喚されてしまう。
そうなれば、心から穏やかな瞬間は、もう2度と見つめられずに消失するかもしれない。

それが本当は少し怖い。
けれど「怖い」を越えなかったら、本当の安らぎ続く日々を迎えることも出来ない。
だから「今」の喜びを大切に見つめて記憶して、どんな絶望にも負けない輝きの記憶にしておきたい。
なにがあろうとも、必ず自分が笑顔で最後は超えていけるように。

「お母さん、周太、もうじき山頂です、」

きれいな低い声が微笑んで、頂上に着くことを告げてくれる。
そうして木々の梢から、ひろやかな空が大岳山頂に広がった。

「きれい、あれが御前山?」

ぽっかり抜けた空へと母は愉しげに笑って、西の山を指示す。
どっしりとした山容が、この足元から続く尾根の向うに佇んでいる。
これからあの山に行くんだな?この山に咲く花々への楽しい想いに周太は微笑んだ。

「ん、地図だとそうだったけど…英二、当たり?」
「うん、あれが御前山です。ここから副隊長が案内してくれます…あ、いらっしゃいました、」

答えてくれながら英二は、むこうで山を眺める横顔に踵を返した。
のんびり山嶺を眺めていた横顔が、ゆっくり振り向いてくれる。
すぐこちらに気が付いた深い眼差しが、閑やかに微笑んだ。

「おはよう、なかなか速かったなあ、お疲れさま」

ゆったりとした語り口調が大らかな人柄のまま頼もしい。
親しい笑顔で笑いあいながら、英二は後藤に頭を下げた。

「おはようございます、副隊長。お休みの日にすみません、」
「俺から言い出したことだよ、こっちこそ礼を言うべきなんだ、」

気さくな笑顔で英二に答えてくれる。
そして後藤は母と周太に笑いかけながら、帽子を脱いで母に挨拶をしてくれた。

「おはようございます、お電話では話しましたが、お会いするのは久しぶりですね」
「おはようございます。本当に、ご無沙汰して申し訳ありません。いつも、息子たちがお世話になっております、」

黒目がちの瞳を快活に笑ませ、母も挨拶してくれる。
いつも父は奥多摩の山に登るたび、警視庁山岳会の先輩だった後藤を訪れていた。
そのとき母は何度も後藤と会っている。そして今が、父の葬儀を最後に14年ぶりの再会になった。
懐かしい幸福な奥多摩の記憶に、いつも後藤の笑顔があった。そんな記憶が周太にも、今はもう甦っている。
優しい記憶に微笑んだ周太の前、父の旧友と母は懐旧と今に笑いあった。

「こちらこそ世話になっていますよ。宮田は、ほんとうに良くやってくれて。周太くんにも、鑑識実験の手伝いをお願いしたりね、」
「嬉しいお話ですね?ありがとうございます。今日は私まで、お世話になりますけれど、よろしくお願い致します、」
「こっちこそ、今日は奥さんにまで世話になります、」

深い眼差しが楽しそうに笑ってくれる。
笑いながら後藤は帽子をかぶり直し、英二に声を掛けた。

「宮田、おふくろさんと周太くん、お預かりさせて貰うな。下山報告は、携帯の方が良いかい?」
「はい、よろしくお願い致します、」

きれいに頭を下げて、英二は周太と母に「またあとで、」と笑いかけてくれる。
優しい笑顔に笑い返しながら周太はザックを降ろし、母から預かった包みを取出した。
ふわり温かい香に母の心遣いが嬉しくなる、嬉しいままに包みを長身の恋人へ差し出した。

「英二。これ、お母さんから…2人分です、って、」
「あ、弁当?嬉しいな。お母さん、ありがとうございます、」

きれいな笑顔が幸せに自分と母を見てくれる。
母も心から笑いかえして英二を労った。

「こちらこそ、ありがとう、英二くん。光一くんと食べてね。周ほど上手じゃないから、恥ずかしいんだけど、」
「お母さんの料理も、俺は好きです。きっと国村も喜びます、」

きれいな優しい笑顔を見せてくれながら、英二は大切に弁当をザックに仕舞いこんだ。
また背負い直して支度を整えると、クライマーウォッチを見遣った切長い目が周太に笑ってくれた。

「じゃあ、周太。俺、行くな?駐在所で待ってるから、」
「ん、…今日も仕事、気を付けてね、」

このまま、もっと一緒にいたかったな?そんな本音が心に起きてしまう。
なんだか少しだけ寂しい気持ちと見あげた周太に、英二は微笑んでくれた。

「周太?御前山は、たくさん花が咲いているよ。また後で話、聴かせてくれな、」
「ん、いっぱい話すね、」

また後で話を聴かせる。
こんな小さな約束だって幸せで、約束が出来る今が嬉しい。
そんな想いと見送る周太に、英二は御岳山へ引き返す道から振向いて、きれいな笑顔で手を振ってくれた。

「周太!気をつけてな!」

きれいな低い声が名前呼んで、笑ってくれる。
その声に周りの人がふり向いて、すこし周太は恥ずかしくなった。
けれど呼んでもらえることが嬉しい、素直に微笑んだ周太に幸せな笑顔見せると英二は踵を返した。

「…あ、速い、」

あっというまにスカイブルーの姿は遠ざかっていく。
いつも周太と歩くときは歩調を合わせてくれるから、こんなに速いと知らなかった。
すぐ姿が消えた英二に驚いたまま母たちの許に戻ると、愉しげに後藤が微笑んだ。

「宮田、すごい速いだろう?」
「はい、驚きました、」

素直に頷いた周太の隣で、母も楽しそうに頷いている。
そんな2人に後藤は歩きだしながら、すこし得意げに笑って教えてくれた。

「ウチの隊の中では、光一が断トツで速いんだがね。そのスピードに付いていけるのはな、宮田くらいなんだよ、」

やっぱり光一も英二もすごいんだな?
感心した周太の隣から、母は最高の山ヤの警察官に質問をした。

「後藤さんは本当に速いと、主人から伺っています。それよりも、ですか?」

愉しそうに訊いた母に、後藤は照れくさげに笑った。
困ったな?そんな笑顔で後藤は口を開いた。

「もう、俺も54歳になるんですよ。さすがに、あいつらには付いていけません。特に光一は、根っからの山っ子だからね。
もう赤ん坊のころから、鍛え方がまるきり違うんです。そんな光一と組んで付いていっている宮田は、本当に大したもんです、」

御前山へと歩き出しながら、照れくさい口調がすこし得意げになっていく。
そんな明るい口調に母が、うれしそうに微笑んだ。

「後藤さん。ほんとうに英二くんのことを、可愛がってくださっていますね?」
「お、やっぱり解っちゃいますか、」

母の言葉に笑顔の目が答えてくれる。
もちろん、と黒目がちの瞳を笑ませて母は率直に答えた。

「ええ、とっても嬉しそうに自慢してくれるから、ね?」
「あはは、やっぱり自慢になってるなあ、俺」

可笑しそうに温かい目を笑ませて、快活な深い声が笑いだす。
愉しそうに周太にも笑顔向けてくれながら、後藤は言ってくれた。

「俺には娘が1人いるんです、でも贅沢言えば、息子も欲しかったんですよ。それで宮田が、本当の息子みたいに可愛くて。
あいつは能力は勿論、心が良い山ヤでね。だから俺は、山の技術も知識も、知っていること全部を、譲ってやりたいんです。
山ヤとして警察官として、息子としてみたかったことを、宮田とさせて貰っています。だからなあ、あいつ褒められると嬉しくて」

照れくさそうで、けれど心から嬉しそうに話してくれる。
こんなふうに英二のことを真心から想い、大切にしてくれる存在が嬉しい。
嬉しい想いに周太は素直に微笑んだ。

「後藤さん。英二、後藤さんのこと、とても尊敬しています。最高の山ヤの警察官だ、って話してくれます、」
「そうかい?嬉しいなあ、俺は、あいつのこと大好きなんだよ、」

心から嬉しそうに笑ってくれる笑顔が、父の俤に重なるよう慈愛に温かい。
山ヤの警察官として最高の人が、父親の愛情で見つめてくれるならば、きっと英二は道を誤らない。
こういう大人が傍にいてくれるなら、必ず英二は立派に山ヤの警察官として立っていけるだろう。

…良かった、また1つ、心残りが解けてくれる

もしも自分が傍にいられなくなっても、こんな温かい心が英二を見守ってくれる。
こうした信頼が出来る相手が今、ここで一緒に歩きながら周太にも向けてくれる笑顔は温かい。
この温もりに尚更、たしかに確信できる信頼が嬉しい。そんな想い歩いている隣から、母が愉しげに口を開いた。

「主人は、色んな山に学生時代は登りに行ったそうですね?でも言っていました、自分は奥多摩が一番好きなんだよ、って。
色んな高い山に登ってきたけれど、心の故郷のような奥多摩が自分は好きだ、ってね、いつも楽しそうに話してくれました、」

ほんとうに父は、よくそんな話をしてくれた。
懐かしい父の笑顔と山の話に微笑んだとき、ふっと後藤が寂しげに笑いかけた。

「俺もね、湯原に一度だけ言われたことがあるんですよ『奥多摩は良いな、私も山岳救助隊を志願したかったな』って。
だから俺は言ったよ、今からでも来い、おまえなら大歓迎だ、と。でも、ただ黙って微笑んでなあ…その意味が解かったのは、な」

話しながら歩いていく深い目が、春の陽光にあわく光っている。
それでも長閑かな笑顔を絶やさずに、後藤は話してくれた。

「あのころは、警視庁山岳会は出来て間もなくて、サークルみたいなもんだった。力が無くて、何も出来んかったよ。
だから、湯原の言葉の意味が解かったとき、考えたんです。どうしたら山ヤの警察官を守れるか…それで、今の山岳会になりました」

日に焼けた頬を、陽光のきらめき映した涙がすべりおちた。
山道にふる涙を見つめた周太と母に、大らかな笑顔は言ってくれた。

「山ヤの警察官たちが山岳レスキューの道に立つ権利、これが今、守られているのは湯原のお蔭です。だから、ずっと言いたかった、」

ゆっくり後藤は立ち止まって、周太と母に向き合った。
母子ふたり並んだ正面から、涙ひとつ宿した深い目が真直ぐ微笑んだ。

「あのとき援けられなくて、今でも俺は悔しい。悔しいからこそ、あなた達の大切なひとは、今の山岳会の礎になりました。
だから、全ての山ヤの警察官を代表して、礼と詫びを言いたかったんだ。湯原のお蔭で、俺たちは誇らしい自由な山ヤでいられます、」

お父さん?いま、聴いていますか?

父の死は無駄にはしていない、そう父の旧友は言ってくれている。
このことが温かで、この想いがなにかを融かして勇気に変わっていく。
あふれる想いが周太の瞳から、涙になって頬から心温める。掌で頬拭った隣から、静かな声が微笑んだ。

「後藤さん。あのひとは、山岳救助隊を心から尊敬していたんです、」

おだやかな声に、周太は隣の母を見た。
涙と見つめた先で黒目がちの瞳は、いま目の前に立つ山ヤの警察官に微笑んだ。

「自分が大切にしたい場所を、命と誇りを懸けて守ってくれている。そんなふうに話していました。
だから後藤さんが奥多摩から、葬儀に来て下さったとき。本当に嬉しかったと思います、あのひとは…ありがとうございました」

快活な黒目がちの瞳はひとつ涙こぼし、きれいに笑った。
こんなふうに応えられる母が、そして父のことが誇らしい。この想いのまま周太は後藤に笑いかけた。

「後藤さん。きっと父は、今日も一緒に歩いているんです。だから今、すごく喜んでいると思います。
大好きな先輩と、大好きな場所を一緒に歩いて、大好きな人達の力に自分が成れたと聴いて…今、父は笑っています、」

父の想いと一緒に周太は、きれいに笑った。
その顔を見守ってくれる深い目が、心から幸せに微笑んだ。

「うん。本当に今、湯原はここにいるな?…だって、周太くんの笑顔がなあ、今、あいつと、そっくりだったよ、」

最高の山ヤの警察官の瞳から、きれいな涙がひとつ零れた。
その涙に笑いかけて、周太は掌で自分の顔を拭きながら、心からの感謝を言った。

「ありがとうございます、」

たった一言、けれど想いは籠っている。
この想いに母も隣から微笑んで、山道の先を指さしてくれた。

「後藤さん。私たち家族にいちばん良いガイドをお願いできますか?今日は、日本一の名ガイドを楽しみに来たんです、」
「そう言われると、照れるなあ。でも、ご期待に応えたいです、」

明るい深い声が、楽しそうに笑ってくれる。
そうして3人歩き出して、花咲く山へと入っていった。

「今、ちょうどカタクリが花盛りに入ったとこでね。ロープや柵があるのが興ざめかもしれないが、それでも、きれいです、」
「カタクリ、可愛い花ですよね。我が家にも咲くんですよ?」
「湯原も同じように話してくれましたよ、懐かしいなあ。そうそう、光一も教えてくれたな?見事な花だよ、って褒めていました、」

頼もしい優しい山ヤが、楽しそうに父の想い出と歩いてくれる。
こんなふうに14年経っても惜しんでもらえる、そんな父が誇らしくて、父の為に嬉しい。
嬉しく微笑んで歩く道の、早緑ゆたかな森林には可愛らしい花が姿を見せてくれる。
可憐な山野草のなか降る白い花びらから、見上げた梢に周太は微笑んだ。

「…きれい、」

山桜の清楚な白い花々が、やさしい花翳をかざしてくれる。
さっき御岳で見た花と母の記憶が、ここでも見つめられてしまう。

…桜は、お父さんの木だね、

優しい笑顔の面影みえる花翳に、こまやかな山野草がほのかな風に揺れている。
やわらかな藤紅の片栗、白いアヅマイチゲ、青紫の立壺菫。みんな奥多摩を写した実家の庭にも咲いている。
この可愛い野草たちはどれも、細やかな茎に小振りの花が一見か弱く見えてしまう。
けれど、ここは奥多摩の山。きっと雪の下で花は春を待っていた。
厳しい季節を潜り、今、春の光に揺れている。この小さな花たちが自分は愛しい。

…冬も超える強さを持った、小さな花たち…いいな、

この花たちを記録したいな?
そんな想いに知らず立ち止まった周太に、気が付いて後藤も母も足を止めてくれる。
止まってくれた2人を振向くと、気さくに後藤が笑ってくれた。

「周太くんは、植物が大好きなんだったな?いいよ、ゆっくり見ていくと良い、」
「あ、ご存知でしたか?」

ちょっと驚いて訊きながら、周太はザックを降ろして蓋を開けた。
カメラを取りだしながらも顔は向けている周太に、懐かしそうな微笑みが答えてくれた。

「君のお父さんがな、よく話してくれたんだよ。植物が大好きで、すごく優秀ないい子なんだ、ってね。
それで、大きい木のある場所を教えてくれ、って言われてなあ。幾つか教えてあげたこともあったよ、たぶん君は見に行ったはずだな、」

言われた言葉から、巨木の記憶が心にふれてくる。
きれいで大きな、懐かしい姿達に周太は微笑んだ。

「水楢の木…ですか?あの、空を抱きかかえて見上げるみたいな、不思議な木、」
「そうだ、それだよ。あとな、ヒノキと銀杏もだ、」

うれしそうに頷いてくれる深い声に、濃い緑の真直ぐな木と黄金の梢が呼ばれて蘇えってくれる。
懐かしい親しい木たちの記憶が嬉しい、きれいに周太は笑った。

「はい、行きました。父と、母も一緒に。ね、お母さんは覚えてる?」
「ええ、覚えているわ、」

黒目がちの瞳が幸せに笑んで頷いてくれる。
きっと母にとっても幸せな記憶なのだろうな?そう見た先で母は後藤に笑いかけた。

「あのひとが連れて行ってくれた、奥多摩の素敵なところは後藤さんから、ですよね?」
「やあ、そう言ってくれると嬉しいなあ?喜んで貰えたなら、良かった、」

照れながらも嬉しげに後藤が笑ってくれる。
こんなふうに小さい頃から後藤には知らず、世話になっていた。それがなんだか嬉しくて温かい。
嬉しい気持ちのまま周太は、後藤に笑いかけた。

「後藤さん。このカメラ、今が初めてなんです。よかったら、母と一緒に写ってくれませんか?」

このデジタル一眼レフは昨日、朝の射撃特練と当番勤務の合間に買ってきた。
山野草は採取してはいけないから押花にできない、けれど写真に撮れば自作の図鑑に転写できる。
それに美代からもらった野菜の生育状況も、デジ一眼なら鮮明なデータで美代に送ってあげられる。
この使い初めに微笑んだ周太に、後藤が照れくさげに訊いてくれた。

「お、そんな初めての光栄が、俺なんかで良いのかい?宮田の方が良いだろうに、」

気恥ずかしげに実直な笑顔が、大らかに笑ってくれる。
きっとこの笑顔を父は大好きだった、そんな父の想いと一緒に周太は笑いかけた。

「はい、後藤さんだから、良いんです、」

周太の言葉に応えて父の旧友と母が笑って、山桜と新緑の下に佇んでくれる。
そうして周太のカメラ最初の1枚は、最高の山ヤの警察官と大切な母の姿が、父の想いと一緒に写された。
父が愛した奥多摩の空のした、愛しい山野草たちと一緒に。




(to be continued)

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