To me the meanest flower that blows can give
杜燈火―morceau by Lucifer
震える手、けれど扉を開いて外に出る。
運転席の影から広がった世界は森、そして古く清らかな家。
大きすぎない擬洋館建築はシンプルに美しい、その廻らす森は広かった。
「…奥多摩の森、」
見あげる梢は豊穣の葉擦れ、高く遥かに木洩陽ゆらす。
ふわり頬の撫でる風も山懐そっくりなまま樹木の馥郁が深い。
―こんな庭が個人宅にあるなんて、珍しいよな、
深い森、けれど一般住宅の庭。
そんなアンバランスは、けれど馴染んでいる森と家はしっくりと美しい。
こういう家と庭を護っている人、そう想うだけで溜息こぼれて微笑んだ。
「…やっぱり無理だ、俺には、」
無理だ、自分には勿体無さすぎる相手だ。
そう解っていた、だから雨のベンチで独りきり諦めた。
もう諦めたから、だから約束に頷いて門を潜って今ここにいる。
そんな判断は今ここに立ち、見て、正しかったのだと想えてしまう。
こんな美しい家と庭を護るひと、その隣に自分なんか相応しくない。
―これで諦められる、もう…このまま黙っていればいい、
心そっと想い微笑んでガレージから一歩、芝生の飛石に踏みこむ。
かたん、石とレザーソールが響きあいながら風はシャツを透かして涼ませる。
ふっとコットンを貫けた空気は肌を冷やして寛がす、その心地よさ微笑んだ向こう穏やかな声が笑った。
「おはよう…明日の約束、今日にしてくれたの?」
ほら、こんな抜打ちの来訪だって優しく笑ってくれる。
まだ早朝、けれど端正な浴衣姿は凛と佇んで歓迎の笑顔ほころばす。
こんな笑顔も言葉もすべてが本心なのだと自分には解って、解かるから募ってしまう。
それでも沈黙を決めこんだ想いのままに今、ここで決めたばかりの予定と笑いかけた。
「おはよう、朝早くごめんな?急だけど俺、明後日まで奥多摩の訓練に行くことになったんだ。それで今、ここから庭見させて貰おうと思って、」
本当は明日、庭を見せてもらいに来る約束だった。
けれど来られない理由を作って笑いかけて、その真中で黒目がちの瞳が自分を映す。
そっと睫伏せて、けれどすぐ見あげてくれた瞳は寂しい翳と優しく微笑んでくれた。
「まだ朝ご飯すませてないよね?よかったら一緒していって、コーヒーだけでも…どうぞ?」
どうぞ?
そう勧めてくれる笑顔は素直なまま信じて、疑ってくれない。
そんな笑顔に想いは沈黙のまま身じろぐ、その未練が鼓動を正直に軋ませる。
ただ痛くて、断って逃げたようとして、けれど森の片隅に緋色一輪ゆらいだとき声が出た。
「ありがとう、じゃあ庭だけお邪魔させてもらうな?」
ほら、あの花が自分を手招いた?そんなふう惹きこまれて一歩、また革靴は飛石を踏みだす。
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Another sky of E
杜燈火―morceau by Lucifer
震える手、けれど扉を開いて外に出る。
運転席の影から広がった世界は森、そして古く清らかな家。
大きすぎない擬洋館建築はシンプルに美しい、その廻らす森は広かった。
「…奥多摩の森、」
見あげる梢は豊穣の葉擦れ、高く遥かに木洩陽ゆらす。
ふわり頬の撫でる風も山懐そっくりなまま樹木の馥郁が深い。
―こんな庭が個人宅にあるなんて、珍しいよな、
深い森、けれど一般住宅の庭。
そんなアンバランスは、けれど馴染んでいる森と家はしっくりと美しい。
こういう家と庭を護っている人、そう想うだけで溜息こぼれて微笑んだ。
「…やっぱり無理だ、俺には、」
無理だ、自分には勿体無さすぎる相手だ。
そう解っていた、だから雨のベンチで独りきり諦めた。
もう諦めたから、だから約束に頷いて門を潜って今ここにいる。
そんな判断は今ここに立ち、見て、正しかったのだと想えてしまう。
こんな美しい家と庭を護るひと、その隣に自分なんか相応しくない。
―これで諦められる、もう…このまま黙っていればいい、
心そっと想い微笑んでガレージから一歩、芝生の飛石に踏みこむ。
かたん、石とレザーソールが響きあいながら風はシャツを透かして涼ませる。
ふっとコットンを貫けた空気は肌を冷やして寛がす、その心地よさ微笑んだ向こう穏やかな声が笑った。
「おはよう…明日の約束、今日にしてくれたの?」
ほら、こんな抜打ちの来訪だって優しく笑ってくれる。
まだ早朝、けれど端正な浴衣姿は凛と佇んで歓迎の笑顔ほころばす。
こんな笑顔も言葉もすべてが本心なのだと自分には解って、解かるから募ってしまう。
それでも沈黙を決めこんだ想いのままに今、ここで決めたばかりの予定と笑いかけた。
「おはよう、朝早くごめんな?急だけど俺、明後日まで奥多摩の訓練に行くことになったんだ。それで今、ここから庭見させて貰おうと思って、」
本当は明日、庭を見せてもらいに来る約束だった。
けれど来られない理由を作って笑いかけて、その真中で黒目がちの瞳が自分を映す。
そっと睫伏せて、けれどすぐ見あげてくれた瞳は寂しい翳と優しく微笑んでくれた。
「まだ朝ご飯すませてないよね?よかったら一緒していって、コーヒーだけでも…どうぞ?」
どうぞ?
そう勧めてくれる笑顔は素直なまま信じて、疑ってくれない。
そんな笑顔に想いは沈黙のまま身じろぐ、その未練が鼓動を正直に軋ませる。
ただ痛くて、断って逃げたようとして、けれど森の片隅に緋色一輪ゆらいだとき声が出た。
「ありがとう、じゃあ庭だけお邪魔させてもらうな?」
ほら、あの花が自分を手招いた?そんなふう惹きこまれて一歩、また革靴は飛石を踏みだす。
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