萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山岳点景:天空島の朝

2016-12-14 23:32:00 | 写真:山岳点景
雲上から



山岳点景:天空島の朝

冬の朝、標高2,700メートルはるかな空。

撮影地:北奥千丈岳より望む南アルプス

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山岳点景:富嶽風光、師走

2016-12-13 23:20:05 | 写真:山岳点景
最高峰、その山麓で



山岳点景:富嶽風光、師走

師走12月の富士山は冷厳のとき、
その麓は初冬まぶしい木洩陽ひろがる森。



銀色、はぜた穂ゆらす枯れ尾花。



朱色、バラの実。



針葉樹×冬の太陽、登山道いろどる陰翳。



その山頂は、白銀と青あざやかな茫漠。


撮影地:富士五湖畔@山梨県

生命の存在をゆるさない冬富士も山麓の森は穏やかです、笑
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山岳点景:冬富士の青

2016-12-11 20:20:00 | 写真:山岳点景
最高峰の冬



山岳点景:冬富士の青

積雪期の富士山、陽が高くなると雲を吐きます。



気温上昇→雪面が溶けて蒸発→雲になるワケです。
溶けた雪面は低温に凍結して硬度を増して、その強度はコンクリートレベルに達します。
富士が鏡面状態に輝いているときはコンクリート状態ってことです、そこから吐かれる雲は刻々変化します。



一秒ごと雲が変化→曇また晴れてゆく、それだけ山上の風は強いということです。
特に冬期は季節風が強く、シャッターを破壊するレベルの豪風が吹き荒れます。



アイゼンも刺さらないほど硬い雪面+豪風+遮るものない大斜面=滑落してアタリマエ、

それが冬富士の現実です、
季節で難易度まったく変わるのが富士山、その冬は「白魔」とも呼ばれています。
夏は安易なコースも凍りつけば大滑り台+豪風に煽られて立っていることもできません。

今シーズンの富士山遭難件数は既に3名、
もう犠牲者がでないためには自己過信しない×無理しない自助努力しかありません。
遭難したら救助してもらえてアタリマエ・なんて甘ったるい考えなら相互扶助される権利もありません。



雪山はきれいです、白銀まばゆい空の世界は惹かれます。
その美しさのぶんだけ危険だらけで、危険の全てを自力で超えなくては死ぬ世界です。

冷厳はらむ危険、富士山はその最高峰でもあります。


撮影地:富士五湖畔@山梨県

危険性や注意点を明示しないでアウトドア特集する雑誌やテレビが結果、無知なハイカーも理不尽な判決も作ります。
そこらへん山ブロガーさん達も責任もって記事UPしてくれたら、山の遭難事故は減るんじゃないかな?と。
安全万全でお互い楽しめたらいいですね、笑

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休日雑談:休日の横顔

2016-12-10 11:07:00 | 雑談
体調万全じゃないので予定を一日延期、
そんな休日ノンビリ陽だまり、白い毛並きらきら銀猫風。



小耳ふわふわ毛も日に透けます、笑



窓ガラス掃除もしないとですね、って気づいた撮影感想。笑

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第85話 春鎮 act.10-another,side story「陽はまた昇る」

2016-12-09 22:27:42 | 陽はまた昇るanother,side story
孤独の航跡
harushizume―周太24歳3下旬



第85話 春鎮 act.10-another,side story「陽はまた昇る」

選ばれなかった愛情、その居場所はどこにある?

「…菫さん、英二は知っているんですか?今お話ししてくれたこと、」

語られた過去に願いたい、どうか知らないならそのままで。
けれど哀しい予測のまま青紫の瞳が言った。

「知らないとしても気づいているでしょう、賢い、鋭い子ですから…だから家を出たのだと思います、」

穏やかな声、でも深い哀しみ疼く。
その優しい瞳は静かに微笑んだ。

「父親にも夫にも選ばれなくても母親になれるひともいます、でも、お母さんを知らない美貴子さんは…どうしたら良かったのでしょう?」

菫色の眼ざしに海が染まる。
ちいさなテーブルむかいあう窓、周太はそっと踏みこんだ。

「あの…英二のお母さんのお母さんは、亡くなられて?」
「そうです、ずっと昔に、」

静かなアルトが応えてくれる。
紅茶やわらかな馥郁の先、過去を見た声は続けてくれた。

「美貴子さんが生まれるとき亡くなられたのです…英輔さんもお葬式に参列されています、お仕事でのお知り合いでした、」

半世紀の過去が紅茶に薫る。
あの女性が生きてきた、その原点が語られる。

「美貴子さんには13歳上のお兄さまがいます、そういうお母さまに美貴子さんは当時として高齢出産です…お産は今よりも命懸けの時代でした、」

生まれた瞬間が死別、それはどんな感情を生むの?

『事故に遭った、ですって?怪我した、ですって?…英二がなぜ、そんなことになるのよ?』

去年三月の声、あの声ずっと最初から。
彼女が生まれた最初からたぶん、彼女は叫んでいた。

“生まれるとき亡くなられました”

自分が生まれる、そのために母親の命を消してしまった。
そんな現実どれだけ彼女は叫んだのだろう?

『なぜ、そんなことになるのよ?』

なぜ?

ずっと叫んでいた彼女の声、あれは五十年の聲。
そんな彼女の願いまた響く、雪の夜の病院の片隅に凍えた声。

『普通に可愛いお嫁さんと結婚して、可愛い孫を見せてほしいの。それのどこが悪いのよ?』

普通に、そう願うあなたは何ひとつ悪くない。

「…だからなんですね、」

想いこぼれて声になる、すこし近づく。
あの凍えた瞳すこし見つめられる、そんな想いに語る声が響く。

「…鷲田さまは再婚されませんでした、美貴子さんは乳母の女性と家宰の男性が育てたのです、鷲田さまも溺愛されて…でも母親にはなれません、」

美貴子の父親が再婚しなかったのは、亡くした妻への想いだろうか?

“溺愛されて”

妻の忘れ形見を溺愛する、そんな人間らしい温度も彼にはある。
それなのに彼はなぜ娘に投げてしまったのだろう、あの言葉を?

『理想の後継者をつくれる、』

産褥に母を亡くした娘、その娘の産後すぐ言ってしまった言葉。
あの言葉すらなければ違ったかもしれない?そんな今にアルトが紡ぐ。

「母親という存在にふれないで美貴子さんは育ったのです、父親の鷲田さまもお忙しくて…親がなにか解からなくても、責められるでしょうか?」

五十年ずっと、ずっと彼女は解からなかった。
そんな時間に生まれた現実へ静かな声は言った。

「そういう美貴子さんなのです、英二さんを愛せなくてもしかたないのかもしれません、でも…私は哀しいのです、」

やわらかなアルトに一滴、紫ふかい瞳あふれる。
白皙ゆるやかに伝わり皺なぞらせて、静かに微笑んだ。

「英二さんは美しくて優秀です、司法試験も学生のとき受かっているんですよ?でも…優れているからこそ残酷です、」

潮騒が聴こえる、君の海に。

「…ざんこく、」

言われたまま声になる、君の貌に。
最後に逢えた笑顔は雪の病室、傷だらけだった貌にアルトが重なる。

「優秀だからこそ人の弱さも痛みも理解しきれないのです、美貴子さんと傷つけあって、そのたびまた…もう素顔の一部です、」

君の素顔、それが「残酷」なの?

そうかもしれない、だって君は美しくて高潔で、高潔なぶんだけ激情も大きい。
優秀だからこそ誇らかに高らかに君は臨んで、それでも見過ごせない記憶こぼれた。

「でも英二は人を救うんです、命懸けで笑って、」

そんな君だから、忘れられない。

「山の英二は本当にきれいに笑うんです、他人の命も自分の命も喜んで笑うんです、山のぜんぶに、」

山を駆ける君を見た、あれを素顔じゃないなんて自分には言えない。
だって見てしまった、肚底まっすぐ立って笑って、泣いても笑って立ちあがる君の傷。

「ざんこくって、英二は残酷なひとだって僕も思います、でも山の英二は本当にきれいなんです、命懸けで誰かを救って笑う英二が山にいます、」

君の残酷さなんて知っている、だって何度もう泣いたろう?
この体どこにも刻みこまれた君の記憶、その傷いくつも軋んで泣きたくなる。

それでも忘れられない、山で笑った君の瞳。

『周太、星すごいだろ?』

紺青色あざやかな山の夜、銀色の星より声が光った。
君の声あざやかに誇らかに輝いて透った、あの煌めき声になる。

「英二は山で生きているんです、ほんとうに笑って泣いています、僕を救ってくれたから僕は知ってるんです、」

初対面は、きらいだった。

『ふーん。じゃ、同期になるんだ、』

あの冷たい瞳が嫌いだった、でも底ふかく君がいた。
そうして警察学校に過ごした時間、なつかしい隣の温もり瞳に燈る。

「僕は知っています、まじめで負けず嫌いで、なきむしで優しい…英二の素顔です、」

想い熱になる、瞳こぼれて頬つたう。
ゆるやかな熱の航跡に君が響く、この窓から今は遠くても。

『空で繋がって俺は、いつも周太の隣にいるよ?』

奥多摩の山頂に笑った君の声、あの瞳ふかく澄んで眩しくて。
あの笑顔どうしても護りたい、ただ願い瞳まっすぐ見つめた。

「教えてください菫さん、英二は鷲田さんの養子になったんですよね?それは英二の進路がどうなることなんですか?」

この答もう聴いてきた、その裏付けしてもらうだけ。
ふたたび聴くだろう現実に心臓が敲きだす、それでも視線まっすぐ言った。

「どうしたら英二を自由にできますか?山で生きてほしいんです、だから僕は、」

だから僕は、君が笑ってくれるなら厭わない。
だって好きだ、あの頬の傷痕に笑った君が。

『最高峰の竜の爪痕だよ、山に生きる御守なんだ、』

あの誇らかな瞳きらめくならそれでいい。
だから僕は、

「だから僕はそのためなら後悔しません、逢えなくなっても、」

君の笑顔が好き、だから君は君を棄てないで?

『俺は、最高峰から世界を見つめたい、』

君の自由に君は生き続けて、あの笑顔は失わないで?


(to be continued)

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雑居雑談:或る日、好きなもの

2016-12-08 19:55:00 | 雑談
悪戯坊主がふみふみしているのは、元・ニットパーカーです。
ちび猫だった悪戯坊主@初めてのお留守番のとき、身代わりに与えて以来のお気に入り。
で、猫のふみふみ=子猫が母乳を吸う仕草の名残り=あまえる仕草を毎日ずーーーっとしているわけで。



が、先日=晴天だった休みに悪戯坊主の隙を狙って略奪→洗濯し、
その洗濯機に「あーーんっ」と細いカワイイ声で泣かれたりもし、笑
太陽に乾して無事すっきりキレイになったところで返したら、即・ふみふみ開始して、
で、しばらくこんなカンジ↓に乗っかって見張っている悪戯坊主に、

こんなことはナニゲナイし・どこにもある風景かもしれないけれど、
そんな一つひとつが笑わせてくれて毎日いつも息抜きさせてくれる、って、ただ幸せで。笑



小説UP準備中しつつも風邪ひきそう?なのでトリアエズ悪戯坊主日記を、笑
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山岳点景:緋色の森

2016-12-06 22:34:00 | 写真:山岳点景
初冬に染まる、



山岳点景:緋色の森

近くの森も赤くなりました、


朱い黄金そまる木洩陽、


標高あまりない平地の森は赤色やわらか、


朱い陰翳に冬は近いです。


第178回 1年以上前に書いたブログブログトーナメント
撮影地:森@神奈川県

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第85話 春鎮 act.9-another,side story「陽はまた昇る」

2016-12-05 22:15:08 | 陽はまた昇るanother,side story
鍵の守人
harushizume―周太24歳3下旬



第85話 春鎮 act.9-another,side story「陽はまた昇る」

聴いてくれますか?

そう問いかける瞳は青紫まっすぐ透きとおる。
ごまかしなんて欠片もない、ただ率直な視線に尋ねた。

「どうして菫さん、僕に話してくれるんですか…ガヴァネスの守秘義務を破って、」
「義務と誇りがあるからです、」

銀髪やさしい細面が見つめてくれる。
菫色の瞳は周太を映して、やわらかなアルト微笑んだ。

「私は爵位継承者ではありません、でもね周太さん、私にも noble obligation は大切なのです、」

noble obligation 高貴な義務

イギリス貴族に流れる社会の責任を担う誇り。
その物語してくれた海の窓、紫色ふかい波にアルトが紡ぐ。

「この日本で育てた時間が私の王国です、そこで起きた全てに私の noble obligation があります。だから私のために話すのです、」

やわらかなアルト静かに響く。
時の皺きざむ白皙の貌は穏やかに問いかけた。

「周太さんはお会いしていますね?英二さんのご両親と、」
「…はい、」

うなずいて重ねる手が温かい。
白い掌やわらかな温度に静かな声が告げた。

「英二さんのお母さんとお父さん、美貴子さんと啓輔さんの結婚は…率直に言って、初めから壊れていました、」

初めから壊れて、

「…、」

哀しい言葉、なにもこたえられない。
ただ見つめる窓を波音かすかにアルト寄せる。

「美貴子さんのお父さまが持ちこんだ結婚でした、でも啓輔さんを見込んだからではありません。英二さんのお祖父さまがターゲットでした、」

見込んだからじゃない、どういうこと?

「…お婿さんのお父さんが目的、って…どういう意味ですか?」

疑問こぼれて見つめる真中、青紫の瞳が深い。
澄み透る眼ざし見つめて、その声が言った。

「宮田英輔さまは優秀で人望もある法律家でした、その遺伝子がほしかったのです、」

遺伝子?

「…遺伝子がほしいって、」

どういうことだろう、何を言っているのだろう?
解からないまま紅茶あまやかな香に老婦人は告げた。

「ご自分の遺伝子と英輔さまの遺伝子に生まれる才能で、理想の後継者をつくれると仰いました、」

つくれる、って、

「そんなこと…どうして、誰から聴いたんですか?」
「あの方ご自身が仰ったんですよ、生まれたばかりの英二さんを抱きあげたとき、」

応えてくれるアルトは静かに凪ぐ。
けれど言葉の哀しみに周太は唇ひらいた。

「そんなこと英二は言われたんですか?生まれたばかりで…つくれるって、」
「はい、美貴子さんのお父さまはそういう方です、」

やわらかな声、それなのに哀しい。
こんな言葉たち繰りかえす、その痛みが告げた。

「鷲田さまはそういう方なのです、だから美貴子さんは息子を愛せないの、」

鷲田、その名前だ。

“権力者だ、その後継者として宮田は鷲田になった”

午後に聞いたばかりの名前、その事実がアルトに紡ぐ。

「遺伝子で理想の後継者をつくる、そういう鷲田さまの言葉は私も解からなくありません。貴族の家に生まれたなら後継者問題は大切ですからね?私にも肯けるのです…鷲田さまのお立場なら当然の義務であり、責任でもあるでしょう。安心できる跡継ぎを望むことは、責められることではありません、」

静かな声が名前めぐる現実つづる。
この名前、だからほら、午後の声また響きだす。

『鷲田克憲って元官僚が宮田の祖父だ、官庁の裏事情から官僚個人まで全てを知ってる。それだけ情報網を張れる人脈と才能がある男だ、』

人脈と才能、そんな男が「つくった」と言う。
そんな全て見つめてきた菫色の瞳ゆっくり瞬いて、続けた。

「鷲田さまを私は否定できません、でも美貴子さんの言葉も忘れられないのです、」

忘れられない言葉、

それが鍵だろうか、あのひとの。
それなら受けとめたくて見つめた先、深い青紫が告げた。

「私は遺伝子を混ぜるフラスコだったのね、」

穿たれる、

「鷲田さまが帰られてから言ったんです、ご自身のこと…美貴子さんの涙を初めて見ました、」

穿たれる言葉、その過去つむがれ撃たれる。

“私は遺伝子を混ぜるフラスコだった”

そんなふうに想ったら心、どれだけ痛いの?

「…そんな、」

あの女性がそんなふう想ったなんて、嘘みたい?
嘘じゃない、だから彼女はあんなに凍えた瞳で。

『私の好きにして、何がいけないの?』

春の雪ふる病院の廊下、美しい冷たい眼。
美しい声は刺すような口調、それから底深く眠る哀しい痛み。

『その全てが私が生んであげたからでしょう?だったら、私の好きにして、何がいけないの?』

生んであげたから、好きにして何がいけない?
あんなふう言われる英二がただ哀しかった、けれど今もう彼女を責められない。

“理想の後継者をつくれると仰いました、”

ああ、だから貴女はあのとき怒鳴ったんだ?
だから瞳あんなに凍えてしまった、その熱あふれだす。

「…周太さん、誰のために泣いて?」

アルトやわらかに問う、その瞳は菫色ふかく温かい。
この温もり欠片でも贈りたくて、そんな想い零れた。

「…英二のお母さんの言葉…思いだして、僕は、」

あの瞳に出逢った、あれから時間どれだけ過ぎる?
数えた一瞬が声になった。

「…去年の三月です、初めてお逢いしたとき言ってたんです…私が生んであげた、わたしの好きにして何がいけないの、って、」

ひどいことを言う、そう想った。
けれど今もう責められない、その言葉なぞった。

「理想通りでいてほしいのよ、って言ったんですお母さんは…あれは言われたからなんですね、理想の後継者をつくれる、って…」

三月の雪ふる奥多摩、しずかな病院の片隅の声。

『私の理想通りにいてほしいのよ、』

刺すような声は冷たく依怙地で、固くて、そして冷たい瞳。
あんなふう凍りついてしまった過去に静かなアルトが言った。

「英二さんが雪崩に巻きこまれた時ですね…そう、そんなときでも美貴子さん、そんなことを、」

やわらかな声つづる想い、その瞳は青紫ふかく哀しい。
こんなふう哀しみいくつ見つめたのだろう?その深い瞳は告げた。

「それでも、もし啓輔さんが美貴子さんの愛に応えていたら多分、違っていたんです、」

ふかい深い声、窓の海に映る。
残照ふかい紫色の波、あわい潮騒にガヴァネスは言った。

「母親とは強いものです、もし美貴子さんに啓輔さんへの気持が何もないなら、却って救われたのかもしれません、」

静かに告げる名前ひとつ、春の記憶が映りだす。
去年なつかしい春の家の庭、あのひとの父親は訪れた。

『愛する場所と人を、自分で見つけて選び守っていく。そういう生き方が出来る息子は同じ男として眩しいです、』

花の梢に笑った瞳が似ていた、あの切長い眼ざし。
だから気づいてしまいそうになる真実が、静かな声ゆらす。

「啓輔さんへの想いがなければ、ただ母親として生きる時間を選べたかもしれませんね?でも報われたい愛情が傷つくのです…だから家にいられない、」

家にいられない、その家の女主人が。

「美貴子さんが家にいなかったこと、英理さんも英二さんも周太さんに話したそうですね?その理由が啓輔さんである以上、私にも責任があるのです、」

静かな深い声が告げる、その瞳ふかく優しい哀しみが澄む。
そこにある歳月しずかに続けた。

「私が宮田の家にきたのは啓輔さんのガヴァネスになるためでした、彼と育った時間は私の誇りです…でも、いちばん大切なこと教えられなかった、」

紫色やわらかに暮れゆく窓、部屋の灯が映る。
おだやかな明り銀色の髪を映して、静かなアルト告げた。

「お見合いに恋愛感情がなくても仕方ありません、でも結婚は愛情を育むことです、育もうとする強い温かい心は…私は教えられませんでした、」

教えられなかった、その瞳ゆれる青紫が澄む。
澄み透るほど長くふりつもる哀痛は、そっと微笑んだ。

「啓輔さんは立派な男性に育ったと思います、でも、女性の傷を理解できない…真面目すぎて、優秀すぎて、」

真面目すぎて、優秀すぎて。

そういう男の感情どんな人間なのか、自分も知っている。
だから解ってしまう哀しみが、その痛み青紫の瞳を透かす。

「遺伝子をつなぐことが結婚でもあります、でも、それが苦しみになる女性もいるのです…そこへ美貴子さんを追いつめたのは、ふたつの家です、」

灯やわらかな窓に深い声、透きとおる年月の哀痛。
この哀しみ痛み全て受けとめたい、願う真中で菫色の光こぼれた。

「だから美貴子さんは母として生きることを選べなかったのです…父親と、夫と、どちらにも選ばれなかった愛情が、」

選ばれなかった愛情、その声に涙つたう。
白皙の頬きらきら零れて、長い睫ゆるやかに瞬いた。

「選ばれなかった愛情が英二さんの原点です…だから家を出たかったのかもしれません、」

やさしい深い声ひとしずく、海の窓こぼれる。


(to be continued)

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山岳点景:師走紅葉

2016-12-03 21:05:00 | 写真:山岳点景
小春、紅色黄金



山岳点景:師走紅葉

師走12月、紅葉も最後の盛り。



渓谷のほとり、色づく伊呂波楓いろはかえで。



黄金に紅色に、太陽光線×温度×湿度の微妙な色彩。



小春の木洩陽、透ける光。


撮影地:桂川流域@山梨県

季節の彩り 47ブログトーナメント

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第85話 春鎮 act.8-another,side story「陽はまた昇る」

2016-12-02 23:15:11 | 陽はまた昇るanother,side story
扉の温度
harushizume―周太24歳3下旬



第85話 春鎮 act.8-another,side story「陽はまた昇る」

この扉、開かれたら真実を聴ける?

「…カイ、おうちに着いたね?」

傍らの犬に微笑んで、つぶらな黒い瞳が見あげてくれる。
茶色やわらかな毛も濡れてしまった、そんな友達に周太は微笑んだ。

「ありがとうカイ…僕をたすけてくれたこと、もう忘れないよ?」

大理石の廊下、そっと屈みこんで頬に黒い鼻ふれる。
温かな吐息やわらかな舌ぺろり、ぬぐわれた涙に笑いかけた。

「また泣いてたんだね僕、ありがとう…ドア開けようね?」
「くん、」

やさしい鼻音、茶色い耳がうなずく。
潮はたり滴る犬の隣、立ちあがりインターフォン押した。

「おかえりなさい、周太さん、」

アルトの声すぐ応えてくれる。
そうして開かれた扉、頬ふわり温かい空気ふれた。

「まあ、周太さん…どうしてずぶ濡れに?カイもいつのまに外へ、」

もう帰り慣れた玄関ホール、菫色の瞳ゆっくり瞬く。
銀髪やわらかなガヴァネスに周太は言った。

「菫さん、僕…カイが僕をたすけてくれたんです、ごめんなさい、」

頭さげて一滴、はたり革靴を敲く。
爪先じわり滲みだす香に優しいアルトが訊いた。

「そう、カイはえらかったのですね…海に落ちたのですか?」

落ちた、んじゃない。

「…すこしちがいます、」

唇そっと動く、言葉こぼれて鼓動が疼く。
本当のこと言えば傷つける、それでも真実に顔をあげた。

「菫さん、僕は…死ねなかったんです、」

告げた真中、菫色の瞳ゆるやかに開く。
まっすぐ見つめて、その白い手そっと肩ふれた。

「まずコート脱ぎましょう、カイも一緒にお風呂場よ?」

ダッフルコート脱がす優しい手、その白皙やわらかな甘い香。
ただ優しい空気ふれる温度は静かに微笑んだ。

「周太さん…英二さんのために死のうとしたんですか?」

気づいてくれる?

「…、」

熱ふかく喉に燈る、瞳の奥せりあげる。
やわらかな鼓動ぎゅっと軋んで背中、温もり包まれた。

「まず温まりましょう、周太さん…それからです、」

濡れて重たいニット、けれど優しい温度ふれる。
このひとなら信じていい?願い唇こぼれた。

「それから…話してくれますか?英二のこと…ぜんぶ、」

どうか聞かせほしい、すべて真実を。
この願い見つめてくれる瞳は紫ふかく微笑んだ。

「全部は、覚悟がいりますよ?」

率直に応えてくれる、それだけ全て見てきた瞳。
その真相すべて懸けて肯いた。

「はい…僕も覚悟してきたんです、海で…」

海で、君の海で。

ほんとうは君に訊きたい、君の声で聴かせてほしい。
けれど君に逢える手段は今なにもなくて、それでも掴める鍵に言った。

「話してください菫さん、ほんとうのことだけ知りたいんです。英二の、ほんとうの全てを、」

他の誰にも聴けない、唯ひとり話してくれる。

きっと大叔母にはたぶん教えてもらえない、だって血縁も感情もありすぎる。
このガヴァネスだって似た感情あるだろう、それでも平等な眼ざし微笑んだ。

「顕子さんが帰るまで2時間あります、でも、まずお風呂ですよ?」



あまずっぱい香あたたかい、それから紅茶の湯気。

「夕食の前ですけど特別です、りんごは万病の薬ですからね?」

アルトやわらかな声が笑ってくれる。
ちいさなカフェテーブルむきあう窓辺、焼きたての香にフォークつけた。

「…おいしい、」

ほろりバターの香くだける、あまずっぱい果汁ひろがる。
温かなパイさくさく甘く香ばしくて、ほころんだ想い菫色の瞳が笑った。

「おいしいでしょう?生きているって、おいしいんですよ、」

生きている、

この言葉どれだけ想いこもるのだろう?
やわらかな湯気の先、優しいアルトが微笑んだ。

「お話しする前にね、周太さん、私にもガヴァネスとして守秘義務があるのですよ?」

それでも話しましょう?
そんな瞳ただ優しく温かで、申し訳なさ頭さげた。

「…すみません、僕、自分のことばかり…ごめんなさい、」

うなだれてブランケットの膝、そっと温もりふれる。
ふわり茶色の毛並みやわらかな温度、つぶらな瞳に哀しい。

―ごめんねカイも…カイの大事なひとを困らせて、

困らせてばかりだ、自分は。

その果てに沈みかけた海は残照ガラスを透かす。
黒藍ゆらす朱色の波、はるか眺める窓に訊かれた。

「周太さん、まず教えてください…なぜ海にしたのですか?」

アルト深く響く、その問いが鼓動ふれる。
そっと顔あげて、見つめた菫色の瞳が訊く。

「なぜ海で死のうとしたのですか…この浜で?」
「…ごめんなさい、」

唇こぼれて軋む、あらためて哀しい。
自分だけじゃない大切な場所、そこに見つめた後悔へ声響いた。

「この浜で…英二さんの想い出に沈もうとしたのですか?」

想い出に沈む、そうかもしれない。
それだけに、唯ひとつ囚われる想い溢れた。

「だから僕は…生きようって想えたんです、」

君の想い出に沈んだ、だから気づけた。
その海きらめく窓へ声になる。

「英二に逢ってから僕、たくさんの人に逢えました…それを思い出せたんです、この海だから、」

残照はるかな一閃、朱色あざやかに今日が沈む。
そうして近づく明日に笑いかけた。

「だから生きたいんです、だから英二も後悔にしたくありません…泣いても、知らないよりずっといい、」

君と出逢えた、その全てを喜べたなら?
そんな願いそっと握る手のひら、濡れた錦の温もり微笑んだ。

「知った今のほうが僕はずっと幸せなんです、それでも僕には菫さんも大事です、だから…無理には話さないでください、」

誰かの心、踏みつけてまで知りたいだろうか?
知りたいとは想えない、だって自分も痛みいくらか知っている。

「菫さん、僕は無理に話して…傷ついたことあるんです、だから菫さんに無理してほしくないんです、」

傷ついた、だから疼いて忘れられない。
そんな本音いまさら気づく海の窓、やわらかなアルトが微笑んだ。

「その傷、英二さんがつけたのでしょう?」

どうしよう、

「あの…、」
「ごまかさないで?私だから解るんです、」

アルトやわらかに笑ってくれる。
なにも責めてはいない、そんな菫色の瞳が言ってくれた。

「英二さんを育てた一人は私です、だから解るんですよ。だから私も周太さんと一緒に傷つかせて?」

ちいさなカフェテーブル、白い手そっと伸ばしてくれる。
カップのかたわら手に温もりふれて、明るい菫色の眼ざし微笑んだ。

「イギリス貴族は本音をさらけだすなどしません、そういう半分で出来ている私の心が言っているのです…聴いてくれますか?」

異国の瞳が見つめてくれる、その重ねてくれる手が温かい。
透けるよう白い指は細く長くて、柔らかな温もり静かに強い。


(to be continued)

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