3年間書いた論文の量はA4で
稀代の人たらしである司馬遼太郎の本が好きだ。いろいろと読んできたが、歴史物は格別の思いがある。幕末・維新のは特に好きでなんでも読んできた。さらに、司馬遼太郎の書いた空海の本も好きである。空海も若いころはあまり関心がなかったが、じーちゃんになってくると老い先短いからか、なかなかのことが書いてあるとしみじみ思う。配偶者が空海の宗派の寺院に死んだらお世話になりたいというので、特にあの宗派に興味を持ったわけではない。配偶者の父も親戚もそこの寺院墓地にいるからだが、司馬遼太郎に感化されたことは否定できない。
そんなことより「郡上・白川街道 堺・紀州街道ほか」という(「街道をゆく4」)がいい。そもそも、「街道をゆく」という本はAmazonで買うと100円(古本)くらいである。インターネットでちょいちょいとクリックするとあっというまに、私の家に来る。ありがたいものである。この文庫本を持って旅に出ると、余生を送らせていただいていることのしあわせをしみじみ感じさせてくれる。言わば旅の友である。最近は、配偶者と一緒の旅が多いから、一人旅を気取ってふらふら出かけることはなくなった。たまには一人で行ってみたいが、いつ何時旅先でくたばるか分かったもんじゃなから、やらなくなった。だいいち、配偶者が許してくれない。血圧から、食べるもの、飲酒、運動まで厳しく管理されているからである。ついでに、家計も管理されているから私は両腕が縛られているようなものである。つまり半端もんなのである。情けないけど、自業自得であるから文句は絶対に云わない。
で、この本である。
「郡上・白川街道 堺・紀州街道ほか」である。鞍馬寺からの道を書いた「洛北諸道」が実にいい。まだ、そこに行ったことがないからいいのだが、冒頭の「スタスタ坊主」という一文がなかなかである。さすが天才司馬遼太郎である。スタスタ坊主というのは、全国を遊行して歩いた僧侶とはいえないマレビトである。お札を売って歩いた高野聖みたいな存在であるのだが、高野聖とは違って僧侶の姿はしていないのだそうだ。上半身裸であったからである。スタスタと歩いて、それも群れをなして歩いていたそうな。こういうのにエラく興味がわくのである、私は。
行ってみたくなった。この古本文庫を持って。今、NHK大河ドラマの「義経」を見ているせいもあって、鞍馬寺にあるいは洛北の街道を歩いてみたい。できれば、愛車で行ってみたい。そういうのをこれまでもやってきたからであるが、大型オートバイで行っていたtouringと一緒なのである。ある日突然、ふらふらと出かけたくなる。奥の細道と一緒である。漂泊の思い止まずである。ま、芭蕉翁の場合は、いろいろな学説があってあの旅の動機は、ちょっと簡単なものではなかったらしいが。
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昨日、ある研究誌に投稿した。査読つきの研究誌なので、掲載の許可が出るかどうかはわからない。タイトルは「鬼来迎と目連救母劇」である。字数は、二万字程度であった。第一稿なので、これから改訂する。今日は、在籍大学で、師匠にその原稿を提出してご指導をいただく。締め切りは来月の20日である。まだ先のことになる。A4で40枚近くなった。中国の目連救母劇というのを見てみたいと思ってきたが、実現しなかった。もうできないかもしれない。体力に自信がないのと、中国語がまったくできない。バカにも程がある。NHKの中国語講座をいつでも見られるように、デスクトップパソコンや、ノートパソコンで準備して見ているのだが、これまたアタマに入ってこない。さらに在籍大学がやってくださっている留学生による中国語講座(全コース3000円)も受講しているのだが、それも不出来なアホ受講生である。留学生のクラスメイトに教わっているのだけれども、これまた呆れられている。初級クラスから永遠に脱出できないのだ。
目連救母劇で有名な中国福建省の厦門大学に短期留学したいとずっと思っている。しかし、こんなんじゃできないなぁ。能力も、体力もない。だいいち、飛行機に乗ってあちらまで行けない。一人旅ができないからだ。まったく情けない。
しかし、それもこれも師匠と過ごさせていただいた在籍大学での3年間があったからこそである。学問や研究というものあり方、もの考え方、感じ方、文学というものの基礎基本、論文の書き方というものを本当に手取足取り教えていただいた。感謝である。こんな自堕落な老人学生を教えていただいて、ありがたかったと思っている。それだけが唯一の財産であり、最大の財産である。
もう、来年には在籍大学も去らねばならない。
しかたがない。
これ以上ご迷惑をおかけしたら、仁義に反する。それくらい私だって理解できるからである。この3年間書いた論文の量はA4で1000枚以上になる。質より量で勝負したってわけである。毎日毎日、10時間以上は論文を書いていた。3年間である。じっと座りっきりであった。そして、それも全部ゴミとなってしまった。一部掲載していただいた研究誌を除いては。ま、これも私だけの唯一の財産である。
配偶者に私の棺桶に入れてくれと頼んである。柔道着と一緒に。
(^_^)ノ””””