最近よく聞いている曲が、ブライアン・イーノのアルバム「The Ship」に入っている「I'm set free」です。天から降ってきたようなサウンドとメロディーが気持ちよくて、何度も聞いてしまいます。原曲はルー・リードの作で「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドⅢ」に入っています。
Brian Eno • ‘Fickle Sun (iii) I’m Set Free’
歌詞の中で、I'm set free....illusionと聞こえるところがあります。illusionというと幻想のことですが、私がすぐ思い浮かべたのは、動物行動学者の日高敏隆氏がよく書いていた「世界はイリュージョンのようなものだよ」という言葉です。絶対的な世界なんてものはなくて我々が見ているのはイリュージョンなんだよという、動物行動学研究から導かれた世界観です。I'm set free....illusionと歌っているイリュージョンはこれとほぼ同じ意味で使われているということがわかってきました。
つい最近、手術のため入院していたのですが、時間もあったのでネットでこの曲のことを調べてみました。
歌詞は、
[Verse 1]
I've been set free and I've been bound
To the memories of yesterday's clouds
I've been set free and I've been bound
And now
I'm set free
I'm set free
I'm set free to find a new illusion
[Verse 2]
I've been blinded but now I can see
What in the world has happened to me
The prince of stories who walks right by me
And now
I'm set free
I'm set free
I'm set free to find a new illusion
[Verse 3]
I've been set free and I've been bound
Let me tell you people what I found
I saw my head laughing, rolling on the ground
And now
I'm set free
I'm set free
I'm set free to find a new illusion
歌詞の和訳はこちらのブログから引用しました。
[1]
ずっと自由でいて ずっと縛られている
昨日の雲の記憶に つながれている
ずっと自由でいて ずっと縛られている
そして今
俺は解き放たれた 自由になった
新しい幻想を見つけるために
[2]
ずっと目が見えなかった けれど今は見える
何が起こったんだろう この俺に
横にぴったり歩いているのは お伽話の王子様
そして今
俺は解き放たれた 自由になった
新しい幻想を見つけるために
[3]
ずっと自由でいて ずっと縛られている
俺が見つけたものを あんたがたにも教えてやるよ
俺自身の生首が 笑いながら地面を転がって行ったんだ
そして今
俺は解き放たれた 自由になった
新しい幻想を見つけるために
3番の「俺自身の生首が 笑いながら地面を転がって行ったんだ」という一節はわかりにくいですが、イリュージョンだから、例えばこんなイメージから想像してみたらいいかもしれません。
マルセル・ザマ「第一子」
さて、イーノがこの曲のカバーを出すにあたり、次のようなインフォメーションが出ています。
60年代後期に書かれたルー・リードの「I’m Set Free」は、書かれた当時以上に現在の方がより意義を持つように思える曲だ。ユヴァル・ノア・ハラーリ(イスラエル人歴史学者/著述家)が書いた本『SAPIENS:A Brief History of Humankind』を読んだことのある者なら誰しも、"新たな幻影を見つけるために私は自由になる(I’m set free to find a new illusion)" というあの曲の一節の持つ物静かな皮肉に思い当たるのではないかと思う…そしてそこにある、自らのストーリーから抜け出したからといって我々は何も<真実>ーーそれがどんな真実であれーーに足を踏み入れるわけではなく、また別のストーリーの中に入っていくものなのだ、との言外の含みも理解することだろう。
私達はイリュージョン(幻想、幻影)の世界に生きているという考え方は、私のような凡人には頭では分かってもなかなか実感として捉えにくいものがありますが、とても頭のいい人や感覚が鋭い人には分かることのようです。ちなみに仏教にもこのような考え方は根本にあって、例えば「般若心経」では、ありとあらゆるものが「空」であると説かれていますが、この「空」こそ「実体がない、実在しない」という意味です。
最後に、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドによる原曲「I’m Set Free」のYoutubeをリンクします。イーノ版ではコードをメジャーにしていたところが、原曲ではマイナーであったりと、やや違ったおもむきがあります。この曲の入ったアルバム「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドⅢ」には、「Candy says」という、とろけるようなメロディーの名曲も入っています。
The Velvet Underground - I'm set Free
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