京都大学医学研究科の研究グループが「幸福の神経基盤を解明」したと発表されました。
主観的幸福、つまり幸福感の強弱と大きさが相関する脳部位が発見されたというのです。楔前部(けつぜんぶ)という聞きなれない脳部位に主観的幸福の基盤が存在しているらしいのです。それも右脳の楔前部にです。主観的幸福という非常に高度な哲学的概念の主体が脳のある部位に存在しているということ、つまり純粋に生物学的、物質的な存在であるということがまず驚きです。そして、高度な分子生物学的な脳研究が行われているこの時代に、心理アンケートと、我々も脳ドックなどでよく検査を受けるMRIで、ある脳部位の大きさを測るだけという、いたって簡単な方法でこのような重大な発見がなされたことも面白いところです。
エレーヌ・フォックス「脳科学は人格を変えられるか?」によると、楽観脳(サニーブレイン)は側坐核と前頭前野からなるユニットが中心的な役割を果たしている、また楽観的な人では左脳の活動度が高いということですが、これらの脳部位と今回報告された右楔前部は別の場所にあります。楔前部は大脳の内側面にあり、大脳辺縁系の一部とされる場合もあるそうです。
瞑想トレーニングが楔前部の体積を変えることはすでに知られていたそうですが、楔前部とはいったいなんだろうと、ネットで検索してみるといろいろ出ていました。プロ棋士ではアマチュアと比べてここの活動度が高いため直観力に関係しているらしいです。時間の感覚がなくなるほどに何かに集中して作業に没頭している状態は「フロー」と呼ばれています。楔前部はこのフローに関係していて、意識的に考えなくてもアクティブに動いているシステムのハブであって、創造性を発揮する瞬間に非常に活発になるともいわれています。また面白いことに、かゆみを認知する部位でもあるそうです。かゆいところを掻くときに快感に近い感覚を覚えますが、それと主観的幸福とのあいだにまさか関係があるとは思えませんが。
瞑想することで右楔前部が大きくなり、それにともなって幸福感も高まるのだとしたら非常にわかりやすい話ではありますが、そんなに単純なことなの?とも思ってしまいます。この分野の研究が進んでさらに脳における幸福感というもののあり方がいろいろとわかってくるのが楽しみです。
本研究成果は、2015年11月20日に英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)」誌のウェブサイトに掲載されました。その概要は、京都大学のウェブサイトに下記の通り報告されているので引用します。
『幸福は、人にとって究極の目的となる主観的経験です。心理学研究は、主観的幸福が、質問紙で安定して計測できること、感情成分と認知成分から構成されていることを示してきました。しかし、主観的幸福が脳内のどこにどのように表現されているのかという神経基盤は不明でした。神経基盤を理解することで、この主観的な現象を客観的に調べることができ、また幸福が生み出されるメカニズムについての手がかりも得られます。
この問題を、佐藤特定准教授、魚野翔太 医学研究科特定助教、澤田玲子 医学研究科研究員、義村さや香 同特定助教、十一元三 同教授、河内山隆紀 ATR脳活動イメージングセンター研究員、久保田泰考 滋賀大学保健管理センター准教授のグループは、成人を対象として、脳の構造を計測する磁気共鳴画像(MRI)と幸福度などを調べる質問紙で調べました。
その結果、右半球の楔前部(頭頂葉の内側面にある領域)の灰白質体積と主観的幸福の間に、正の関係があることが示されました。つまり、より強く幸福を感じる人は、この領域が大きいことを意味します。また、同じ右楔前部の領域が、快感情強度・不快感情強度・人生の目的の統合指標と関係することが示されました。つまり、ポジティブな感情を強く感じ、ネガティブな感情を弱く感じ、人生の意味を見出しやすい人は、この領域が大きいことを意味します。こうした結果をまとめると、幸福は、楔前部で感情的・認知的な情報が統合され生み出される主観的経験であることが示唆されます。主観的幸福の構造的神経基盤を、世界で初めて明らかにする知見です。
右楔前部と主観的幸福の間に示された正の関係。左図は脳の領域を指す。右図は体積と主観的幸福の関係を示す散布図
今回の結果は、幸福という主観的な経験を、客観的・科学的に調べることができることを示します。今後、瞑想トレーニングが楔前部の体積を変えるといった知見と併せることで、科学的データに裏打ちされた幸福増進プログラムを作るといった展開が期待されます。』
主観的幸福、つまり幸福感の強弱と大きさが相関する脳部位が発見されたというのです。楔前部(けつぜんぶ)という聞きなれない脳部位に主観的幸福の基盤が存在しているらしいのです。それも右脳の楔前部にです。主観的幸福という非常に高度な哲学的概念の主体が脳のある部位に存在しているということ、つまり純粋に生物学的、物質的な存在であるということがまず驚きです。そして、高度な分子生物学的な脳研究が行われているこの時代に、心理アンケートと、我々も脳ドックなどでよく検査を受けるMRIで、ある脳部位の大きさを測るだけという、いたって簡単な方法でこのような重大な発見がなされたことも面白いところです。
エレーヌ・フォックス「脳科学は人格を変えられるか?」によると、楽観脳(サニーブレイン)は側坐核と前頭前野からなるユニットが中心的な役割を果たしている、また楽観的な人では左脳の活動度が高いということですが、これらの脳部位と今回報告された右楔前部は別の場所にあります。楔前部は大脳の内側面にあり、大脳辺縁系の一部とされる場合もあるそうです。
瞑想トレーニングが楔前部の体積を変えることはすでに知られていたそうですが、楔前部とはいったいなんだろうと、ネットで検索してみるといろいろ出ていました。プロ棋士ではアマチュアと比べてここの活動度が高いため直観力に関係しているらしいです。時間の感覚がなくなるほどに何かに集中して作業に没頭している状態は「フロー」と呼ばれています。楔前部はこのフローに関係していて、意識的に考えなくてもアクティブに動いているシステムのハブであって、創造性を発揮する瞬間に非常に活発になるともいわれています。また面白いことに、かゆみを認知する部位でもあるそうです。かゆいところを掻くときに快感に近い感覚を覚えますが、それと主観的幸福とのあいだにまさか関係があるとは思えませんが。
瞑想することで右楔前部が大きくなり、それにともなって幸福感も高まるのだとしたら非常にわかりやすい話ではありますが、そんなに単純なことなの?とも思ってしまいます。この分野の研究が進んでさらに脳における幸福感というもののあり方がいろいろとわかってくるのが楽しみです。
本研究成果は、2015年11月20日に英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)」誌のウェブサイトに掲載されました。その概要は、京都大学のウェブサイトに下記の通り報告されているので引用します。
『幸福は、人にとって究極の目的となる主観的経験です。心理学研究は、主観的幸福が、質問紙で安定して計測できること、感情成分と認知成分から構成されていることを示してきました。しかし、主観的幸福が脳内のどこにどのように表現されているのかという神経基盤は不明でした。神経基盤を理解することで、この主観的な現象を客観的に調べることができ、また幸福が生み出されるメカニズムについての手がかりも得られます。
この問題を、佐藤特定准教授、魚野翔太 医学研究科特定助教、澤田玲子 医学研究科研究員、義村さや香 同特定助教、十一元三 同教授、河内山隆紀 ATR脳活動イメージングセンター研究員、久保田泰考 滋賀大学保健管理センター准教授のグループは、成人を対象として、脳の構造を計測する磁気共鳴画像(MRI)と幸福度などを調べる質問紙で調べました。
その結果、右半球の楔前部(頭頂葉の内側面にある領域)の灰白質体積と主観的幸福の間に、正の関係があることが示されました。つまり、より強く幸福を感じる人は、この領域が大きいことを意味します。また、同じ右楔前部の領域が、快感情強度・不快感情強度・人生の目的の統合指標と関係することが示されました。つまり、ポジティブな感情を強く感じ、ネガティブな感情を弱く感じ、人生の意味を見出しやすい人は、この領域が大きいことを意味します。こうした結果をまとめると、幸福は、楔前部で感情的・認知的な情報が統合され生み出される主観的経験であることが示唆されます。主観的幸福の構造的神経基盤を、世界で初めて明らかにする知見です。
右楔前部と主観的幸福の間に示された正の関係。左図は脳の領域を指す。右図は体積と主観的幸福の関係を示す散布図
今回の結果は、幸福という主観的な経験を、客観的・科学的に調べることができることを示します。今後、瞑想トレーニングが楔前部の体積を変えるといった知見と併せることで、科学的データに裏打ちされた幸福増進プログラムを作るといった展開が期待されます。』
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