(承前)
先週までの平均視聴率を見ると,最高は若手の注目株を揃えた月9の「ヴォイス」。生きている患者を救うという,一般的な医療ものが姿を見せなかったシーズンだが,法医学というこれまでありそうでなかった分野に着目し,大森一樹の往年の傑作「ヒポクラテスたち」を彷彿とさせる医学生群像劇とした仕立てが,功を奏しているようだ。
これまでのところは,一途に真実を希求する繊細な医学生加地役に,連ドラ初主演の瑛太がうまくはまっている。彼を含めて,随分とシンプルな性格付けをされている5人の役柄が,検死を重ねていくことで厚みを増していく方向へと進んでいけるかどうか,脚本の真価が問われるのはこれからだろう。
復帰作となった矢田亜希子は,若者チームの溌剌とした空気に押されて,これまでのところは埋没してしまっているようだが,このまま行けば解剖室の検体ではないが,役に血を通わせることが出来ないまま終わってしまうような気配も漂わせている。
一方で,先の映画における原田芳雄のポジションに持ってきた泉谷しげるが,大のハウスミュージック好きという設定は,一見強引に見えるが,職人気質の助教という役を考えるとありそうでもあり,案外こういう工夫こそがリアリティを出すための肝だと感じさせられる。欲を言えば劇中で本物の「アンダーワールド」を使って欲しかったところだが。
反対に,深夜枠を除いて唯一の一桁を記録してしまったのが,亀梨和也主演の日テレ「神の雫」だ。人気マンガのドラマ化だが,1回目を観た限りでは,視聴者をなめているとしか思えないレヴェルの脚本と演出だった。マンガのドラマ化ということでは,とうとう映画化もされるらしい「のだめカンタービレ」という成功作があるが,こちらは生身の役者が演じるリアリティとマンガ独自のデフォルメのバランスを見誤るとこうなる,という見本のような作品になってしまっている。そんな制作陣の安易な姿勢に対する視聴者の反応は,残酷だが的確と言えるだろう。
しかし同じ日テレが,同じくマンガ(こちらは昭和40年代の古典だが)を原作とし,ある意味で「蟹工船」人気の再現を企んだような企画「銭ゲバ」の方は,ひたすら陰惨な話でありながら,思い切った一つの「割り切り」によって確かな成果を挙げている。
その「割り切り」とは,松山ケンイチという正にピッチャーで4番タイプの役者を,ひたすら周囲が支えるという構図に徹するという判断だ。
財閥の令嬢役のミムラにやや華が足りない気もするし,「チーム・バチスタの栄光」でも共演していた宮川大輔と鈴木裕樹の刑事コンビも今のところは紋切り型でやや迫力不足だが,それらも全てこの「割り切り」の為せる技と考えれば,納得出来る。
かなりリスキーな判断だったとは思うが,息を詰めて見つめるしかないような緊迫感溢れる画面を観ると,こちらのギャンブルは吉と出たと言って良い。
(この項続く)
先週までの平均視聴率を見ると,最高は若手の注目株を揃えた月9の「ヴォイス」。生きている患者を救うという,一般的な医療ものが姿を見せなかったシーズンだが,法医学というこれまでありそうでなかった分野に着目し,大森一樹の往年の傑作「ヒポクラテスたち」を彷彿とさせる医学生群像劇とした仕立てが,功を奏しているようだ。
これまでのところは,一途に真実を希求する繊細な医学生加地役に,連ドラ初主演の瑛太がうまくはまっている。彼を含めて,随分とシンプルな性格付けをされている5人の役柄が,検死を重ねていくことで厚みを増していく方向へと進んでいけるかどうか,脚本の真価が問われるのはこれからだろう。
復帰作となった矢田亜希子は,若者チームの溌剌とした空気に押されて,これまでのところは埋没してしまっているようだが,このまま行けば解剖室の検体ではないが,役に血を通わせることが出来ないまま終わってしまうような気配も漂わせている。
一方で,先の映画における原田芳雄のポジションに持ってきた泉谷しげるが,大のハウスミュージック好きという設定は,一見強引に見えるが,職人気質の助教という役を考えるとありそうでもあり,案外こういう工夫こそがリアリティを出すための肝だと感じさせられる。欲を言えば劇中で本物の「アンダーワールド」を使って欲しかったところだが。
反対に,深夜枠を除いて唯一の一桁を記録してしまったのが,亀梨和也主演の日テレ「神の雫」だ。人気マンガのドラマ化だが,1回目を観た限りでは,視聴者をなめているとしか思えないレヴェルの脚本と演出だった。マンガのドラマ化ということでは,とうとう映画化もされるらしい「のだめカンタービレ」という成功作があるが,こちらは生身の役者が演じるリアリティとマンガ独自のデフォルメのバランスを見誤るとこうなる,という見本のような作品になってしまっている。そんな制作陣の安易な姿勢に対する視聴者の反応は,残酷だが的確と言えるだろう。
しかし同じ日テレが,同じくマンガ(こちらは昭和40年代の古典だが)を原作とし,ある意味で「蟹工船」人気の再現を企んだような企画「銭ゲバ」の方は,ひたすら陰惨な話でありながら,思い切った一つの「割り切り」によって確かな成果を挙げている。
その「割り切り」とは,松山ケンイチという正にピッチャーで4番タイプの役者を,ひたすら周囲が支えるという構図に徹するという判断だ。
財閥の令嬢役のミムラにやや華が足りない気もするし,「チーム・バチスタの栄光」でも共演していた宮川大輔と鈴木裕樹の刑事コンビも今のところは紋切り型でやや迫力不足だが,それらも全てこの「割り切り」の為せる技と考えれば,納得出来る。
かなりリスキーな判断だったとは思うが,息を詰めて見つめるしかないような緊迫感溢れる画面を観ると,こちらのギャンブルは吉と出たと言って良い。
(この項続く)