(承前)
山下達郎のステージが終わったのが17時45分。ここまで延びることもあるかと予想して,移動に便利な,ステージに向かって左側に位置していたのが功を奏し,早足で移動した結果「グリーン・オアシス」には開演7分前に到着。その時点ではまだ観客用のフィールドには殆ど人が集まっておらず,ステージから3mくらいの至近距離に場所を確保し,余裕を持ってムーンライダーズの登場を待つことが出来た。
ステージ上では既に係員が出てきて,サウンドチェックに余念がない様子。ふむふむと思って見ているうちに時間になったところで,おもむろにサポートメンバーのドラマーを一人加えたメンバー7名が登場する。まだ作業中の係員と一緒になってチューニングを兼ねた音出しを続行している最中,鈴木慶一がおもむろに「くれない埠頭」の一節を口ずさんだかと思うと,ツインドラムが重いビートを刻み始め,そこに鈴木博文のベースが乗っかった途端に,マッシブ・アタックも真っ青になるようなトリップ・ホップが展開された。この間およそ15分。一体何なんでしょ,この現役感,って感じだ。
メンバーが曲を持ち寄り,分業制で作り上げられた「Tokyo7」の曲を中心に演奏し,トム・ジョーンズの「ラブ・ミー・トゥナイト」のライダーズ・バージョンや,初期の代表作「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」を,観客の合いの手を巧みに使って盛り上げるという夏フェス・モードのテクニックまで披露して,おじさんたちは闇に消えた。まさに「転石に苔生さず」の見本。
最後の曲では,相対性理論のギタリストである永井聖一が飛び入りで参加していたが,真夜中に行われた相対性理論のステージには,お返しに鈴木慶一が登場したそう。30歳以上年齢の離れた,少し「危ない」ミュージシャン同士の交歓から生まれるものも楽しみだ。
これ以外のアーティストでは,TOKYO NO.1 SOUL SETとホフディランのファンの熱さに驚かされた。どちらもイントロの極々一部を聴いただけで歓声が上がっていたが,サビの合唱の力強さと最後まで跳ね続けるパワーには圧倒された。TOKYO~が結成20周年,ホフディランは同じく14周年ということをトークの中で語っていたが,どちらのファンも結成当初から彼らと一緒に歩んできて,当然の如くここ石狩まで来ました,という感じが伝わってきたのが,実に微笑ましかった。
屋台でカレーを食べながら聴いたオリジナル・ラブは,「接吻」とビールのCMソングで歓声が上がっていた。まるでイギリスの「TALC」というグループみたいだったCurly Giraffeが演奏したCM曲もそうだったが,やっぱり誰もが知っている「代表曲」を持っているミュージシャンは強いのか。
また不況が続く中,7月に開催されたフジロックや,東京と大阪で行われたサマソニのTシャツを着ていた観客も,結構見かけた。夏フェス命で,全国を渡り歩くという生き方も,ジャニーズ命で全国ツアーを追いかける数多のお姉様方と同様に,「あり」なんだろうなと敬服。
で,最後はyanokami。コンピューター(シーケンサー)で音楽を作っているレイ・ハラカミが,ライブでなにをやるのか,全く想像がつかなかったが,実際見てもやっぱり何をやっているのかは分からなかった。多分,リバーブやコーラスとかが一緒になった音響機器を調節していたのかもしれないが,「ココイチの5辛」を食べた時くらいの汗が出ていたそうなので,演奏に匹敵する「作業」だったことは間違いない。
それにしてもユーミンの「曇り空」と「瞳をとじて」には参った。深いリバーブのかかったレイ・ハラカミが作り出す電子音の隙間から,えらく若返った印象のある矢野顕子の声で,あの奇跡の名曲のフレーズが夜空に浮かび上がった瞬間の感動は,この日のハイライトだった。
本来の目的だった「相対性理論」には疲労困憊のため到達できなかったのだが,ここまでで充分満足した私は,歩道の舗装を突き破って生えた草を踏みしめながら,街路灯がないため真っ暗で方向感覚もなくなりそうな区画道路を,「5番駐車場」に向かって「おじさんたちの夏」を反芻しながら歩いたのだった。
(この項終わり)
山下達郎のステージが終わったのが17時45分。ここまで延びることもあるかと予想して,移動に便利な,ステージに向かって左側に位置していたのが功を奏し,早足で移動した結果「グリーン・オアシス」には開演7分前に到着。その時点ではまだ観客用のフィールドには殆ど人が集まっておらず,ステージから3mくらいの至近距離に場所を確保し,余裕を持ってムーンライダーズの登場を待つことが出来た。
ステージ上では既に係員が出てきて,サウンドチェックに余念がない様子。ふむふむと思って見ているうちに時間になったところで,おもむろにサポートメンバーのドラマーを一人加えたメンバー7名が登場する。まだ作業中の係員と一緒になってチューニングを兼ねた音出しを続行している最中,鈴木慶一がおもむろに「くれない埠頭」の一節を口ずさんだかと思うと,ツインドラムが重いビートを刻み始め,そこに鈴木博文のベースが乗っかった途端に,マッシブ・アタックも真っ青になるようなトリップ・ホップが展開された。この間およそ15分。一体何なんでしょ,この現役感,って感じだ。
メンバーが曲を持ち寄り,分業制で作り上げられた「Tokyo7」の曲を中心に演奏し,トム・ジョーンズの「ラブ・ミー・トゥナイト」のライダーズ・バージョンや,初期の代表作「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」を,観客の合いの手を巧みに使って盛り上げるという夏フェス・モードのテクニックまで披露して,おじさんたちは闇に消えた。まさに「転石に苔生さず」の見本。
最後の曲では,相対性理論のギタリストである永井聖一が飛び入りで参加していたが,真夜中に行われた相対性理論のステージには,お返しに鈴木慶一が登場したそう。30歳以上年齢の離れた,少し「危ない」ミュージシャン同士の交歓から生まれるものも楽しみだ。
これ以外のアーティストでは,TOKYO NO.1 SOUL SETとホフディランのファンの熱さに驚かされた。どちらもイントロの極々一部を聴いただけで歓声が上がっていたが,サビの合唱の力強さと最後まで跳ね続けるパワーには圧倒された。TOKYO~が結成20周年,ホフディランは同じく14周年ということをトークの中で語っていたが,どちらのファンも結成当初から彼らと一緒に歩んできて,当然の如くここ石狩まで来ました,という感じが伝わってきたのが,実に微笑ましかった。
屋台でカレーを食べながら聴いたオリジナル・ラブは,「接吻」とビールのCMソングで歓声が上がっていた。まるでイギリスの「TALC」というグループみたいだったCurly Giraffeが演奏したCM曲もそうだったが,やっぱり誰もが知っている「代表曲」を持っているミュージシャンは強いのか。
また不況が続く中,7月に開催されたフジロックや,東京と大阪で行われたサマソニのTシャツを着ていた観客も,結構見かけた。夏フェス命で,全国を渡り歩くという生き方も,ジャニーズ命で全国ツアーを追いかける数多のお姉様方と同様に,「あり」なんだろうなと敬服。
で,最後はyanokami。コンピューター(シーケンサー)で音楽を作っているレイ・ハラカミが,ライブでなにをやるのか,全く想像がつかなかったが,実際見てもやっぱり何をやっているのかは分からなかった。多分,リバーブやコーラスとかが一緒になった音響機器を調節していたのかもしれないが,「ココイチの5辛」を食べた時くらいの汗が出ていたそうなので,演奏に匹敵する「作業」だったことは間違いない。
それにしてもユーミンの「曇り空」と「瞳をとじて」には参った。深いリバーブのかかったレイ・ハラカミが作り出す電子音の隙間から,えらく若返った印象のある矢野顕子の声で,あの奇跡の名曲のフレーズが夜空に浮かび上がった瞬間の感動は,この日のハイライトだった。
本来の目的だった「相対性理論」には疲労困憊のため到達できなかったのだが,ここまでで充分満足した私は,歩道の舗装を突き破って生えた草を踏みしめながら,街路灯がないため真っ暗で方向感覚もなくなりそうな区画道路を,「5番駐車場」に向かって「おじさんたちの夏」を反芻しながら歩いたのだった。
(この項終わり)