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2009年TVドラマ夏シーズンレビューNO.2:「コールセンターの恋人」

職業シリーズを書き続ける人気脚本家中園ミホの新作が始まった。
私はかつて,中園のヒット作「ハケンの品格」で篠原涼子が演じた,数多の職務に対して最上のスキルを備えながらも,自由を求めて派遣職員を続ける主人公,という設定に拒絶反応を示した。それは,まだ「派遣切り」といった事態は起こっていなかった当時,そんな主人公のキャラクターが,派遣社員が増え続けていた現実の理由と乖離しているのではないか,スキルの獲得や向上は重要であるにしても,派遣社員という身分が自由の象徴という描き方は如何なものか,という印象を持ったからだった。しかしそんな私の違和感は少数派だったようで,ドラマは視聴者から圧倒的な支持を受けた。小泉元首相によって強引に導かれた「構造改革」の時代に,あのドラマが持っていた「ハケンこそ時代の必然」という空気が見事にはまったという事実に,私は少なからず苦いものを感じたものだった。

しかし中園が続いて発表した「OLにっぽん」は,中国へのアウトソーシングというこれからの日本社会が避けて通れないであろう課題に真摯に取り組み,「ハケン~」におけるネガティブな印象を払拭してくれるような佳作となった。
対象となる職種や立場,その職業の社会的ポジションに対する視点に変化は見られるものの,一貫して(主に女性にとっての)働くことの意味を問い続ける中園の仕事は,やはり注目に値する,と思っていたところに届いた新作は,通販会社のコールセンター,しかも専ら苦情対応を専門とする「お客様相談窓口係」にスポットライトを当てている。

第2回目まで観たところ,表向きは小泉孝太郎が主演とはなっているものの,実質的にはNTV「斎藤さん(2008)」において観月ありさと本人が演じた役柄を,小泉と交換して演じているようなミムラが,物語の中心に座っているようだ。その点では,本作もこれまでの中園ドラマの延長線上にあると見て良いだろう。

ボサボサパーマで年中夜勤,普段は無愛想に振る舞いながら,何故か客のクレームには熱く応えるというミムラの役柄設定は,どこか「ハケン~」の篠原に通じるものを感じさせながら,独特の職業倫理と秘められた過去が,ドラマの推進力になっていくことを予感させる。
「寒い南極でもアイスを売ってみせる」というカリスマナビゲーター「南極アイス」役を,このところどーんと貫禄が付いてきた名取裕子が,怪しくも楽しげに演じているのも見所だ。

だが,このドラマが「仕事」に関して真の訴求力を保ち続けられかどうかは,かつてビル・フォーサイスがマーク・ノップラーのギターに乗せて「ローカル・ヒーロー」で描いた「都会の視点という制約から逃れて人生(労働)を見つめ直す」というチャレンジを,千葉を舞台にどう描くかにかかっているような気がする。
携帯電話の圏外(あの程度の村で,実在するのかどうかは分からないが)に住み,地に足の着いた社会批判を繰り広げながら,一方的な田舎礼賛に終わらない生き方を提示できるかどうか,中園ミホの新たな挑戦に期待したい。
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