13日に起きた、富士山麓でのツアーバスの横転事故について。
まずは、運転手によると「ブレーキが利かない」状態に陥ったということで、「フェード現象」が疑われている※。
※追記:2023年2月16日、静岡県警はフェード現象によるものと断定した。
運転手はバスの運転自体は経験者だが、このルートは初めてだったというから、”富士山の特殊性”が頭になかった可能性がある。
富士山の特殊性とは、可能な限り高所まで延びた道路の斜面(坂道)が異様に長いこと。
なので普通の坂道いや山道のつもりでブレーキ操作をしていると、フェード現象を招きやすいということ。
一般車でも、 AT車でギア操作が習慣づいていない人は、つづら折りの下り道で、カーブの間の直線部分も含めてブレーキをずっと踏みっ放しとなり、それが富士山の下りだと、ブレーキ踏みっ放し時間が限界を越すおそれがある。
もっともバスの運転手の場合は、最低限ギア操作はできているはずだが、重量の重いバスは、カーブ間の直線部分で大きく加速してしまい、カーブの手前で急ブレーキが必要になると、乗客の乗り心地に悪影響を与える。
そういう理由で直線部分もブレーキを利かさざるをえないだろう(もちろんギアを落としてエンジンブレーキを最大限に利かすのは前提)。
実際、かなりブレーキを利かしていたようで、後続車の人は、異常に遅い速度と感じていたという。
ただし、だんだん速度が上がったようで、直線部分から右にゆるいカーブの所で、車体が左の山側に乗り上げ、右下に横転した。
現場の直前に薄いタイヤ痕が残っているので、サイドブレーキは利かしていたようだ。
現場のカーブは緩いから、ハンドル操作の誤りというより、バスにかかる遠心力に負けたのだろう。
遠心力は、質量と速度の二乗の積に比例するから、この力を下げるには(角)速度を落とすのが最も効果的(私は下りの直線はエンジンブレーキを充分に利かせ、カーブの手前だけブレーキをかけて速度をぐっと落とし、カーブはブレーキペダルから足を外して回り、カーブの後半でアクセルを踏んで加速する。すなわちフットブレーキは最低限の使用を心がけている)。
ただし、今回は乗客数の多さから、予想外に質量が高かったのも事実。
すなわち、直線部分での重力加速度の制御とカーブ部分での遠心力の制御の連続が、富士山の坂道では異様に長いのだ。
その分(カーブの多さとブレーキの酷使によって)、制御が失敗する可能性が増える(あるいは、ブレーキが利かないため、あえて山側に突っ込んで停止しようとしたのかもしれない)。
では、そうなった場合、乗客はどうすればいいか。
今回死亡した人は、倒れた側の窓側の席で、地面側の右腕を損傷し、そこからの出血多量が死因だったという。
バスが横転するとは、強制的に地面に90度倒されることだから、その強制力に抵抗するには、まずはシートベルトで身体が座席から離脱しない措置が必要。
次に、特に倒れた窓側の席の人は地面に衝突する衝撃をくらうので(腰だけのシートベルトは上半身を背面に固定してくれない)、体のそちら側を咄嗟に保護する必要がある(頭部も含めて)。
それには、手荷物をクッション代わりにするしかない。
手荷物がない場合は、両手で前の席にしがみつくのも、やらないよりはましだと思う。