ロシアのウクライナ侵攻で世界中が色めき立っているさ中、私は予定通り、2月ながら”年度末の慰労”第一弾として、箱根の温泉宿に泊る。
慰労なので、この時ばかりは仕事はもちろん世間の喧騒を忘れて、湯に浸かって心身をリラックスし、酒を飲みながら宿の料理を堪能することだけを目的とする。
かような趣旨の旅なので、アプローチから特急ロマンスカーの席を取り、ビール片手につまみのシウマイ(崎陽軒)を食べる。
ロマンスカーは窓が広く展望向きだが、いかんせん小田急線は民家の裏側を通ってばかりで、展望に値するのは秦野からの表丹沢と松田からの富士がごく短い間見れるだけ(向かって右側の席から)。
ロマンスカー終点の箱根湯本で改札を出て、土産物屋で木工芸を物色。
人形を開けると中に次の人形というパターンが繰り返す入れ子構造になっている箱根細工の七福神人形を探している。
以前これを2つ持っていたのだが、幼い甥のおもちゃになって以来、紛失してしまった。
この入れ子構造の箱根細工は、世界的に有名なロシアのマトリョーシカのヒントになったもの。
通りの土産店には一向に見当たらず、高級そうな箱根細工の専門店「箱根八里」に入ったら、この人形の作家についての展示がしてあり、この作家がすでに亡くなって、以後は作る人がいない、ということを知った。
すなわち、マトリョーシカの起源となる由緒ある箱根の木工芸品の伝統が途絶えてしまったのだ。
残念至極!
というわけで、一応ロシアと無関係ではなかった。
気を取り直して、箱根登山鉄道に乗って、2つ目の大平台(おおひらだい)で降りる。
この付近は早川の深い谷で、山奥の風情がある。
大平台の集落を歩くとあちこちの側溝から湯気が出ている。
そう、ここは大平台温泉の温泉街。
今宵の宿「対岳荘」もそこにある。
この宿は勤務先関係の共済組合の経営で、今回は会員料金どころか、永続勤務記念でもらったサービス券10000円分使える。
宿の建物は古いが、ロビーからの谷奥の眺めがいい(写真)。
箱根は標高こそ低いが複雑なカルデラ地形のため風景が多彩で、標高の低いこのあたりの方が山深い景色になっている。
この谷の先には仙石原の平原と芦ノ湖があり、さらに大涌谷の噴気帯に富士の展望が広がる。
そして至る所に温泉が湧いていて、その密度は日本一。
ただ温泉ソムリエとしては密度の割に泉質に多彩さがないのが残念(湯本なんかはアルカリ単純泉だし)。
ちなみにここ大平台温泉は、ナトリウム塩化物・硫酸塩泉(すなわちアルカリ単純泉と違ってれっきとした療養泉で高血圧やうつ症状にも効くらしい)。
泉温が64℃と熱すぎるので、加水せざるをえないが、湯量が豊富でいちおう源泉掛け流し。
谷の上にあるので浴室からの眺めもいい。
箱根は麓に小田原漁港があるので、海の幸が出ても違和感なく、山海の珍味を堪能できる。
特に朝食に出るアジの開きは、まさに地元産。
翌日は、風祭で途中下車して鈴廣かまぼこの里で、たまねぎ揚げと地酒を土産に買い、小田原から小田急の快速急行でのんびり帰った。