『 90年代ソング TikTokでよみがえる「懐メロ」』、
題された見出しを見たりした。
私は東京の調布市に住む年金生活の満78歳の身であるが、
過ぎし1970年〈昭和45年〉の春、
この当時は大手の音響・映像のメーカーに何とか中途入社でき、
そして音楽事業本部のある部署に配属されたのは、満25歳であった。
まもなく音楽事業本部のあるひとつの大きなレーベルが、
外資の要請でレコード専門会社として独立し、
私はこの新設されたレコード会社に転籍させられたりした。
こうした中で、制作に直接かかわらないコンピュータを活用した情報畑を
20年近く配属されたり、経理畑、営業畑などで奮戦した。
この間、幾たびのリストラの中、何とか障害レースを乗り越えたりした。
こうした中で、1998年(平成10年)に中小業の多い音楽業界全体の売上げピークとなり、
この少し前の年から各社がリストラ烈風となり、やがて私も出向となり、
各レコード会社が委託している音楽商品のCD、DVDなどを扱う物流会社に勤めたりした。
そして遠方地に5年半ばかり通勤し、何とか2004年(平成16年)の秋に出向先で、
定年を迎えることができたので、敗残者のような七転八起のサラリーマン航路を過ごした。
このように悪戦苦闘の多い中で、敗残者のような状況であったした中、
この当時は大企業も盛んにリストラが実施されていた。
こうした中で、私が定年後に新たな職場を探しても、これといった突出した技術もなく、
何よりも遠い勤務先の出向先で、私なりに奮闘して体力も気力も使い果たしてしまい、
定年後はやむなく年金生活を始めたひとりである。

そして年金生活は、サラリーマン航路は、何かと悪戦苦闘が多かった為か、
つたない半生を歩んだ私でも、予測した以上に安楽な生活を享受している。
このような私であるが、やはり音楽の《・・90年代ソング TikTokでよみがえる「懐メロ」・・》、
CDが飛ぶように売れ、音楽業界に活気があった1990年代の平成ソングが、
今の若者に愛されている。
SNS(ネット交流サービス)には、当時の曲に振り付けしたダンス動画が投稿され、
音楽番組では特集が組まれる。
若者にとっては生まれる前に流行した音楽で、つまりは「懐メロ」。
どこに踊りたくなるほどの魅力があるのか。
なぜ今…「ロマ神」再生回数16億回超え
昨年2月、歌手の広瀬香美さんは、動画投稿アプリTikiTokを開き、目を疑った。
93年にリリースした代表曲「ロマンスの神様」に合わせて踊る動画が、続々と表示される。
若者を中心に、みんな同じ振り付けで楽しそうに踊っている。
「30年も前の曲の何が、若い子にささるの?」と不思議だった。
SNSに積極的な広瀬さん、すぐに自身も踊って動画を投稿した。
すると「本家登場」が話題を呼び、
街では、若者に「ロマ神(しん)の人だ」
と声を掛けられるようになった。
関連動画の再生数は16億回を超え、この曲が「TikTok2022上半期トレンド」で大賞に輝いた。
「TikTokは若者だけでなく、幅広い年代と楽しみを共有できる投稿が、
求められるようになった。
90年代ソングは、その傾向にピタリと当てはまり、
当時を知る世代と一緒になって盛り上がっている」
生活者の動向を研究する博報堂生活総合研究所の伊藤耕太さんは、
ビッグデータを用いてそう分析する。
90年代に青春時代を過ごしたのは、団塊ジュニア世代などの50歳前後。
これまで学生層が多数を占めていたTikTok利用者は、
近年40~50代にも広がっているという。
98年のCD売り上げ6000億円
記者も、そのど真ん中世代。
パフィーの「愛のしるし」(98年)やブラックビスケッツの「タイミング」(98年)の動画を見ると、
学生時代の記憶がよみがえる。
CDを買って、曲を覚えては、飲み会後のカラオケボックスで歌い、徹夜で盛り上がった。
この90年代、音楽業界では、ミリオンセラーの大ヒットが連発した。
98年には、CD売り上げが6000億円を超え、ピークに達した。
伊藤さんは「レコードとカセットテープからCDに置き換わる中で、
右肩上がりの音楽業界は、良質な楽曲を生んでいった」と語る。
「バズる」カギは「15秒」
広瀬さんに、当時を振り返ってもらうと、
「忘年会などカラオケで、いかに歌って、遊んでもらうかを考え、曲作りをしていましたね」。
ドラマやCMとのタイアップが盛んで、商業的にも音楽が求められた。
「作曲の時は、まずサビの15秒を作り、
OKが出たら、前後を膨らませていくことが多かった」と広瀬さん。
この「15秒」に、30年の時を越えて「バズる」カギがある。
TikTokの投稿は、15秒が主流で、
この短い時間で、繰り返し見たいと思わせるよう作られている。
そこが共通点という伊藤さんは
「このノウハウが発達したのは、手軽に曲送りできるCDが主流になった90年代。
曲の頭にサビをもってくることで、効果的に聴く側の心をつかんだ曲も多い」と指摘する。
「愛のしるし」もその一曲で「つかみの法則」の原形がみられる。
伊藤さんはさらに、90年代ソングが二つの世代をつないでいる背景に、
昨今の親子関係があるとみる。
「冬ソングの女王と言われた広瀬さんの曲を聴いて、
スキーに出かけたような親世代の家庭には、
CDがそのまま残っていることもありますよね」
90年代ソングは、若者にとって、親の思い出が詰まった曲。
家族でドライブに出かけた車中で流れていたり、
親子でカラオケに行って覚えたりすることもある。
この世代の親と子の関係は「友達親子」と呼ばれ、
親子の仲がいい分、共有物が多い。
音楽においても、子どもが親の影響を受けやすいと指摘する。
渋くて「エモい」懐メロ
動画「ロマンスの神様」の振り付けを考案したのは、
人気ダンサーで振付師のタイガさんだ。
最初に振り付けを手掛けた90年代ソングは、オリジナルラブの「接吻(せっぷん)」(93年)。
思いもよらず再生回数が飛躍的に伸び、
「また懐メロをやってみようと思いました」。
そう、タイガさんにとって90年代ソングは、紛れもなく「懐メロ」なのだ。
「この曲は渋くて緩くて、背伸びした感じが『エモい』という感覚だった」
2000年生まれのタイガさんは、
「自分が生まれる前の曲が好き」で、聴くと心揺さぶられた。
振り付け動画が話題を呼んだことについて
「90年代の曲は耳なじみがよく、踊りを付けたことで、
新鮮さを感じてくれたのかもしれません」と自己分析する。
この「新鮮さ」がポイントだと話すのは、
日本の文化やメディアに詳しい茨城大教授の高野光平さん。
懐かしさを表現する言葉に「ノスタルジー」があるが、
最近は似た響きで「レトロ」という単語をよく耳にする。
高野さんは、二つの言葉の違いを指摘し、
「レトロ」は、自分が知らない時代に対して、新鮮さが伴うと定義する。
「音楽に限らずファッションなど、文化的に90年代が評価されているのは、
懐かしさだけでなく、新しさも感じるから」と解説する。
昭和は別世界、平成は…

ウィンドウズ95が発売された1995年11月23日、東京・秋葉原の電気街は熱気に包まれた
レトロブームといえば、昭和もある。
昭和歌謡だって、TikTok動画になじむのでは?
高野さんは、昭和歌謡にも人気動画はあるとした上で、
「平成レトロの90年代は、デジタル文化の初期にあたる。
PHSが普及し、95年にウィンドウズ95が発売された。
若者にとって、今につながる時代の始まりという印象ではないか」とみる。
一方、昭和は、自分と切り離された時代と感じていると察する。
「バブリーダンスに象徴されるように、若者にとっては昭和イコール好景気の時代。
華やかなバブル期の生活は、まるで別世界のおとぎ話。
今の日本で経済再生は、程遠いという実感がある中で、
より平成に親近感がわくのかもしれません」
コギャル、ギャル男…若者が物事を動かした
90年代と2020年代、経済状況には共通点がある。
90年代は、バブルが崩壊し、平成不況に突入した。
高野さんは「確かに景気は悪いけれど、人間の元気だけはあった。
お金でなく、情熱で物事を動かす空気があった」と評する。
まさに、東京・渋谷をコギャルが、厚底ブーツで闊歩(かっぽ)した時代だ。
若者文化に詳しい芝浦工業大教授の原田曜平さんも
「コギャルやギャル男に代表されるように、若者たちが流行や文化をつくっていた時代。
消費意欲も強く、企業も若者に向けて商品を開発していた」と語る。
対照的に、現代の若い世代は、消費に消極的で、
「コスパ」(費用対効果)や「タイパ」(時間効率)など省力化を重視するとされる。
そして、原田さんは、現代の90年代志向をこう分析する。
「個性を存分に発揮していた当時の若者がうらやましく、
エネルギッシュな時代に憧れを抱いているのではないでしょうか」
90年代ソングの魅力を今に伝えるタイガさんは
「今はSNSがあって便利ですけど、スマホに縛られている面もある。
90年代には自由というイメージがあり、その空気をダンスに取り入れたい」と語っていた。
SNSという現代が生み出した空間で、
若者たちは90年代のリズムを通して、エネルギーや自由を享受しているのかもしれない。
【榊真理子】・・・ 》

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