蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

豆を刈る…木漏れ日の珈琲タイム

2018年05月01日 | 季節の便り・虫篇

 みっしり蕾を着けた晩白柚の木陰の椅子に座り、初夏の風に吹かれながら淹れてきた珈琲を啜った。小さなジャノメチョウが数頭、足元の草むらで戯れている。茶褐色の翅に、威嚇するような蛇の目が捺されている。晩白柚の梢を掠めるように、クロアゲハが飛んだ。目を閉じると、瞼の裏でオレンジ色の木漏れ日が躍る。このままシートを敷いて微睡んだら、どれほど気持ちがいいだろう。
 日吉神社の小さな丘の陰に広がる300坪の畑は、夏野菜の植え付けも終わり、綺麗に整備されていた。

 「スナップエンドウを摘みにいらっしゃいませんか?」とY農園の奥様から誘いのメールが来た。楽しみに待っていた「豆刈り」である。
 365連休のシルバー達が、ひっそりとやり過ごそうとしているゴールデンウイーク、最初で最後の遠出(?)である。愛飲の珈琲「モカ・バニーマタル」を挽いて淹れ、サーモスに注いでいそいそと車で出かけた。走ること5分!二つの丘に囲まれた日溜まりで、Yさんが待っていた。ご主人は公民館で仕事中という。
 早速畑に取りつき、ぷっくり膨らんだスナップエンドウを摘ませていただいた。幾つも並んだ畝には、グリンピース、玉葱、赤玉葱、トマト、茄子、キューリ、南瓜、瓜、ラッキョウなど、お裾分けを約束されている野菜の数々が育っていた。
 つい欲張りそうな気持ちを宥めて、ほどほどにスナップエンドウを摘んだ。

 ふと生じた疑問……スナップエンドウ?スナックエンドウ?どちらも市民権を得て普通に使われているが、さて?
 早速ネットのお世話になる――原産地アメリカではsnap garden peas(パチンと音を立てて折れる、庭のえんどう豆)。つまり、スナップエンドウが本来の名前である。「輸入時にスナックと言い違えた」とか、「大手種苗メーカーが、スナック菓子のように手軽に食べられることから、種子の商品名をスナックエンドウと名付けた」とか、諸説あるらしい――どちらの名前でも納得出来るし、ビールのつまみとして、枝豆に拮抗する夏のご馳走には違いない。

 摘み終って、木陰でのコーヒー・ブレイクとなった。カリフラワーのようにモコモコした楠若葉を包み込むように、新緑が眩しく日差しに照り映える。4月の晦日、爽やかな風に吹かれながら、Yさんとカミさんと3人の和やかな会話が弾んだ。

 満たされ癒されて帰った我が家の庭の八朔の下をくぐると、蜂の羽音が聞こえてきた。少し重めの音はマルハナバチ、軽い羽音のミツバチや、ホバリングの名手・ホソヒラタアブも頑張って授粉してくれているようだ。
 日向の庭では、3匹のハンミョウが走り回っていた。我が家の居候が、家主への断りもなしに、いつの間にか仲間を増やしていた。
 マクロ機能がついた優れものの望遠レンズをカメラに嚙ませて、走り回るハンミョウを追った。俊敏な脚についていくのは至難の業であり、40枚ほどシャッターを切った中で、納得のポーズを見せてくれたのはたった1枚だけだった。精悍な顎を持ち上げて庭を睥睨し、小さな虫を探している。道を教える彼らも、すっかり舗装された道路での捕食は難しいのか、土の庭を駆けることが多くなった。

 ゴールデンウイークも後半にはいる。また民族大移動の渋滞を経て、季節は一気に初夏の輝きを増していく。
               (2018年5月:写真:精悍なハンミョウの勇姿)