蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

初夏……豆を刈る

2020年05月03日 | つれづれに



 5月の声を聴くのを待っていたように、殴り込むような初夏の訪れだった。1週間前と10度以上の温度差は、訪れというより、むしろ急襲、昨日までヒートテックの下着と暖房カーペットを使っていたのに、今日は半袖の下着に替えて汗を流している有様である。追っかける身体が、対応出来ずにに悲鳴を上げている。
 28.1度!……県下一番の、そして今年一番の最高気温となった。

 「スナックエンドウを刈りにいらっしゃいませんか?」というお誘いのメールが来た。
 解放された広い畑での遊びである。濃厚接触はないからマスクも必要ないが、礼儀としてポケットにマスクを忍ばせる。そのマスクも、この畑の主の奥様が贈ってくれた手作りである。

 いつも車を置く観世音寺の駐車場は、この連休の間閉鎖されていた。脇道に回り、畑の前の草っ原に車を止めた。3方向は小山に囲まれ、そこは新緑の杜。クス若葉がモコモコとブロッコリーのような淡い黄緑色を盛り上げていた。突然の初夏の日差しは強烈で、額に痛いほどだった。しかし、吹く風は優しく、黒いマルチで覆われて植え付けられたばかりのジャガイモの苗には、早くも薄紫の花が咲いていた。

     馬鈴薯の薄紫の花に降る雨を思へり都の雨に  啄木
 
 そんな歌を懐かしみながら、畑を歩きまわった。

 もう収獲期真っ盛りを迎えているスナックエンドウ、もうしばらく見守りたいグリーンピース、そしてトマトや茄子、ジャガイモ、里芋、胡瓜などは、まだ植えたばかりの苗であり、楽しみは夏から秋に訪れる。日照りが、もう2週間近く続いているから、朝晩の水遣りも大変だろう。
趣味と言うにはあまりにも深い造詣であり、我が家の食卓を助けていただくようになって、もう8年にもなるだろうか?こうしてご夫妻と共に、豆狩りや、玉葱、胡瓜、トマトなどを捥がせていただいたり、ジャガイモ、サツマイモを掘ったりさせていただいている。

 今日は、カミさんとスナックエンドウの収獲をさせていただいた。伸びた蔓の間の葉蔭に、もう採り放題というほど、程よくぷっくりと膨らんだスナックエンドウが下がっていた。
 「1回分いただきます」と言いながら、気づいたらカミさんと私の袋はいっぱいになっていた。友達に分けても、1週間はビールのつまみに事欠かない量だった。
 鮮やかに色づいたイチゴの初物を3つ、若いアスパラガスを3本……草取りの手伝いもろくにやってないのに、収穫の欲だけは浅ましいと自嘲しながら、それでも楽しくて仕方がない。

 房のようにたくさんの蕾を着けた晩白柚の陰に置いた椅子に座って、淹れてきた珈琲を喫みながら、お互いに2メートルの距離を取っておしゃべりが弾んだ。
 コロナ疲れを忘れる、癒しの2時間だった。

 夕方、思いがけなくご夫妻が我が家に立ち寄ってくれた。頼んでいたパセリの苗10本を、「ホームセンターで見付けたから」と届けてくれたのだ。
 このパセリ、実は人様が食べるための物ではない。やがて舞い遊びに来てくれるキアゲハの餌である。早速2つのプランターに植え込み、さらにもう一つのプランターには、庭中から集めたスミレを植えた。これは、ツマグロヒョウモンの餌である。
 なまじ和風庭園に設えているため、我が家の庭には畑を作る余地がない。好きな蝶のための餌場を作る……変な昆虫老人は、今年も健在である。

 翌日、気温は28.8度まで上がった。もう遅霜の心配もないだろうと、広縁に置いていた月下美人3鉢を、梅と椿の間の半日陰に出した。
 こうして、慌ただしく恒例の我が家の季節行事が進んでいく。
             (2020年5月:写真:初物のイチゴ)

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