蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

届かぬ祈り

2022年08月10日 | つれづれに

 8月7日、77年目の「長崎原爆の日」。式典で被爆者代表として、切々と訴える宮田 隆君の姿があった。同期入社の友人である。しかし、岸田首相をしっかりと見据えて訴えた彼の言葉は、予想通り首相には届かなかった。

 5歳の時に爆心地から2.4キロの自宅で被爆、8畳間から玄関まで吹き飛ばされたが幸い大きな怪我はなかった。しかし、彼の父は5年後に白血病で亡くなり、自身も10年前に発症した癌が悪化し、苦悩の日々を過ごしているという。
 ロシアによるウクライナへの無差別攻撃と核の威嚇に、「自ら訴えたい」と、6月の核兵器禁止条約締約国会議のウイーンに飛んだ。「HIBAKUSHA」と英語で書いたゼッケンを着け、英語で各国の若者たちに訴え続けたという。
 「Please, visit Nagasaki. To see is to believe, No more Nagasaki, Stop Ukraine.」

 ゆるぎない信念を込めた格調高い「平和への誓い」は、素晴らしかった。だから一層、その後の首相の挨拶の白々しさが際立った。その首相挨拶を、宮田君は「響かなかった」と切り捨てた。

 彼の誓いに耳を傾けよう。
 「(略)――本日ご列席の国会議員・県議会・市会議員のリーダーの皆さま、被爆者とじかに対面し、被爆者の実相を聞いて、世界に広く届けてください」

 「――第2次世界大戦から77年後の今、ロシアの核兵器の使用を示唆する警告によって、世界は今や核戦争の危機に直面しています。日本の一部の国会議員の核共有論は、私たち被爆者が願う核の傘からの価値観の転換とは真逆です。核共有論は、「力には力」の旧来の核依存志向であり、断じて反対です。今や核は抑止にあらず。今こそ日本は、核の傘からの価値観を転換し、平和国家の構築に全力を挙げるべきです」
 「――そして、日本政府は核兵器禁止条約に一刻も早く署名・批准してください。昨年発効した核兵器禁止条約は、私たち被爆者と全人類の宝です。この条約を守り、行動することは、唯一の被爆国である日本政府と私たち国民一人ひとりの責務であると信じます」

 「――私たち被爆者は、この77年間、怒り、悲しみも苦しみも乗り越えて、生きてまいりました。これからも私たちは、世界の市民社会と世界の被害者と連携して、核兵器のない明るい希望ある未来を信じて、さらにたくましく生きてまいります。核兵器禁止条約をバネに、新しい時代の始まりであることを自覚し、私たちは強い意志で、子供、孫の時代に一日3食の飯が食え、『核兵器のない世界実現への願い』を引き継いでいくことをここに誓います。」

 「唯一の被爆国」として、これまで日本政府は、いったい何を成し遂げてきたというのだろう??核兵器禁止条約に批准しない日本に、どこの国が耳を傾けるというのだろう!!アメリカの核の傘の下で、卑屈に尻尾を振る為政者の姿が本当に情けないと思う。
 取材した記者が、こう締めくくった。「(被爆者代表の彼の)言葉は、リーダーだけに向けられたものではない。核の脅威が顕在化した今こそ、一人でも多くの被爆者の声に耳を傾けてほしい。そして、惨禍を経験した人に思いを寄せることが、『力には力』にあらがい、核なき世界をたぐると信じている」

 戦争の惨禍は、常に主導者や権力者には及ばない。いつも犠牲を強いられるのは国民であり、権力者が上の目目線でいう「弱者」である。被爆地広島の出身者でありながら、この日の首相挨拶に核兵器禁止条約に触れる言葉はなかった。宮田君の真摯な祈りは、首相には届かなかった。
 虚しい夏の日差し、長崎の空が何かが哀しかった。今日も大宰府は37.4度!添えるに相応しい写真も、見当たらない。代わりに、平和な太宰府の早朝の夏雲を添えよう。
                   (2022年8月:写真:大宰府の朝雲)

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1 コメント

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ごめんなさい (wacky)
2022-08-11 20:20:55
ご隠居様、ご隠居様のブログ拝見して、私は、申し訳ない気持ちで一杯になりました。
戦後生まれ、戦争が終わって10数年後に生まれた私にとって、戦争って遠いもの。でも、母はそんな私に伝えたかったのか、「ひめゆり部隊・・・」とか、「アンネの日記」とかの本を与えてくれました。
一緒に住んでいた祖母も戦争体験それとなく話してくれていた記憶があります。

でも、今は、耳の不調から少しテレビから離れていたい気持ちもあってニュースはネットニュースからが殆どです。だから、世の中の事から逃げてしまっていると思います。

そして、原爆の日であることも後で知るという感じで、慰霊祭は全然見ていませんでした。

自分で何を言いたいのか、わからなくなってきました。
今、64歳の私。
世の中のことに、もっと、目を向けるべきなのだと反省しています。

ただ、ご隠居様のブログで知った宮田様のお話が私の心に強く響いてきたことは間違いありません。

こんなこと、コメントして申し訳ございません。
独りよがりのコメントになってしまいました。

ただ、戦争は二度と繰り返してはならない、絶対、それだけは起きてはならないと強く思っています。
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