風薫る五月。
あなたが帰ってくる。何年ぶりだろうか。10年前くらい、私たちは一緒に住んでいた。広い庭のあるマンションだった。あなたは花が大好きで、庭木の手入れをよくしてくれた。私が休みの日には、海岸へ出かけて、子供のように貝や石を拾っていた。でも、あなたはお友達とも離れてさびしかったのだろう。遥々お友達が遊びに来てくれた日はうれしそうにはしゃいでした。
ある日、ささやかな揉め事から喧嘩になり、私が仕事の間に出ていってしまった。叔母や友達のところへ身を寄せ、そしてすべて処分した自宅へ帰ってしまった。お友達に電話して、家具やらをそろえ逞しく暮らしだした。そのとき、あなたは80歳を過ぎていた。帰るように頼みに行っても「ここで一人で暮らす」と聞かなかった。認知症であることがわかってから、私はなんとか現状維持でいて欲しいと できる限りのことはした。
そのあなたが、明日帰ってくる。私はあなたの居場所を作った。すきなお菓子や果物やそして大好きなお花をそろえた。あなたは「あっぱれ」だった。戒名も洗礼名も持たず、ただあなたとして帰ってくる。悲しみは無く、あなたを迎える喜びだけがある。あなたは世界一のおかあさんだ!