太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

「家族熱」

2013-06-01 07:12:29 | 本とか
久しぶりに向田邦子原作を読んだ。

原作、というのは、彼女はもともと脚本家であるから、

物書きになって以降に書いた小説以外に、たくさんの脚本が残っている。

それらの脚本を、小説に書き直した一つが「家族熱」である。


向田邦子さんはもういないので、諸田玲子さんが書き直している。



向田邦子の書いたものを読むのは、私にエネルギーが足りている時だ。

失恋どん底気分のときに、中島みゆきが聴けないように(私だけだろうか)。


向田邦子は、人が見たくないと思っている場所を、ぺらりとめくって見せてくれる。

大昔『北の国から』を書いた倉本聡も、それが得意で、

だから私はあのドラマを見ていることができなかった。



家族だから許せないこと、家族だから許せること、

血のつながりが、時に人を残酷にしてしまうこと。

きれいなことだけでは生きてゆけないこと。

確かにあることがわかっていて、自分でももてあましているものを、

あえて人に言われたくはないのだ。

しかしそういうことこそが、人の人生をドラマにしてゆく。





私は一時、向田邦子がとても気になって、

短い彼女の半生についての本を読みまくった時期があった。

知れば知るほど、向田邦子という人がわからなくなった。

いっけん、明るくさばさばとして男勝り、しかし彼女がしっかりと閉じて

けして人には見せない心の蓋のその奥は、深い深い底なしの孤独が広がっているように思う。


『ブランコは、思い切りが悪いタチらしい。

人がいなくなっても、ゆらりゆらりと未練たっぷりに揺れている』



ブランコを見て、そんなふうに感じることなどなかった。

向田邦子は、人の孤独や闇が見えてしまう人だっただろうか。

そうだとしても、そのことで人を傷つけないだけの聡明さがあったと私は思う。






「家族熱」は、元の脚本をできるだけ生かして書き直そうとしたからだろう。

場面の展開がドラマさながらで、

向田邦子自身が書いたなら、また違った作品になったと思う。






「家族熱」  向田邦子原作   文春文庫



にほんブログ村 海外生活ブログ 海外移住へにほんブログ村