三島由紀夫は「天皇バンザイ」で割腹自殺した。彼の著『英霊の聲』は、2・26事件で銃殺刑に処せられた将校や神風特攻隊員で死んだ人たち、つまり、彼にとっての英霊たちが、「自分たちは『天皇』を神と思って死んだのに、何で人間になったのだ」との昭和天皇の「人間宣言」に対する怨嗟をテーマにした小説である。三島は「人間宣言」について、『英霊の聲』の「あとがき」に「憲法よりも『人間宣言』の方が自分にとって重かった」と書いている。
しかし、三島は「人間宣言」を誤解していたのである。三島にとって「人間宣言」は、昭和天皇が自ら「神格」を否定したとだけ理解したからである。しかし実は、昭和天皇は「天皇の権威」に重要な事は、個々の天皇の「神格化」にあるのではなく、天照大神の嫡流子孫=神の裔である事だと考えていたのである。だから、昭和天皇にとって現御神である事を否定する事はそれほど重要ではなかったので現御神である事を否定するという形でGHQをごまかし、天照大神の子孫=裔であるとする家系(記紀神話)を否定される事態に陥ったが守り抜いたのである。そして、その後の平成天皇も現天皇も、象徴天皇と位置づけられていても、天皇としての地位と権威の拠り所として記紀神話を継承しているのが実態である。