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金融グローバリゼーションということ③ 金融は社会、政治をどう変えたか  文科系

2023年01月01日 02時39分33秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
ロナルド・ドーア著「金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱」(中公新書、2011年10月初版)を要約している。その第二部は、金融化が社会、政治、教育、そして学者たちをどう変えたかという内容。これがまた4節に分けられていて、各表題はこうだ。①社会を変える金融化、人間関係の歪み、②金融化の普遍性、必然性?、③学者の反省と開き直り、④「危機を無駄にするな」(G⑦などでの改善の問題なのだが、括弧が付いている事に注意 文科系)。以上の四つに分けて論じられる。
①・「格差」では、06年のゴールドマン・トレイダーら50人のボーナスが、一人最低17億円だったという例を昨日のここで紹介した。こういう強食の背後には、無数の弱肉がいると解説を付けて。投資会社のゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのトレーダーは、ハーバードの数学科ドクターなど超優秀な頭脳が集められていく。すると社会全体がそこへの近さなどに準じたようなヒエラルヒーへの人材配置になっていくのである。
・「不安の増大」では、こんな例が良かろう。日本の国民年金掛け金未納者が38%にのぼること。日本で新たに導入された確定拠出年金が、10年3月末の110万人調査で63%が元本割れとなっている発表された。これらの人々の老後はどうなるのだろうか?
・人材の金融集中では、2010年8月の日経新聞広告を上げている。
『野村、「外資流」報酬で新卒40人採用へ 競争率16倍 専門職で実績連動 11年春、初任給54万円』
 マスメディアのライターからも、大学人やフリーライターとかジャーナリストらがどんどん減って、金融アナリストが急増している。
・人間関係の歪みでは、情報の非対称性(情報量に大差がある2者ということ)を利用して起こる諸結果から、リーマン・トレーダーにだまされた社会において「人をみたら泥棒と思え」というような世界の移り変わりが説かれていく。

②「金融化の普遍性と必然性?」の要は、金融に特化する先進国に不当な世界的優位性を与えているということである。そこから、西欧がアメリカを追いかけ、今日本がつづき始めた、と。ただし、主要国の家計に占める株と証券との割合は05年でこうなっている。アメリカ46・6%の6・7%、ドイツ23・7%の9・7%、フランス28・0%の1・4%に対して日本15・0%の4・0%である。
 この程度でもう100年に一度のリーマンが起こって莫大な公金を注ぎ込まざるを得なかったとあっては、これで儲けるしかないアメリカがいくら頑張っていても金融立国はもう駄目だという文脈と言える。上記4国の証券%合計は21・8%となるが、1980年のこれは合計34・9%となっていた。4国で割れば、この25年で8・7%から5・5%へと家計における証券保有率は大幅に低減したという事になる。ただこれは家計に占める率であって、世界から金融業者に掻き集められた金はカジノばかりに膨大に投入されているということである。

③「学者の反省と開き直り」は省略させて頂く。ただし、この点の2022年現在まで、米主流体制の中で「重大反省」がいくつも起こって来た。この重大反省については、この書評とは別にこの連載でも、後で詳しく書こうと思う。
 
④すべて「金融危機を無駄にするな」に括弧が付いているのは、掛け声だけという意味である。アメリカの妨害でちっとも進まないからだ。
 リーマンショックが起こって、「100年に1度の危機」(これも2022年現在、後で今一度振り返っておきたい)と叫ばれた08年秋のころはアメリカも大人しかったようで、金融安定への不協和音はゼロだったとのこと(ただ、この「危機」の長期的根本的意味が一般には世界の為政者を除いては1%も理解できていたかどうかと、僕はそう思う。)ところが、国際機構をきちんとして罰則を入れるようなものは全くできなかった。決まった事は、少しの間G7よりもG20サミットが重視され始めて、保護主義を排し、経済刺激策を取ろうという程度だった。IMFとこれによる規制との強化とについて、新興国と西欧とがかなり主張して端緒についたはずだったが、その後はほとんど何も進まなかった。(そのうちに今現在では、ウクライナ戦争から、世界のブロック経済化に進んでしまった)

 ここで作者は、世界政府、国際制度作りの歴史などの話を起こすことになる。特定分野の国際協力機関は20世紀初めの国際連盟やILO設立よりも前に12もできていたと述べて、「万国郵便連合」などの例を挙げる。
 同じ理屈を語って日本人に大変興味深いのは、日本の戦国時代統一の例が語られている下りだろう。
『日本が16世紀の終わりに一つの国になったのは、信長、秀吉、家康の武力による統合と、幕府という統治制度の意識的な創出が決定的だった』(P132)
 アジア通貨危機やギリシャ危機は、大国金融が中小国から金を奪い取る金融戦争、通貨戦争の時代を示している。そんな金融力戦争はもう止めるべく、戦国時代の戦争を止めさせた徳川幕府のように、金融戦争に世界的規制を掛けるべきだという理屈を語っているのである。IMF(国際通貨基金)のイニシアティブ強化以外に道はないということである。


 金融の国際制度とこれによる執行力ある万国金融規制についてさらに、前大戦中から準備されたケインズの国際通貨、バンコール構想も解説される。が、これはドル中心にしようとのアメリカの終戦直後の実績と強力との前に脆くも崩れ去ったということだ。ドルが基軸通貨になったいきさつ説明なのである。
 以降アメリカは自国生産量より4~5%多く消費でき、日本や中国はその分消費できない国になったということである。それぞれ膨らんだドルを米国に投資する事になってしまった。その意味では、中国銀行総裁、周小川が09年に「ケインズ案に帰るべし、新機軸通貨、本物の国際通貨の創設を!」と叫び始めた意味は大きい。中国は今や8000億ドルの米国債を抱え、不安で仕方ないのであろう(この8000億は2015年ころには1兆2500億ほどになっている。文科系)。中国のこの不安は同時に、アメリカにとっても大変な不安になる。「もし中国が米国債をレバレッジ付きで(数%の見せ金で売買ができるという梃子の原理のこと)大量に売り始めたり、中国資金を引き揚げたりしたら。国家、家計とも大赤字の借金大国の『半基軸通貨』ドルは大暴落していくのではないか」と。周小川中国銀行総裁が「本物の国際通貨の創設を!」と叫ぶのは、そんな背景もあるのである。

 なお、これは私見の言わば感想だが、アメリカが中東重視から西太平洋重視へと世界戦略を大転換させたのは、以上の背景があると観ている。中国に絶えず圧力を掛けていなければ気が休まらなくもなるのだろう。
 
 
(あと3回は続きます)

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2 コメント

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おめでとうございます。 (道草)
2023-01-01 07:20:18
元気になられたようでよかったです。

サウジなどもドルだけでなく元建てもありとか。

閣僚を退陣させてももっとひどい防衛費のことは知らん顔、なんとか平和の維持したいものです。
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新年、ありがとう。 (文科系)
2023-01-01 11:11:04
 いつもいつもですが、新年(も)、ありがとう。
何よりもりの励みです。
これは特に、それだけの熱量で書いてますから。

今年もよろしく。

同人誌仲間の一人がやはりこんな風に・・・。
「ブログは毎回しっかり読んでいます。熱い思いが伝わります」
だからやめられません。
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