カルロ・ドルチ
(1616-1686)
《受胎告知 聖母》
1653~1655年頃?
油彩、カンヴァス
52.5×40cm
(公式カタログより)
「フィレンツェのカルロ・ドルチが制作した本作品と対作品は、17世紀イタリアの活発で霊感に満ちた信心の傾向を示す模範的作例である。本作品の解説においては、概して、ドルチに特徴的な、仕上のすばらしさが強調されてきた。ドルチは、その感触が伝わってくるような乳白色の柔らかい肌や、本作品の大天使ガブリエルのような超自然的な存在をほのめかすことのできる彩色でよく知られている。
受胎告知はマリアが「ヨセフを知ることなく」、すなわち、肉体的な接触なくイエスを産んだとするキリスト教の教義の発端となったエピソードであり、天使と人となった神の母となる若い女性というふたりの主役によって演じられる。この主題が重視されるのは、むろん、キリスト教信仰を支える柱を強調しようとする意図からのことである。カトリックとプロテスタントとが対立するヨーロッパの状況において、プロテスタントは聖母信仰をほとんど認めていなかった。この意味で、ドルチの《受胎告知》は、まさにバロック時代の産物である。
感覚と知性を結合させるという点でも、本作品はバロックを体現している。大いなる絵画的魅力を醸し出しつつも、天使の姿は、実のところ簡素である。天使は、瞑想へと導き、そこから生まれる感情は内面の成熟というフィルターを通したものとなる。こうして、本作品のような祈念画の受容者あるいは注文主について問いが生まれることになる。本作品は17世紀フィレンツェの貴族たちの趣味に適った複雑で洗練された絵画である。したがって、ドルチの庇護者に枢機卿レオポルド・デ・メディチを数えても驚くには値しないだろう。レオポルド・デ・メディチは、文芸の庇護者、収集家、目利きを兼ね、彼の世代で最も才気みなぎる精神をもつ者のひとりであると同時に、おそらく、高名なメディチ家の最後の偉人であった。画家ドルチは、聖書の人物を信者に近づけるよう力説する対抗宗教改革の要請に従っているが、だからといって、彼を大衆画家とするのは誤りであろう。」
(1616-1686)
《受胎告知 聖母》
1653~1655年頃?
油彩、カンヴァス
52.5×40cm
(公式カタログより)
「フィレンツェのカルロ・ドルチが制作した本作品と対作品は、17世紀イタリアの活発で霊感に満ちた信心の傾向を示す模範的作例である。本作品の解説においては、概して、ドルチに特徴的な、仕上のすばらしさが強調されてきた。ドルチは、その感触が伝わってくるような乳白色の柔らかい肌や、本作品の大天使ガブリエルのような超自然的な存在をほのめかすことのできる彩色でよく知られている。
受胎告知はマリアが「ヨセフを知ることなく」、すなわち、肉体的な接触なくイエスを産んだとするキリスト教の教義の発端となったエピソードであり、天使と人となった神の母となる若い女性というふたりの主役によって演じられる。この主題が重視されるのは、むろん、キリスト教信仰を支える柱を強調しようとする意図からのことである。カトリックとプロテスタントとが対立するヨーロッパの状況において、プロテスタントは聖母信仰をほとんど認めていなかった。この意味で、ドルチの《受胎告知》は、まさにバロック時代の産物である。
感覚と知性を結合させるという点でも、本作品はバロックを体現している。大いなる絵画的魅力を醸し出しつつも、天使の姿は、実のところ簡素である。天使は、瞑想へと導き、そこから生まれる感情は内面の成熟というフィルターを通したものとなる。こうして、本作品のような祈念画の受容者あるいは注文主について問いが生まれることになる。本作品は17世紀フィレンツェの貴族たちの趣味に適った複雑で洗練された絵画である。したがって、ドルチの庇護者に枢機卿レオポルド・デ・メディチを数えても驚くには値しないだろう。レオポルド・デ・メディチは、文芸の庇護者、収集家、目利きを兼ね、彼の世代で最も才気みなぎる精神をもつ者のひとりであると同時に、おそらく、高名なメディチ家の最後の偉人であった。画家ドルチは、聖書の人物を信者に近づけるよう力説する対抗宗教改革の要請に従っているが、だからといって、彼を大衆画家とするのは誤りであろう。」