たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

第五章岐路に立たされる女性-⑩シングル・ウーマンの場合

2024年08月19日 12時59分08秒 | 卒業論文

では、生活費を稼ぐ必要性に迫られているシングルの女性の場合はどうか。

「ただ働くだけの人生なんて、絶対にいやだわ」そう言いながらも、自分を食べさせるためだけにシングルの女性は働かなければならない。毎日、同じことの繰り返し。しかし、会社員は会社に行っていればお給料をもらうことができる。フリーで仕事をしている女性と比べればこんな楽な仕事はないという考え方もできる。女性が好きな仕事で生きていくというのはそう簡単なことではないのである。 松原惇子はこんな46歳の普通のOLを創造している。

 OLって、同じ働く女性たちからも軽蔑されているところがあるけど、わたしはOLでよかったと思っています。これ、強がりではありません。わたし、つくづく思うんですけど、仕事ってしょせん地味なものでしょ。やりがいのある仕事、能力を生かせる仕事をしたいという人が多いけど、組織の中で何パーセントの人が、そんな仕事につくことができるのかしら。みんな会社のシステムを知らなさすぎ。男の人だって、90パーセント以上のひとはつまんない仕事を定年まで続けているんですよ。ましてや、女性なんか絶対に、無理。わたしは、お給料が上がることがうれしいけど、管理職になったり、やりがいのある仕事をしたいとは思いません。楽が一番ですよ。そのかわり、仕事は5時までで終わり。わたしは会社のために無駄な残業したり、つきあったりはしないことにしています。わたしは、9時から5時まで会社に時間を売っている。そう割り切って働いています。[1]

 単身女性の場合には、さらに労働がもつ意味は重い。女が自分ひとりを食べさせていくのもたやすいことではない。女ひとりが自立して生きていく、というのは公務員でもない限り、非常にむずかしい。もちろん、人生は経済的に安定していればいいというものではないが、経済はあなどれない。自分が好んでついた職業でなくても、収入がよい、ということは心の安定に通じる。自分のために家を得るというのは大変なことだからだ。自分ひとりを食べさせていく、その重みに耐えられずに結婚に逃げ道を求める女性もいる。安定した収入のある男性と結婚することで、自分を食べさせていくための苦しみから逃れることができるのである。

『クロワッサン症候群 その後』から、40代の単身女性たちのため息を拾ってみたい。日本型企業社会の中では、女性労働者は総じて、若さを失うにつれて「損をする」。[2] 50歳(1998年時点)の製薬会社に勤務する女性は、40代女性社員の会社での状況について次のように語る。「ヘッドハンティングに来るような人は別ですが、一般の会社員の場合、シングルで見た目には華やかにしている女性でも、実際は、大変不安定な中にいるのが普通です。男の人ですら、40代になると、とんでもない部署に配属されたり、通えないような出張所に転勤させられたりする。女性だって同じですよ。40代の女性で安心して働いている女性など、公務員以外以一人もいないんじゃないですか」。ある48歳の課長職にある女性の話。「ついこの間も会社は早期退職者を募った。先のことを考え、早めに多めの退職金をもらって辞めようとする人は多くなっている。しかし、その中にシングルの女性はいない。早期退職希望者に手をあげるのは結婚している女性だけだ。既婚女性はたいてい夫も働いているので、辞めても困らないが、シングルの女性は自分が辞めたら食べることができなくなるからどんなに良い条件を出されても辞められないのだ。シングルの女性は、気楽でいいと思われがちだが、ひとりだけにせよ、一家の主、自分という人を養っているのである」。45歳団体職員の話。「定年の日まで働くというのはつらいことですよ。10年前には、そんなこと全く思わなかったけど、最近、つくづくそう思いますよ。組織の摩擦の中で、どんなにくだらない仕事でも、退職の日までやってきたというのは偉大なことだ、と思います」。[3]

 

***********

引用文献

[1] 松原惇子『OL定年物語』13-14頁、

[2] 熊沢誠『女性労働と企業社会』18頁、岩波新書、2000年。

[3] 松原惇子『クロワッサン症候群 その後』45-51頁、文芸春秋、1998年。

 

この記事についてブログを書く
« 終らせるのは始めるよりも格... | トップ | 日比谷公園 »

卒業論文」カテゴリの最新記事