増税をしたくない日本のポピュリズム政治家に見せたい映画だが、始めから終わりまでメリル・ストリープの見事なサッチャーに感動さえ覚えた。高失業、財政危機の中で政権を取り、国民に不人気の財政緊縮と外国資本を呼び込んでの経済立て直し、米国の反対を押し切ってフォークランド奪回戦争、IRAのテロに側近を失い自らもホテルで爆破に巻き込まるという激動の時代の指導者だった。
アルゼンチン軍事政権は英国領フォークランドを占領しても、まさか英国機動部隊が派遣されるとは思わなかっただろう。サッチャーは侵略とテロには妥協しないと最後まで筋を通したところが、鉄の女といわれたゆえんだろう。かつて来日したサッチャー首相の単独インタビューをテレビで見たが、メリルのサッチャーはアクセントの強い英語で実物以上に断固たる主張で鉄の女を演じた。
一方、名門の出身者が多い保守党の男性閣僚や側近に対し、厳しいリーダーシップを取ったためにやがて孤立して行く権力者の姿や引退して認知症を患う老婦人サッチャーの姿は鉄の女との対比で人間の弱さを感じさせられる。おやと思ったのは大衆への接し方をアッシジの聖フランチェスコに習い実行しようとした点だ。
103分の上映時間だから、やや説明不足は否めない。特に下院議員になり、多くの名門出の保守党議員の中で、グラスシーリングを破り如何にして初の女性首相までのし上がったか、一番苦労した時代だからもう少し時間を取ってもらいたかった。