高校の先輩で、自分こそ多摩の農業人と自負されている宮岡和紀氏がこのほど「多摩を耕す」を上梓されたと聞き、アマゾンで取り寄せ読んだ。内容は著者の博識が随所に込められており、特に水田が多かった昭和30年代の多摩川流域地区の幼少時代の状況は私の多摩川で遊んだ記憶と重なり、原風景を彷彿させた。著者は本来の農業とはというテーマを柱に書いているが、農業と自然環境とは切り離せないことから、環境問題に話は派生する。同じ多摩川沿岸でも環境によって水質が違い米の旨さは水によると喝破している。自らあちこちで水田を耕しているからこそだろう。
著者はポルトガル、英国、アイルランドへ旅しながら現地の農業者と交流を深め、トマトの温室栽培やじゃが芋耕作復活など今日の日本農業への示唆を展開しながら、自らの耕作史(祖母の影響を受けた自伝)にも言及する。トマト栽培には受粉の必要からマルハナバチが使われている。著者は養蜂にも携わり、その中で、私が毎朝蜂蜜を食しているので印象深いことを教えて貰った。春になると多摩川河原は白い藤のようなアカシアの花が一斉に咲く、そのアカシアが蜂蜜を採るのに最も生産性が高いとのことだ。確かにアカシアの蜂蜜は安価でどこにでもある。
昭島市拝島の住人だった私には江戸時代拝島宿が形成された歴史もこの本に入っているのでうれしかった。5月のブログで玉川上水を世界遺産にと書いたが、玉川上水こそが拝島宿形成に関係するとの事実にふれられている。玉川上水は羽村に堰をつくって取水しているが当時の運送手段である筏の運用上、秋川との合流点である拝島に拠点が必要となり、拝島宿が栄えたとのことだ。
とにかく幅広い内容がぎっしり詰まっており、正月読書には最適だ。