カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

045「舟」より ・ 虚舟 

2014-08-21 22:05:03 | 和モノ好きさんに100のお題
 甲板から水面に放り込まれ、冷たい塩水が喉の奥から肺に絶え間なく流れ込む中、雷に撃たれたような感覚と共に、これが己自ら望んだ罰だったと今更ながら思い出した。

 遙か昔、少しばかり人を殺しすぎてから死んだ俺は、閻魔に通常の裁きを地獄で受けるか、それとも生まれ変わって「つけ」を払うか選ぶように迫られ、当然だが「つけ」を払う意味と恐ろしさになど気付かぬまま後者を選び、故に転生ごとの人生で悲惨な死を繰り返すことになったのだ。そして今は自らに「つけ」があることなど忘れたまま、他人を踏みにじり好き放題な生を重ねた挙げ句に負債が積み重なり、あと何度苦痛と後悔に塗れた死を味合わなければならないのか、もう判らない。

 頭から水底に沈んでいく俺の足下に見えるのは沢山の死者を乗せた渡し船の船底。だが、あの舟に俺が乗る権利は、まだ無い。 
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044「忍者」より ・ ニンジャは何人じゃ

2014-08-20 22:32:54 | 和モノ好きさんに100のお題
 ところでニンジャは何処に行けば会えるんだと質問をしてきた留学中のアメリカンに、何処にでもいるが、お前には絶対判らないと答えたところ、周囲を見回してはアレか?それともアイツかと訊いてくるので、外国人に正体が判るようではニンジャとして失格なんでハラキリ処分を受けるんだと言ったら実にあっさり信じてしょげ返った。
 気の毒なので帰国の際、忍者の儀礼装束だと言って派手な龍柄の甚平を持たせたら、コレで俺もニンジャだ!と非常に喜んでくれたのでよけい気の毒になった。
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043「旅人」より ・ めぐりゆくもの

2014-08-19 22:32:27 | 和モノ好きさんに100のお題
 文房具店でレターセットを買ってから駅前公園でのベンチで一休みしていたら、スーツケースを携えた上品な老紳士に話しかけられた。

「手紙を書かれるんですか?」

 普通の人間より遙かに朧な輪郭から、どうやら旅人のようだと見当をつけながら話をていたら気に入られたらしく、老紳士がその祖父から受け継いだという古いが立派な外国製の万年筆をもらった。
 あとの荷物はこの鞄だけですと笑いながら去っていく彼を、僕も笑顔で見送る。死んでからも自分の持ち物が忘れられない人は旅人となってその持ち物を託せるに足りると判断した生者に配り歩き、携えた物が失くなってようやく本当の死者になれるのだそうだ。
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042「無礼者!」より ・ 金襴緞子の帯締めながら

2014-08-18 13:19:50 | 和モノ好きさんに100のお題
 今度のはちょっと手強いかも、と叔母が持ってきた人形は、身分ありげな女性の花嫁姿だった。どうも夜昼構わず呟いたり、時には叫んだりするので叔母は寝不足気味らしい。
 試しに一晩部屋に置いてみたら、確かに延々と恨みがましい繰り言が聞こえてきたので、似合いの花婿人形を誂えさせたら理想の男性だったらしく、たちまちのうちに夢見るような表情になって黙りこんだ。
 元々は娘の結婚祝いにと花嫁人形一体で依頼を受けた品だったらしいが、注文主に見せたら二体とも喜んで引き取ってくれたそうだ。
 どうか、末永くお幸せに。
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041「市場」より ・ ねじ巻き金魚

2014-08-17 17:05:20 | 和モノ好きさんに100のお題
 怪士(あやかし)通りの名物である黄昏市を冷やかしていたら、ねじ巻き仕掛けの金魚を勧められた。一日一回ねじを巻いてやると、水の代わりに空中を泳ぎ回るのだという。面白そうなので「おらんだ獅子頭」とか言う名前の丸々太った寸詰まりを一匹買って帰り、ねじを巻いて離してやると確かにその辺をじたばたと泳ぎ回るのだった。
 だがある日、うっかり開け放していた窓から飛び出して行方不明になってしまい、必死で探したが、見つけた時にはもう泳がない普通のねじ巻き玩具に変わってしまっていた。
 それでも、ねじを巻いてやると相変わらずじたばたと動くので、たまに風呂桶に浮かべてやっている。
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040「城」より ・ 宴の夜

2014-08-16 22:42:56 | 和モノ好きさんに100のお題
 月の綺麗な晩、今は石垣のみ残る城跡に赴くと、人ならざるモノたちが宴を開いているのに出くわすことがある。
 何処から手に入れたのか樽に入った濁り酒を柄杓で欠け茶碗に注いでは旨そうに呑み干し、興が乗ってくると我先にと歌い舞い踊る、実に愉快な宴だが、人間が見ていることを気付かれれば、忽ち宴の肴にされるので注意が必要だ。何か芸を披露して連中が気に入れば良し、そうでなければ文字通りに肴とされ、骨の欠片も残さず連中の胃の腑に収まることになる。
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039「関所破り」より ・ 近頃の若い者

2014-08-15 23:11:42 | 和モノ好きさんに100のお題
 勘弁してくれ!と叫ぶ相手の頭蓋を、俺は無言で握り潰した。直後にその姿は淡い光と化して飛び散る。滅した訳ではないが、元の姿に戻るには相当の年月を必要とするだろう。
 それにしても、こちらで己の通力を使って人間たちに無法を働けばこうなると判っていて、それでも悪さを止めない連中を愚かと呼ぶのは簡単だが、実は人間も他者に対する無法ぶりでは大して変わらないのだと、随分と永い間、同じ学舎で学徒としての生活を繰り返してきた経験から思い知ってもいる。
 だからこそ、この世界には人間、妖を問わず俺のような番人が必要なのだが。
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038「うたう」より ・ 遠神恵賜

2014-08-14 21:08:54 | 和モノ好きさんに100のお題
 高校入学早々、いきなり合唱部にスカウトされた。音楽経験は学校の授業程度の私に何でまたと思ったら、中学時代の校内合唱コンクールの際に目を付けたのだと言われた。楽譜も読めないので一旦は断ったのだが、結局は粘り強い勧誘に負けて入部することになった。
 入部してからは地味な基礎トレーニングが暫く続いたが、ある日、声出しと称して校舎の一角で歌うように言われ、不審に思いながらも歌ったら「何か」が落ちてきて逃げた。どうも私の歌声は妖なるモノを弾く効用があるらしく、なかなか貴重なものらしい。
 コレはひょっとして面倒に巻き込まれたかもしれないと思ったが、実際その通りになった。
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037「丑三つ時」より ・ 牛が満ちた日 

2014-08-13 20:38:39 | 和モノ好きさんに100のお題
 昔、父が子供は真夜中に起きているものではないと僕に言った。特に丑三つ時、現在で言う午前二時頃は息が詰まるほどに周囲の気配が濃密になるが、あれは見えない牛の集団が空間に充ち満ちて、存在に気付いた者を踏み潰して地獄に連れて行こうとしているからだと。
 真に受けた僕は夜更かしを止めたが、父はある日、自室で潰れているのが発見された。最後まで死因は不明だったが、気まぐれで嘘つきで酒飲みで借金持ちで母や僕に暴力を振るうような人だったので、今頃はきっと地獄にいるだろう。
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036「異国」より ・ 向こう側の世界

2014-08-12 21:35:31 | 和モノ好きさんに100のお題
 人間の世界は「えれき」と呼ばれる力によって、夜の街が明るく輝き箱型の乗り物が人を詰め込んで走り薄い板で絵や字が読めるのだが、それは妖で言えば通力で仕掛けを動かしていると思って間違いない。だから人界において実体を持つ妖は「えれき」の恩恵を受ける為、人間と同じように働き、実体を持たぬものは「えれき」の流れに乗って世界を巡る、それがルールだ。
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