カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 錯乱 / 飴 / 星(スター) ]より・星の巡りに隠されて

2015-07-17 22:13:12 | 三題ランダムキーワード
 牽牛と織女が年に一度だけ会える日、天の川の流れに金平糖をばらまいた不心得者がいた。
 おかげでカササギは金平糖をついばむのに忙しく二人の為に橋を架けようとせず、ぶち切れた二人は何を思ったか更に大量の金平糖を投入し、天の川を埋め立てて二人で駆け落ちを敢行した。天帝は困ったが、このご時世、人々が空を見上げる旧七夕の時期だけ何とか誤魔化せば二人の不在に気付かれはしないと開き直った。
 だから大概、旧七夕は雨が降ると決まっている。
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[ 舐める / 蝋燭 / 正義(ジャスティス) ]より・行く人来る人送る人

2015-07-16 18:36:31 | 三題ランダムキーワード
 最近流行らしい、ロウソクで出来たお供えのおまんじゅうを恐る恐る舐めてみたら、普通のおまんじゅうと変わらない味がした。
 本物のおまんじゅうじゃないのにどうして?と悩んでいたら、僕がこっちに来てからずっと隣にいてくれる優しいお婆ちゃんが、お供えというのは供えてくれる人間の気持ちをこちら側に届けてくれる物なの、だから本物じゃなくてもちゃんと味がするのよと教えてくれた。

 それなら、今度はプリンのロウソクを供えてくれると嬉しいな。きっと向こうにいる時と違って、だれにも邪魔されずに全部食べても怒られないだろうから。
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[ 惜しむ / 絵の具 / 不安定(アィーアツブス) ] より・空を保つ

2015-07-15 22:26:35 | 三題ランダムキーワード
 子供の頃、秋の午後三時過ぎに、明るく澄んでいるのに何故か一刷毛の薄墨を加えたような青黒い色彩をした空を見たことがある。
 私はその色をどうしても手元に残したくて、何度も絵の具の青と白、それに空色と黒を混ぜては画用紙に筆で塗りつけるのを繰り返した。
 やがて本物には及ばないが何とか妥協できる色合いの空になったので、嬉しくなって部屋の壁に飾っておいた絵の色は、しかし日に日に色褪せてしまった。悲しんでいる私に、この世界にある『本物』は、いずれ必ず空に還る運命にあって、あの空の色もきっと本物そっくりだったから空に還ったのだろうと母が言った。
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[ 這う / 精霊 / 王冠(ケテル) ]より・ 精霊使いの卵

2015-07-14 19:57:52 | 三題ランダムキーワード
 精霊使いの第一歩は、純なる力である精霊に明確な姿を与えることから始まる。
 例えば水の精霊に王冠を被った蛇をイメージした場合、その姿を精霊に向かって出来る限り細密に投影するのだ。やがて自身のイメージが完璧に固まって精霊が揺るぎない姿となった時、その精霊を従卒と成し得た者だけが精霊使いの卵と呼ばれる資格を持つのだ。
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[ 触れる / 菫 / 理解(ビナー) ] より・菫の君

2015-07-13 21:21:12 | 三題ランダムキーワード
 信州の高等学校に通いながら暇さえ有れば近くの高原に登り、菫には変種が多いんだよと笑いながら標本を採取していた先輩は、結局、進学先の大学を辞めて赴いた戦場から二度と帰ってこなかった。

 先輩の訃報を知った僕は一人で高原に登り、先輩がいなくなっても相変わらずひっそりと咲き続ける菫の花を見て、あの人が一体何を守りたかったのを理解した気がした。
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[ 悲しむ / 横顔 / 無感動(アディシェス) ] より・女神の輪郭

2015-07-10 22:42:56 | 三題ランダムキーワード
 彼女は悲しみを知らないかのように、世界の至る所で繰り広げられる喜悲劇をただ淡々と眺めやる。
 かつては浮かんでいたであろう人間としての喜怒哀楽は既にその美しい横顔からは窺う事が出来なくなり、ただ時折僅かに口の端を上げて微笑みに似た表情を浮かび上がらせる。
 そしてそんな彼女の苦しみも痛みも知ることも出来ぬまま、人々は彼女を女神と崇め称えて祀るのだ。
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[ 悲しむ / アクアマリン / 隠者(ハーミット) ] より・叡智

2015-07-09 23:01:09 | 三題ランダムキーワード
 結晶化した隠者の涙を求め続けた男がいた。長い時間をかけて深く静かに育まれてきた人類の叡智の結晶である筈の結晶がどれ程の輝きを放つ何色であるのかを夢見た彼は、きっと虹のように華やかで多彩な色彩であろうと思っていた。
 だが、やがて彼が見つけ出した結晶は殆ど透明に近い淡い青色をしていた。それは全てを知るが故に抱く悲しみの色。
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[ 掴む / 糸 / 運命の輪(ホイールオブフォーチュン) ]より・縁の糸目

2015-07-08 20:44:12 | 三題ランダムキーワード
 幸運にも華やかな世界に繋がる糸を掴み取ったと思ったら、それが蜘蛛の糸で実にあっさり千切れでしまったりするのは良くあることだが、出会いの縁から生まれたか細い糸を大切にしながら様々な出会いから得た別糸とより合わせ、やがて強固な流れとなった人脈は滅多なことでは千切れない。それは与えられた偶然ではなく不断の努力の賜だからだ。
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[ 飽きる / 蜻蛉玉 / 星(スター) ] より・硝子の星

2015-07-07 19:59:18 | 三題ランダムキーワード
 繊細で華麗な蜻蛉玉を作るのを得意としていた友人は、ある日突然、自らの手で己が作った作品を全て打ち砕いてしまった。何でもある日見上げた夜の高原に広がる星たちの美しさに戦慄すると同時に、その中の小さな星の一粒にすら勝る輝きの作品が作れないという現実に打ちのめされ、絶望感に心を喰われたからだそうだ。
 そうして友人は夜になる度に決して自分の手では掴めない星空の輝きを哀しげに見上げながら、砕いてしまった自分の蜻蛉玉が刹那にだけ示した信じがたいほどの輝きを思い出す。
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[ 休む / ジャム / 皇帝(エンペラー) ] より・『皇帝の為の特別料理!』

2015-07-06 20:08:13 | 三題ランダムキーワード
 かつて世界の半分以上を支配した偉大なる皇帝がいた。ある日、その皇帝に生涯仕えたとされている料理番が残したレシピが発見され、皇帝の食した料理の味を再現するべく人々は躍起になった。
 やがて、ありとあらゆる山海の珍味や幻の果実、製法が失われて久しかった調味料等々、人類の英知と技術を結集した材料を使って当代一流の料理人が美しく盛りつけた料理が完成し、激烈な競争の果てにその料理を試食をする幸運にあずかった人々は一人残らすこう思った。

 どうやら皇帝は凄まじい味覚音痴だったようだ。
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