’08/10/26付朝刊記事から
海賊被害激増 ソマリア沖
日本政府が海上自衛隊の艦艇派遣の検討に入ったアフリカ東部ソマリア沖で、海賊被害が激増の一途をたどっている。
現場海域の航行船の1割を占める日本関係船にも被害が続発。
内戦で無政府状態のソマリアには有効な対策を期待できず、関係国は出動軍艦を増やして警戒強化に乗り出している。
(カイロ・鄭真、シンガポール・斎藤正明)
日本船 今年は7隻
内戦で無政府状態に
9日 貨物船が襲われ乗組員11人が船ごと連れ去られた。
15日 乗組員21人の貨物船が乗っ取られた。
16日 タンカーが襲撃されたが蛇行を繰り返して逃げ切った。
国際海事局(IMB)海賊情報センター(クアラルンプール)には今月もソマリア周辺の海賊被害が続々と入っている。
同センターが23日発表した統計によると、今年1ー9月にソマリア沖と同国北部アデン湾の海域で発生した海賊事件(未遂含む)は計63件で、前年同期比で27件増加。
世界全体の3分の1を占める。
日本船主協会(東京)の集計では今年、日本関係船7隻が襲われ、うち2隻が乗っ取られた。
アデン湾は欧州とアジアを結ぶスエズ運河につながり、年間2万隻以上が通過する。
約2千隻は日本企業が運行・所有する。
海賊はトロール漁船などを母船に使い、数隻の高速ボートで船団を組む。
標的を定めるとボートで接近、自動小銃やロケット砲で攻撃しながら船に乗り込む。
乗っ取られた船の大半はソマリア沿岸に係留されるが、「泊めてある場所が分かっても、ソマリアの取り締まりに期待できず手を出せない状態」(海賊対策の専門家)。
現在も10隻以上が捕えられ、約250人が人質になっている。
船主が支払った今年の身代金総額は、千8百万ー3千万ドル(約17億ー約28億円)と推計されている。
海賊激増の背景には、無政府状態に陥ったソマリアの国内情勢がある。
同国では1991年に内戦が発生。
2006年6月にイスラム原理主義勢力「イスラム法廷会議」が首都モガディシオを制圧したが半年後、エチオピア軍の支援を得た暫定政府が奪回した。
その後も双方の戦闘が続いている。
国が崩壊し職を失った若者たちが「もうかる仕事」と飛びついたのが海賊行為。
事情に詳しいケニアの船員支援団体幹部は「海賊たちは手に入れた身代金で、別荘を建てるなど好き放題の暮らしをしている」と話す。
イスラム過激派との接触も指摘されている。
国連安全保障理事会は今月7日、軍艦派遣などを加盟各国に求める決議を全会一致で採択した。
これまでも米英軍などの艦船が周辺海域で監視に当たってきたが、北大西洋条約機構(NATO)は10月中にも艦船7隻を新たに配備。
欧州連合(EU)も軍事合同作戦に着手する。
海自艦派遣問題は今国会でも論議されている。
海自艦を派遣して貨物船などを警備する場合、新法の制定などが必要となる上、憲法の制約を受ける武器使用基準の見直しも大きな課題となる。