井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

なぜゲーム音楽か(1)ジャングル大帝

2010-08-26 21:45:07 | アニメ・コミック・ゲーム

これからは「ゲームを芸術に」、という主張にいたるまで、前記事はプロセスをかなり省略して書いた。ここで、実際は様々なことを思い出していたのである。このプロセス、結構重要な気がしてきた。何があったか・・・。

たまたま最近、手塚治虫の「ジャングル大帝」を手にすることがあった。私はストーリーに対する記憶力が弱いのは自慢したいくらいで、同じ本や漫画を何回でも楽しめるのである。「ジャングル大帝」も何度も読んだ。また読んでみるか、と手にとって数十ページ読んだところで、もう先に進めなかった。パンジャがつかまる、殺される、レオとお母さんが船で連れ去られるが、レオは海へ脱出・・・もうダメ、涙が出そう・・・。

ストーリーだけでも泣けるのだが、漫画を読みながら頭の中では、ある音楽が流れる。もちろん「ジャングル大帝」の音楽、冨田勲の名作である。これはTHE CLASSIC、アニメ音楽でこれ以上のものは全くないと私は言い切りたい。これに比べりゃ、ディズニーなんて問題外、ジブリは論外、それ以外は蚊帳の外、と言いたいくらい。

テーマ音楽は平野忠彦先生が学生時代の、いわゆるアルバイトで歌っている。同級生の間では、平野先生は即、「ジャングル大帝」の先生であった。もうこれは絶対的な存在。同期の声楽科の友人は「長9度の音程をとる時は、いつもジャングル大帝を思い浮かべるんだ」と言っていた。

曲の冒頭から「長9度」!、1オクターヴと2度の跳躍がある旋律、こんなこと誰が考えつきますか、と万人に問いたい。「風と共に去りぬ」(タラのテーマ)、「オズの魔法使い」(虹をこえて)、「ピノキオ」(星に願いを)いずれも1オクターヴの跳躍、これが通常の限界だろう。「ジャングル大帝」は長9度の次に1オクターヴの跳躍、また長9度と続くメロディ。

これだけでも独創的だが、サビの転調がまたたまらない。いきなり同主調の平行調だよ!それを皮切りに遠隔調をいくつも経めぐる。でもメロディはフラットが数個つく程度で、歌いにくさは生じない。つまり一般には、これほど高度な和声処理がされていることは気づかない。

伴奏音型もボレロ調になったり、ミニマル風になったりと芸が細かい。大変な手間暇をかけた結果、大衆を喜ばせ、専門家をうならせる、至高の作品が生まれたことになる。

と、ここまで書いて気づいた。私は手塚治虫のファンだと思っていたが、どうやら「ジャングル大帝」のファンというのが正確なようだ。その証拠に「鉄腕アトム」「火の鳥」「ブラックジャック」、そこまでの思い入れはない。

それは何故か?

やはり音楽の力なのである。冨田勲の音楽の中でも、ベスト3に入る傑作と私は位置づけている。(あとはNHK大河ドラマ「勝海舟」と合唱曲「ともしびを高くかかげて」)

それに比べて今のアニメ映画の音楽の貧しさよ、と言わざるを得ない(おじさんです。)

もちろん、30年経ったら、おじさん達がポケモンを論じる日が来るだろう。その時、音楽が話題になるだろうか。大した話はできないに違いない、と私はみる。それに引き換え「ジャングル大帝」は音楽だけでも、これだけ語れる。これを豊かな文化と言わずして何と言う。

だからと言って、現在「ジャングル大帝」の音楽で騒いでいるのは私だけかもしれない。これは、冨田さんがその後シンセサイザーに入り込んでしまったので、この音楽にあまり執着しなかったし、商売熱心でもなかったからだと思う。(それでも交響詩みたいな音楽物語のアルバムが出て、日本フィルが演奏している。)

その後、商売熱心な方が出てくるのだが、それはまた次回。


ゲームを芸術に

2010-08-23 23:13:01 | アニメ・コミック・ゲーム

東京商工リサーチの調査で2009年度の給与所得上位30位等が発表された。リーマン・ショック以来不景気な話ばかりの昨今、この結果はまさに(サラ)リーマン・ショック。

以下、上位3社の社員平均年齢と平均給与。

1. スクウェア・エニックス・ホールディングス 41.2才 1780万円

2. フジ・メディア・ホールディングス 44.3才 1452万円

3. MS&ADインシュアランスグループ・ホールディングス 46.6才 1422万円

以下、三菱ケミカル、TBS、スカパー、住友商事、三菱商事、三井住友FG、東京海上HDと続く。

東京の民放キー局は全て30位以内、NHKはいない。金融機関も案外少ない。もちろん、持ち株会社が多い。これらの会社には若い新入社員はいないから、例えば新入社員いっぱいの普通の銀行と直接比較にはならない。

で、問題は1位がゲーム会社ということ。

話は跳ぶが、現在放送中の「ゲゲゲの女房」を観ていると、3、40年前の漫画界の活気と熱気がわかる。同時に、学校で「漫画なんか読むな!」と度々言われた記憶がよみがえる。でも、このドラマを観ると、実に真摯に漫画に取り組んでいることが伝わってくる。その甲斐あって?今や国立マンガ図書館を作ろうかなどというご時世になっている。大体、今になってわかるのだが、みんな漫画は読んでいたのである。学校の成績とは無関係だったことも、ここで論ずるまでもない。

そして、この漫画に相当するものが、今は「ゲーム」と言わざるを得ないのではないだろうか。

正直言って、子供たちがゲームに熱中している姿には辟易としている。しかしこのご時世、高給取りが嫌いだと言える親がどれだけいるだろうか?

それならば、ゲームが芸術にまで昇華するべく、全てが動いていくことを考えたいものだ。

具体的には、ゲーム音楽はまだまだ貧しい。ドラクエのすぎやまこういち氏のように良心的なものは、なかなか少ない。ポケモンにJ.ウィリアムス並の音楽がついていればハリウッドを凌駕できる。そうすると音楽は独立して発展し、20世紀後半の映画音楽、百年前のバレエ音楽の地位に位置づけられる。白鳥の湖やスターウォーズと同様、万人が音楽だけでも楽しもうよ、ということが期待できるのに、残念である。

実は、福岡のゲーム会社と共に現代音楽祭を今年開く計画があった。だが、ゲーム会社の認識が低く、ゲームを芸術になどという発想そのものに理解を得られなかったようである。これもつくづく残念である。井財野もゲーム音楽を作ってみたいなぁ。