井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

単調な練習の繰り返しの向こうにあるもの

2020-07-31 07:47:53 | ヴァイオリン
先日、偶然ヤンキースの田中将大選手のドキュメンタリー番組を見た。

その中で、毎日キャッチボールをする重要性について話していた。
それは、ウォーミングアップであると同時に、重要な基礎訓練となのだそうだ。
この単調な訓練を続けることによって、さまざまなボールを投げられることになる、というような話だった。

まさに、音楽家と共通する話題である。

一流を目指す人間は、どのジャンルでも同じような努力をする訳だ。

問題は、一流を目指さない人間を教える時だ。私が教える対象は、ほとんど一流を目指さない方々なので、その皆さんに、このような単調な訓練をさせるのは至難の技である。

いや、至難の技ではないかもしれない。指示するだけなら誰でもできる。
一流を目指さない方々は、訓練も徹底しないのが普通である。

訓練しないでも、できたような「錯覚」を与えられると、教師としての評価は上がるかもしれない。しかし、これはとても難しい。

やはり、一流を目指さない方々には楽しんで訓練してもらうのが良いのだと思う。これも実際にはとても難しい。

そこで、やはり「楽しいエチュード」の出番、なのだろうか。

この方法、楽しいかもしれないけど、効率はとても悪い。単調な訓練をした方が、確実に上達は早い。

でも、それはそう思ってくれた場合の話だ。
単調な訓練は、大抵永続きしない。なので「楽しいエチュード」の方が結果的には上達するのかもしれない。

しかし、楽しいエチュード、作るのは大変である。

それで今、ベリオ、ローデ、シュポアの協奏曲を見直している。
これは人によって「楽しいエチュード」になるかもしれないから。
(私自身は音階、アルペジオの訓練の方が好きだったけど。)

現在数人にお試し中のエチュード協奏曲、果たして成果はいかに❗️

日本の行政は文化・芸術を軽視して当然、かもしれない

2020-07-25 20:49:58 | 国際・政治
音楽業界は、このところ壊滅的な打撃を受けて、そこに身をおく人間には、改めてこの国の腑甲斐無い実情を再認識せざるを得ない。

端的に表現すると「この国の文化は、自然発生で充分」ということになるだろうか。

音楽関係者は、しばしばドイツを引合いに出す。メルケル首相が、即時給付金を出したり、「芸術家は必要な存在」宣言をして、さらに補助金を出したりと、目に見える成果があるからだ。

これは素直にうらやましい。

ただ、我が国で文化があまり重視されていないのは、今に始まったことではない。
私の実感では「エコノミック・アニマル」という言葉が現れたあたりから、軽視が始まったような気がする。およそ50数年前、である。

私は生きていたが幼稚園児、もちろんそこまでの事情は知らない。業界の大先輩方が、ぶつぶつ呟いていたから、後から知っただけのことである。

なぜ、こんなに脆弱な意識なのか。

これはひとえに、文化が潰される危機が生じないからだろう。
島国だから、とも言える。
日本語がなくなる危機も、今のところ無い。

これが、ヨーロッパのどこでも良い、文化を取っ払ってしまったらどうなるか。
あっという間に隣国に飲み込まれる危機に満ちあふれている。

フランスが飲み込まれる危険はないかもしれないが、フランスは文化のお陰で愛国心が芽生え、実はかなり腹黒い国であることを見事にカモフラージュしている。(カモフラージュcamouflageフランス語だ!)

ドイツは音楽を除いたら、実につまらない国になる。ヨーロッパで一番勤勉かもしれないが、最近はチャイナと手を組むことを宣言した。ドイツ音楽を愛する身としては、甚だ残念至極なのだが、日本と一緒にやっていける国ではなくなった。
そうでなくても、第二次大戦では同盟してエライ目にあった。縁起が悪い。

日本は、そこまでカモフラージュしなければならないひどい国ではないから、文化の存在理由がそこまで強くない。
なので、自然発生で充分じゃね?
ということなのだろう。

正直言って、文化より優先して然るべきものまで、日本政府の政策として不充分なものが目につく。

国防と教育である。

これは毎日気が気でならない。

朝鮮半島が共産党に支配されたら、と思うと……。

しかし、そこまでにはまだ余裕がある。それまでに日本文化を強くして、日本人を精神的な強者にするのが、今やるべきことだと考えている。

クロイツェルを称えつつ、それに代わる新エチュードを……

2020-07-17 07:50:30 | ヴァイオリン
今年、惜しくも亡くなられたピアノの多喜靖美先生は、ピアノの練習曲に独自のオブリガートをつけて、アンサンブルの学習曲をいくつも作っていらした。
「ヴァイオリンも作ればいい……」
と言われ、そうか……と、考え続けたのだが、それから数年経過してしまった。

ヴァイオリンの練習曲は、正直言って面白くない曲が多い。これにオブリガートをつければ、ひょっとしたらすごく美しい曲に豹変するかも、と夢見て、いろいろと試みてはみたのである。

しかし、いくつかはまあまあの域に到達したのだが、これをレッスン中に弾くと、生徒さんが何をやっているのか、よくわからない、という事態を引き起こし、レッスンの邪魔でしかない、これでは本末転倒である。

そして、ある時気づいた。
そうか、逆をやれば良いかもしれない。

古今の名曲を練習曲にして、二重奏に仕上げるのである。

練習曲に伴奏をつけるアイディアは、実はかなり昔からある。名教師達はピアノ伴奏をしながら、ドント等のエチュードをレッスンしていた、との論文も出ている(緒方恵)し、私の先生もクロイツェルにピアノ伴奏をつけてくれていた。

しかし、ヴァイオリンのレッスンの場合は、やはりヴァイオリン伴奏の方が何かと都合が良い。

そして、二重奏前提なら練習曲にあまり旋律要素を持たせなくても良さそうだ。

という次第で、クロイツェルのエチュードを下敷きにして、名曲エチュードをいくつか作ってみた。

これは楽しい、ともっぱら一人で悦に入っている。

第1作目はクロイツェル9番の代わりの「指を速く動かすためのエチュード」。
下敷きはフォーレのレクイエムから《イン・パラディズム》。
さあ、何人天国へ送れるかな……。




「もののけ姫」に息づく『日本精神』

2020-07-14 22:12:16 | 映画
基本的に、恐い映画やドラマはダメなのだ。ウルトラマンは言うに及ばず、「マグマ大使」もゴアと人間もどきが恐くて数分で見るのを止めた。

同様に、ジブリ映画のほとんどが恐くて、まともに見ていない。
恐くない「となりのトトロ」は、まともに見れたけど、今度は何が面白いのかわからなかった。

20年ちょっと前になるが、編曲する資料として「もののけ姫」のビデオを渡された。あっという間に恐いものが出てきたので、画面は見ずに音だけ聞いていた。音楽がないところは跳ばして。

そんな見方だから、筋がわかる訳がない。

しかし、数々の金字塔を打ち立てた「名画」だから、いつか見た方が良いのかも、と思い続けて20数年、ついにその機会がやってきた。

始まって十分ちょっとしたら、もう泣いていた。断っておくが、恐いからではなく「感動で」である。

その後も数回は泣いてしまった。

何に泣いたか。

一言で言えば「大和魂」「武士道精神」に泣いた。

20世紀末に公開された映画だが、当時観るのと、今観るのでは、意味合いがかなり変わるのではないだろうか。

当時、日本の状況は全く良くなかったが、今はもっと悪くなっている。

今は、リアルもののけ国がお隣にいくつも出来てしまった。

映画「もののけ姫」には、根っからの悪人は出てこない。立場上、戦わざるを得ず戦っている。そして、いわゆる武士道精神に則って正々堂々と戦っている。ここに涙してしまった。

リアルもののけ国は、全く正々堂々の正反対!
勝つためなら騙しても裏切っても良い。卑怯という概念がない。

おまけに、我が国の政治家にもリアルもののけ国に忠誠を誓っている人がたくさんいる。

この汚れきった我が国の状況だけを見ていると絶望的になる。

が、

その中で観る「もののけ姫」は、ものすごい希望を見せてくれた。

この映画には、根底に『日本精神』が横たわっている。その上に組み立てられたソフトパワーは、実はものすごく強いはずだ。

この映画を見た人は、無意識に「正々堂々と戦う」ことが美しい、と思うだろう。

それこそが、私が今、一番主張したいことであり、全世界で共有してほしい価値観である。
これを、ヒステリックに叫ぶのでなく、映画を通して主張してくれていたことに、私は感激して泣いてしまったのだ。

これからは、会う人会う人に「もののけ姫を観ましょう」と言ってさるこう。
(「さるく」は「歩く」の意)

今は《白鳥の湖》より《眠り》が人気か?

2020-07-11 23:58:20 | オーケストラ
国民楽派を聴いてもらう講義で、選んだ作曲家は5人。
ドヴォルザーク
チャイコフスキー
リムスキーコルサコフ
ボロディン
ムソルグスキー

50名くらいの大学生に、好きな作曲者を選んでもらい、特にどこに、どのような曲にひかれたかを書いて提出してもらった。

やはりチャイコフスキーが多いのだが、この5人だと選ばれない人はいなかった。全員にファンがつく、幸せな状況だった。

それで、チャイコフスキーも、以下の曲を聴くように指定した。
交響曲第4、5、6番
ピアノ協奏曲
ヴァイオリン協奏曲
白鳥の湖
くるみ割り人形
眠れる森の美女

一番人気は《くるみ割り人形》。
やはり名曲中の名曲ということだ。

で、次が《眠れる森の美女》なのである。《白鳥の湖》を選んだ人は一人もいなかった。
半世紀前なら、確実に白鳥湖が人気だったのではないだろうか。
以前にも書いたかもしれないが、《眠り》は「マイム」を理解しないと意味不明になりやすい。バレエ3作の中で、ストーリーも一番複雑、それを反映して音楽も複雑である。

正反対に白鳥湖は単純明快なストーリーに、単純明快な音楽。わかりやすいこと、この上ない。

それが原因かどうかはわからないが、眠りを複数の学生が挙げていたので、少々驚いた。

私としては嬉しい結果だが、《白鳥の湖》も名曲ですよー、と言ってまわらないといけない時代が来たのか、ちょっと胸中は複雑である。