井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

何故クラシック音楽か?

2009-01-29 23:58:22 | 大学

我が教育大生はコマゴマと数多の科目を履修する必要がある。教員免許の為なのだが、おかげで音楽の講義関係も、中途半端で終わってしまうものも多々ある。

先週の授業で、学生に話をさせると、それを含む不満がちらほら出てきた。いちいちごもっとも、という内容が多かった。 しかし、である。現在の条件下では、これ以上の改善は難しいと言わざるを得ない。

まず教員の数が少ない。福岡教育大学は全国の教育学部で学生数は5番目に多い。これは教員一人が担当する学生も多いことも意味する。 さらに学生数は減らさず、教員数はじわじわと減らされているのだ。これも国の方針、抵抗できるものではない。

その中でいろいろやっているのだ。悪しからず了承いただきたいところである。

逆に、世の中いろいろな音楽があるのだから、もっといろいろやらせろ、というのもあった。

これも難しい。少ない教員数でこれ以上できない、とすると、対象がクラシック音楽にある程度特化せざるを得ないのである。

教壇に立って教えるのは唱歌の類なのに、何故クラシック音楽が中心なのか、という疑問もあるようだ。

確かに一見おかしい。音楽の教科書にそれほど多くのクラシック音楽が載っている訳ではない。もっと童謡唱歌の類を勉強させたら、という意見は学生に限らずある。

これは正論だ。でも今はスリランカだ。…おっと違った。

「春の小川」や「ふるさと」でバッハ同様の感動が生じるならば、バッハではなく「春の小川」をやった方が良い。ドイツ語で小川はBachだし…(関係ないか)

その深い感動はクラシック音楽特有のもの。加えて、ハーモニー、対位法、五線はクラシック音楽の三大発明、これは勉強する価値がある。現実にその三大発明を持つ西洋発祥音楽は、姿を変えて世界中に定着してしまったではないか。「春の小川」も「ふるさと」も祖型は西洋にあり決して雅楽や常磐津ではない。

だからクラシック音楽なのだ。 (もっとも、これだけ説明する機会も特にないまま授業に入っていくのだから、事情がわからなくてもやむを得ない。)
という訳で幼稚園の先生の卵であれ、マタイ受難曲を教えようとする井財野であった。(これは止めるように示唆されましたが…)


笑えない冗談

2009-01-21 23:02:57 | 日記・エッセイ・コラム

「そんな音を出していたらジョノカもできない。いても逃げてしまう。」 学生時代、師匠から言われた一言だ。 それをそのまま同級生に話したら、爆笑された。

私には笑えない。ジョノカができるできないの問題ではない。師匠の要求する音を出すのが至難の技で、途方にくれてしまったからだ。

ちなみにジョノカは「彼女」のことだが、業界でもあまり聞かない隠語で、それを理解するのも18歳の少年には難しかった…。

その師匠が19日朝に亡くなられた。ヴァイオリンの師のうちで、井財野作品についてコメントやアドバイスをくれた唯一の存在だった。 指南を失った今、再び途方にくれているところである。

この先生ほどエピソードに事欠かない方もいらっしゃらないだろうから、そのうち様々な方がいろいろなことを語り始めるだろう。 そのほとんどが、笑いを伴っているというのも稀有な存在だ。

私が最後にお会いできた時の話も、一種の「可笑しみ」を含んでいる。

それは一昨年の夏の日。ある演奏会の会場に向かう前に、師匠は尊敬する大先輩を見舞いに行かれた。師匠の口から「尊敬している」とはっきり聞いたのは、この大御所の名前しかない。

昔、協奏曲の夕べの際に、師匠がやたらのろのろ歩いて登場するので、どうしたのかと思ったら、指揮者として共演するその大先輩が既に健康を害していて、早く歩けないので、それに合わせたのだという。 〈そこまで合わせるのか?棒とオケは合ってなかったりするのに〉と思ったものだ。

師匠が見舞った時、大先輩は既に口がきけず、ひたすらテレビの画面をじっと見ているだけ。その先輩に向かって、師匠は一所懸命、先輩の好きそうな冗談を連発した、と、その日の夜、私達におっしゃった。 「でも駄目だったね。」夫人の話では、人の話は理解しているということだが「何にも反応がなかった。」

師匠もその十日後には手術を受けた、立派な癌患者。癌患者が痴呆老人に向かって渾身の冗談を言う図は、どう受け取れば良いのだろうか。

師匠は私達を笑わせようとしていたように思えた。笑って良いのやら…。 いや、やはり笑えない冗談である。

その大先輩はちょうど1年前の今頃に亡くなられた。〈そこまで合わせるのか?〉 師匠の誕生日は今月末、不肖の弟子達は古稀のお祝いをと、準備中だったのに…。

凡人には涙しか出てこない。「渾身の冗談を言えるかい?」最後まで至難の技を突き付ける師匠であった。