井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

理屈がわからないと動けない工学部と理屈がわからないのに動じない医学部

2012-05-25 07:24:15 | アート・文化

「自分はハーモニーのこととか全く知らないんで、そういう話がわからないんですよ。」

たまたま、あるアマチュアオーケストラの打ち上げで、そのような話をしたチェリストがいた。アマチュアとは思えない、すばらしいチェロを奏でる方の発言である。

ん?この話は、以前にも別の人から聞いたことがあるのを、即座に思い出した。

その時は、乞われて和声の解説まで引き受けた覚えがある。

確かに、古典派の曲は和声を理解した方が良いに決まっているのだが、音楽大学を出た人達は、みんな和声を理解しているだろうか? この点に関しては少々疑問があるのだが、音大出身者が、和声を理解していないから困っている場面に演奏の場で遭遇したことはない。多分、仮に理解していなくても適当にごまかしているのだろう。一流の演奏にはならないが、それを目指さなければ何とかなるからだ。

いやはや、皆さん真面目だなぁ、と思った瞬間、このお二方の共通点を見出した。

二人とも工学部卒業なのである。

工学部の先生が言っていた。「計算を間違うと、それこそ、どこぞの湯沸かし器のガス爆発、なんてことになる訳ですよ。計算を間違っては絶対にいけません。」

これが、工学部の発想を端的に物語っているだろう。

しかし世の中、工学部的発想で動いていない部分もあるはずだ。

おあつらえ向きに、反対隣にはお医者さんのチェリストが座っていた。伺ってみたら案の定・・・

「そんな・・・世の中、わからないことばかりじゃないですか。理屈がわからないとか何とか言っていたら何にもできませんよ。」

和声がわかろうがわかるまいが、とにかく弾くのである。このお二人が本番では仲良く隣同士で弾いていた。考えていることがこれだけ違うが、見ただけでは全くわからない。

同じ「理系」と世間では一くくりにしがちな人々でも、このように違う、ということを象徴する一言ずつであった。




アビニョンの橋の上で

2012-05-23 22:28:50 | オーケストラ

かの有名なフランス民謡、と言いたいところだが、どの程度有名なのか最近はとんと心許ない。

フランス民謡らしい特徴が二つある。

一つは、速いテンポとゆっくりなテンポが交替するところ。

コクリコ (coquelicot)という民謡もある。「こきりこ」は富山県の民謡。コクリコ坂は宮崎アニメ。しかし、コクリコ坂はフランス語のコクリコ(ひなげし)に由来しているそうだ。ジョージ・チャキリスと「茶っきり節」のようでまぎらわしいなあ。

もう一つは、1拍目がどちらだかわかりにくいこと。

日本語で歌う時は、ほぼ「アビニョンの橋で・・・」を1拍目開始の歌として歌う。

フランス語だと「ス・ル・ポン、ダヴィニョン・・・」のポンとニョンにアクセントがあるため、2拍目開始の「弱起」として楽譜を作ることがある。

しかし、これも統一されている訳ではない。察するところ、フランス人にとってはあまり問題にならない、ということのようだ。何せ、メロディーを書いた後に小節線を入れる人が多い民族、1拍目を問題にするのは、もっぱらドイツ人の仕事さ、と思っているかもしれない。

こんなことを知らなくても良いかもしれない、と一旦は思う。しかし、知らないでラヴェルやプーランクは演奏できない、と断言する。関係者はお見知りおきを。

さて、この「アビニョンの橋の上で」をオーケストラ入門のエチュードに仕立て上げたものがある。吹奏楽界で有名な後藤洋氏の編曲で、私も10年以上使わせてもらっている。弦楽器に易しいニ長調と管楽器に易しい変ロ長調を組み合わせた、それは見事な編曲である。

先日、大学の授業の発表会をして、冒頭に演奏させてもらった。弦楽器は9割が初心者、大学から初めて楽器にさわった人達の集団である。それでもこのくらいできる、という様子をちょっと紹介しよう。

ちなみに、これは日本人の手で作られたこともあり、1拍目から始まる譜面になっている。

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シェフチークの重音練習は1年以上かかる

2012-05-06 22:16:05 | ヴァイオリン

ヴァイオリンの重音に苦労している話をよく耳にする。

その度に「そんなに大変かなぁ」と思う。

筆者は重音で苦労した記憶がない、というのは嘘。

今日も「この重音がなかなかできない」と思ったばかりだ。

正確に表現すると「重音が難しいのは当たり前なので、それを苦労だとは思わない」ということになろう。もっと難しいことはたくさんある。「人の心をとろけさせるような魅力的な音色」などに比べると、重音は指を同時に数ヵ所押さえるに過ぎない。だから、そんなに大変ですか、と問いたくなってしまう訳だ。

筆者自身の経験で言うと、重音の音階は小学生の中頃からやったけれど、「小野アンナ」音階教本をよちよちやったに過ぎない。

高校の途中で、初めてシェフチークop.1-1のトレーニングをした。これは易しくはなかったけれど、やった後は指が動く実感があった。それがとても嬉しかったのだ。なので、重音の練習はあまり大変だと思ったことがない。

だが、重音の練習をさせるのは辛い。早く先のステップに行ってくれないかなぁ、と常に思う。

と考えると、重音が大変だと思っている人、少なからずいるのだろうなという想像はつく。

そこで考えた。

重音の練習には、どのくらいの期間が必要なのだろうか?

そういうことを知るためにデータを取ろうと思ってからまだ日が浅い。もともとあまり小中学生を教えた経験が少ないこともあって、やっと以下の状況が判明した。

重音の訓練は、重音の音階につなげていかなければならないが、その前段階として、筆者はシェフチーク作品1-1の17,23,24,25,26をさせることにしている。全て第1ポジションで弾け、シフトを含まない。

その中の17番、「三和音」の練習で、協和音程のみの重音の練習になる。これをどのくらいの期間でできるようになったか。

・A(小5) 3週間

・B(小5) 7週間

・C(小5-6) 2ヵ月

・D(中3) 3ヵ月

・E(高2) 4週間

・F(高2) 7ヵ月以上(進行形)

Dは部活動の関係で、ほとんど練習ができなかったケース。Fは、まだ楽譜そのものを読むのが不得手という段階 (このケースでは、一時18番<分散和音の練習で17番と類似する指を使う>を1ヵ月半練習させた)。それを除くと1~2ヵ月というのが標準のように思われる。

では続く23~26番であるが、AとEは現在進行中なので、やり遂げたのは3人である。

・B 8ヵ月

・C 1年

・D 1年

一番短いBで約10ヵ月、他は1年数か月というところだ。Bがやや熱心だったかもしれないが、3人ともそこそこ誠実で、標準的と言って良いと思う。

重音の音階は一生訓練する類のものなので、これの期間を云々するのはナンセンス。

その重音の音階練習の準備として、やはりこの1年数か月が必要、というのが、ここから得られる結論ということになる。

また、いきなり音階の練習に入るケースも目にするが、音階だとどうしてもシフトを含むため、効率が悪くはないだろうか。

さらに、曲に出てくる重音で練習すれば良いという考えも聞くが、筆者としてはシェフチークで別個に練習した方がトータルとしては早く弾けるようになるのではないか、と思う。

上記のFのように、どうやってもなかなかできない人もいる。それでも、とにかくあきらめないことだ。確実に左手は発達するのだから。



JR九州817系

2012-05-03 12:26:37 | まち歩き
JR九州の新型車両、817系に期せずして乗った。

写真で分かる通り、正面は、特に話題にするような趣ではない。

3扉車で「ロングシート(進行方向に対して直角に人が座ることになる横長の座席のこと)」風になっている。これが少々凝った作りで、正確には「ロング」ではなく、一人ひとりシートが別個になっている。と、ここまでは現在においてさほど珍しいことではない。

ここからである。

その「シート」に張ってある「クロス」が「海側/玉模様」「山側/縞模様」、そして10あるシートのうち4席には「ヘッドレスト」がついているのだ。車内が混んでいて写真が撮れなかったのが残念。

そして、シート、背もたれ、ヘッドレストは「木」でできていて、電車のシートというよりは「いす」に近い感じだ。この「いす」は九州新幹線「つばめ」のものと似ているから、恐らくスギ材なのだろう。

座席数は、扉間が10席、両端が4席で811系、813系と同じだ。811と813は「クロスシート(進行方向またはその正反対向きに座ることになる座席配置)」だったので、かなり立席スペースが増えた。窓も「はめごろし」でUVカットの大きなものが扉間に一つ配置されており、空間的な余裕をかなり感じることができる。

何ともぜいたくな作りで嬉しくなってしまった。