ベト7がベートーヴェンの交響曲第7番、ドボ8がドヴォルジャークの交響曲第8番、いずれもよく使われる略称で、その言い方が嫌いな人も結構いるけれど、実際にはかなり一般的な言い方になってしまっている。
しかし、ショスタコーヴィチが「タコ」!?
ロシア三姉妹、チャイ子・プロ子・ショスタ子はまぁかわいいけれど、ショスタコーヴィチ作曲交響曲第5番が「タコ5」というのは、ちょっといただけない。第一言いにくい。実際、あまり普及していないけれど、正直言って、この言い方は止めていただきたい。
さて、先日の「らららクラシック」で、この曲が取り上げられていた。暗号が隠されている、という謎解きつきで。
ショスタコーヴィチに謎解きはつきものだ。重要な作品には全て何らかの意味が隠されている。バッハの方法を20世紀的に最大限に押し進めた作曲家と言って良いだろう。
番組では、4楽章のテーマがビゼーの「カルメン」から「ハバネラ」の引用であり、その意味は「信じちゃダメよ」なのだと紹介されていた。
みのちゃんの解説なので、あたかもみのちゃんの説のような印象を与えるが、実際にはロシア文学者の亀山郁夫氏の説。この番組でも解説者として出演されていたが、5年くらい前だったか、NHKの教養番組でしっかり採り上げていた説である。
第4楽章の第1テーマは、いわゆる「ソドレミ」
バーンスタイン曰く、ヒット曲を作りたくば、ソドレミで始めるべし。昔、NHKの番組でソドレミだけを集めたコーナーがあったし、題名のない音楽会でも「ソドレミ・メドレー」というのをやったことがある。(そのバーンスタインご本人の最大のヒット曲「トゥナイト」はレとミが入れ替わって「ソドーミレー」…さすが!)
あまりにもありきたりの素材、カルメンと同じでも驚くことではない。
私は,以前から第2楽章がカルメンのセギディーリャと少し似ているな、と思っていたから、その点では「なるほど」と思った。
ただ、件の箇所、元のフランス語のテクストは、
Prends garde à toi!
村田健司訳では「気をつけろ!」となっている。
英語に Take care of you. という似たような表現があるけれど、多分careよりは強い意味のcautionとかwarningに相当するのが"garde"ではないだろうか(と、フランス語はあまり詳しくないので、違っていたらごめんなさい。)
多分「気をつけろ」という意味で「信じない」とはニュアンスを異にするように思う。
が、ひょっとしたらロシアでの一般的な訳詩が「信じない」になっているのかもしれないし、これが「気をつけろ」だったとしても、同様の警戒心を意味する暗号になっているから、スターリン批判の曲だという説は揺らがない。
非常に説得力のある、興味深い説である。訳し方の違いを除けば、全面的に受け入れるところである。
不思議に思うのは、その昔、亀山氏の説に異を唱える方はいらっしゃらなかったのだろうか。
亀山氏自身、音楽に対する造詣も深く、私個人的にもとても敬意を表する学者さんだけに、この細かい点が妙に気になるのであった。