分数ヴァイオリンと呼ばれる子供用の楽器が存在するのが、ヴァイオリンの一大特徴である。
他にチェロと一部コントラバスに分数楽器が存在するが、管楽器では聞いたことがないし、ピアノでは故中田喜直氏が提案されたものもあったけど、普及しなかった。
この分数ヴァイオリンのお陰で、子供でもヴァイオリンが弾ける。
とてもありがたい存在だ。ただ、これはあくまでもフルサイズの代用品だということは頭に入れておかなければいけない。
その「代用品」にどこまで投資するか?
ヴァイオリンにはもともと作られ方が3種類ある。
・「機械製品」機械で作られたもの
・「手工品」手作りのもの
・「半手工品」ある程度まで機械で、その後は人手で作られたもの
当然ながら「機械製品」には経年変化による価値は生じない。「手工品」の中でまっとうに作られたものは、時間がたつに従って価値が付加されていく。
20年くらい前までは、手工品は最低30万円と言われていた。ヴァイオリンを1台作るのに最短3ヵ月かかる。年間120万円というのは、割に合うと言えるかどうか・・・。
ところがバブルがはじけてしばらくすると、その30万円でも苦しいところが増え始める。そこで中国産が台頭してきた。
中国産もピンからキリまであるのだが、欧米や日本の技術指導で作られたものには、かなり良い物も作られるようになった。
昨今、よく目にするようになったイーストマンもその一つ。
注目すべきはチェロで、20万円台で単板の楽器を実現させた。この価格帯は鈴木であれ、カール・ヘフナーであれ「合板(ベニヤ板)」の楽器なのだ。ヴァイオリンにベニヤはさすがに無いけれど、チェロでは当たり前。それでも意外と鳴る。単板は最低40万はしたものだ。
ヴァイオリンはセットで8万円というのが安さで目をひく。でも音はやはりそれなりでしかない。(鈴木の同価格よりは良いか?) ヴァイオリンは容積が小さいからチェロより質の違いが目立つ。やはりもう少し上の価格の別のメーカーの方が良いのでは、と思う。
それで、分数楽器である。
かれこれ四半世紀前に、フルサイズの10万円の楽器を選びに行ったことがあった。10万円といえども、ドイツ製、フランス製、があって、それぞれドイツ風やフランス風の音がしたのに驚いた。
でも、一番音が良かったのは日本製のピグマリウスというブランドだった。その時はこの意見で、楽器屋、買い手、私、三者が一致したのである。
その経験があったものだから、分数楽器もピグマリウスが良いに違いない、という固定観念があった。
が、ピグマリウスには16分の1や10分の1が無い。これは鈴木しかないのだ。で、昔から今にいたるまで考慮の余地なく鈴木を買うのだが、鈴木にも良さがある。とにかく丈夫なこと。ちょっとやそっとでは溶けないニス。汗っかきには大いに助かる。
所詮は代用品だという思いもあったし、鈴木に慣れてしまうと、それはそれで使えるので、まずい音にも聞こえなくなってきた。あれだけピグマリウスにこだわっていたのが、どうでも良くなってきた。しかもピグマリウスの品質が、昔に比べたら落ちてきた。一方鈴木は、昔ほどひどい音ではなくなってきているような気がする。
ただ、2分の1あたりから、音色が気になってくるのは確かだ。コンクールでも受けようものなら、それは必至。4分の3になると、フルサイズに替える際の下取りを意識して、少し高い楽器にすることもある。
やはり四半世紀前くらいに4分の3で500万円のガルネリというのを弾いたことがある。確かに良かったが、そこまで金を使う人の気がしれない。でも、そういう楽器でコンクールを受けるのだそうだ。なるほど。
コンクールでは、技術的な差がつかないとなると、音に魅力ある人が、常に上位へいくものだ。そのためには、やはり高い楽器を買わなければ、と思うのが人の世の常であろう。
ただし、ここでも注意すべきは「分数楽器には価値がない」こと。フルサイズと違って、それほどは値上がりしないので。
一方、ピグマリウスは手工品か半手工品か、見かたにって意見が分かれるが、初期の良質のものは、現在かなり良い音がしているものがある。これの価値はどうなるのか・・・。
以上、ヴァイオリンの特殊事情の一端である。