井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

楽器のグレードアップ

2011-06-29 23:33:10 | ヴァイオリン

「弘法は筆を選ばず」と昔から言われる。

これは嘘ではないが、100%真実という訳でもない。やはり弘法といえども、良い筆の方ができは良い。

ならば、最初からストラディバリで弾いた方が良いのか?

まぁこれは無理として、今だと数千万クラスの楽器を初心者同然の人に使わせた場合の話を聞いたことがある。

結果は、さんざんだったそうだ。全く鳴らせないとのこと。

結局、その人の身の丈にあったもので訓練するのが、一番無理がない。

そして、その楽器の限界まで「弾きたおす」つもりでがんばるのだ。

しかし、限界に近付くと、なにかもやもやしてくる。

実際には、楽器の限界には到達しないのが通例だ。

そのあたりで、楽器のグレードアップができれば幸いである。

上のランクの楽器は、いろいろなことを教えてくれて、それに素直に従っていれば結果的に上達する。

その後、試しに、以前使っていた楽器を弾くと、ようやくここで、その楽器の限界が見えてくるはずだ。このように、楽器の限界は、同じ楽器でずっとがんばっても見えてくるものではない。

どうしても、楽器のグレードアップは上達にとって必要なのである。お金がかかるなぁ、と皆さん思われるだろう。

だが、弦楽器は下取りに出すことがある程度可能である。そうすると、みかけほどお金はかからない。

そして何よりも、楽器のグレードを上げると、

「うまくなったね」

と言われる。これは大きい。

逆に、何らかの努力が実って「うまくなった」時は、

「楽器、替えたの?」

と言われることが多い。

つまり、上達は、お金で少し買える、ということだ。

うまくなったと言われたい人は、「鳴れば良い」ではなく、やはり値段の高い(今まで使っていたヴァイオリン価格の倍くらい)を手に入れることを考えるべきだろう。




分数ヴァイオリンと安価な楽器

2011-06-25 23:39:54 | ヴァイオリン

分数ヴァイオリンと呼ばれる子供用の楽器が存在するのが、ヴァイオリンの一大特徴である。

他にチェロと一部コントラバスに分数楽器が存在するが、管楽器では聞いたことがないし、ピアノでは故中田喜直氏が提案されたものもあったけど、普及しなかった。

この分数ヴァイオリンのお陰で、子供でもヴァイオリンが弾ける。

とてもありがたい存在だ。ただ、これはあくまでもフルサイズの代用品だということは頭に入れておかなければいけない。

その「代用品」にどこまで投資するか?

ヴァイオリンにはもともと作られ方が3種類ある。

・「機械製品」機械で作られたもの

・「手工品」手作りのもの

・「半手工品」ある程度まで機械で、その後は人手で作られたもの

当然ながら「機械製品」には経年変化による価値は生じない。「手工品」の中でまっとうに作られたものは、時間がたつに従って価値が付加されていく。

20年くらい前までは、手工品は最低30万円と言われていた。ヴァイオリンを1台作るのに最短3ヵ月かかる。年間120万円というのは、割に合うと言えるかどうか・・・。

ところがバブルがはじけてしばらくすると、その30万円でも苦しいところが増え始める。そこで中国産が台頭してきた。

中国産もピンからキリまであるのだが、欧米や日本の技術指導で作られたものには、かなり良い物も作られるようになった。

昨今、よく目にするようになったイーストマンもその一つ。

注目すべきはチェロで、20万円台で単板の楽器を実現させた。この価格帯は鈴木であれ、カール・ヘフナーであれ「合板(ベニヤ板)」の楽器なのだ。ヴァイオリンにベニヤはさすがに無いけれど、チェロでは当たり前。それでも意外と鳴る。単板は最低40万はしたものだ。

ヴァイオリンはセットで8万円というのが安さで目をひく。でも音はやはりそれなりでしかない。(鈴木の同価格よりは良いか?) ヴァイオリンは容積が小さいからチェロより質の違いが目立つ。やはりもう少し上の価格の別のメーカーの方が良いのでは、と思う。

それで、分数楽器である。

かれこれ四半世紀前に、フルサイズの10万円の楽器を選びに行ったことがあった。10万円といえども、ドイツ製、フランス製、があって、それぞれドイツ風やフランス風の音がしたのに驚いた。

でも、一番音が良かったのは日本製のピグマリウスというブランドだった。その時はこの意見で、楽器屋、買い手、私、三者が一致したのである。

その経験があったものだから、分数楽器もピグマリウスが良いに違いない、という固定観念があった。

が、ピグマリウスには16分の1や10分の1が無い。これは鈴木しかないのだ。で、昔から今にいたるまで考慮の余地なく鈴木を買うのだが、鈴木にも良さがある。とにかく丈夫なこと。ちょっとやそっとでは溶けないニス。汗っかきには大いに助かる。

所詮は代用品だという思いもあったし、鈴木に慣れてしまうと、それはそれで使えるので、まずい音にも聞こえなくなってきた。あれだけピグマリウスにこだわっていたのが、どうでも良くなってきた。しかもピグマリウスの品質が、昔に比べたら落ちてきた。一方鈴木は、昔ほどひどい音ではなくなってきているような気がする。

ただ、2分の1あたりから、音色が気になってくるのは確かだ。コンクールでも受けようものなら、それは必至。4分の3になると、フルサイズに替える際の下取りを意識して、少し高い楽器にすることもある。

やはり四半世紀前くらいに4分の3で500万円のガルネリというのを弾いたことがある。確かに良かったが、そこまで金を使う人の気がしれない。でも、そういう楽器でコンクールを受けるのだそうだ。なるほど。

コンクールでは、技術的な差がつかないとなると、音に魅力ある人が、常に上位へいくものだ。そのためには、やはり高い楽器を買わなければ、と思うのが人の世の常であろう。

ただし、ここでも注意すべきは「分数楽器には価値がない」こと。フルサイズと違って、それほどは値上がりしないので。

一方、ピグマリウスは手工品か半手工品か、見かたにって意見が分かれるが、初期の良質のものは、現在かなり良い音がしているものがある。これの価値はどうなるのか・・・。

以上、ヴァイオリンの特殊事情の一端である。



弓の毛替えに関する話題

2011-06-22 07:08:03 | ヴァイオリン

弦楽器の弓の毛は消耗品である。感覚的な話で申し訳ないが、筆者の感触では200から300時間が限度で交換にいたるように思う。

昔は、地方に住んでいたら毛替えも不自由していたが、今は宅配便で気軽に送ったり受け取ったりできるので、良い世の中になったものだ。

さて、

本来の文脈では「今は地方でも毛替えできるところが増え・・・」と書きたいところである。

これが、そうではないところが悲しい。

弓の毛は、弓先にクサビのようなもので打ち込んである。これは摩擦で止まっているのだから、実は結構技術がいる。毛を替えたばかりなのに、毛が数本とれてしまうようなことが時々あるかもしれないが、それはこの事情に関係している。

数本に留まっていれば問題はない。これが次から次にバラバラと、ということもあるらしい。これは、はっきり言って「へたくそ」の仕業である。その店には二度と行ってはならない。

毛が抜けないから、この人は上手なんだ、と思うのも早計。技術のない人は接着剤を使っている。これが一回の毛替えで済めば大した問題ではない。しかし、次の毛替えの時、接着剤を削り取らなければならない。その時、どうしても本体も一緒に削ってしまうことになる。弓職人さんは必ず尋ねるに違いない。

前回はどこに出されましたか?

それに正直に答えても答えなくても良い。ただ、関係ない職人さんの名前をとっさに言うのだけはNG。



ヴァイオリン弓の知識

2011-06-19 13:11:49 | ヴァイオリン

ヴァイオリンを演奏することと教育することに関して、筆者は専門家である。しかし、楽器そのものに関しては専門家とは言えない。しかし専門上、大事な道具であり、ある程度は知っておかないと具合が悪く、機会あるごとに知識は仕入れている。

これは程度の差こそあれ、楽器演奏者に共通することであろう。それが専門家でなくても、である。

ところが案外知られていなくて、悩んでいる方も結構見受けられるので、筆者から見て「常識」とその一歩先程度までを、この場を借りて紹介しておくことにする。

「弓」の話である。

まず、弓は本体と違って消耗品、使ったら減るものだという認識が必要である。が、家電製品よりは長持ちする消耗品で、どんなに短くても数十年は大丈夫。

なーんだ、と思われるかもしれないが、百年以上たった弓を買いたくなる場合もあるから、その時に本体と同じ認識ではうまくいかない。

次に、使用されている「木」が重要。ペルナンブコ(フェルナンブコだと主張する専門家もいらっしゃるが)材と呼ばれる、ブラジルのペルナンブコ州(アマゾン河の河口近く)で採れる木で作ったもののみが「弓」と見なされている。それ以外の木、サクラ、スネークウッド、他のブラジルウッドは価値があまりない。

バロック時代には、このペルナンブコ材がなかった。ので、バロック奏者のレプリカ楽器は、わざわざ他の木を用いたりしているが、それがいいと思っている人は「汚い音」が好きな変人だと思う。

弓には高密度な木が必要で、その昔トゥールトTOURTEという弓作りの名人が、香料の原木から探し出したのがペルナンブコ材と言われている。

しかしブラジルは政情不安定で、そこから原材料を仕入れるのは容易ではない。日本で長い間ペルナンブコ材で弓が作れなかったのは、そういう理由もある。

ところがアメリカには、そのずっと以前にペルナンブコ材を大量に仕入れていた人もいたらしい。そこからのルートで、安定供給がある程度可能になったとのこと。

そうして国産でもようやく質の高い弓が作られるようになった。Aルシェ社の弓が出た時は、本当に驚いたものだ。(残念ながら、現在、創業当時の高品質は維持できていないが。)

そして数年前、Aルコスというブランドで、ブラジルから弓が比較的安価で輸入され始めた。この会社には、弓づくりの腕利きが何人かいるのだが、フランス人だったりドイツ人だったりするらしい。そして彼らは、そのままフランス風の弓やドイツ風の弓を作っているので、同じブランドなのに作風がかなり違うものが混在しているとのこと。価格も一応カタログ上では何段階かに分かれているけれど、実際には同一価格帯の中で結構な差が生じている。これを見分けられるのが専門家で、筆者は(繰り返すが)専門家ではない。

長くなったので、続きはまた今度・・・。


多分間違い

2011-06-15 20:39:27 | ヴァイオリン

10年以上前、学生さんから聞いた話。

「○○ちゃんの好きそうなヴァイオリンのCD、見つけたよ。」

「ふーん。誰が弾いているの?」

「ごしまみどり、とかいう人。」

さすがに最近は、こんなことを言う人はいなくなったなと、思っていた矢先のこと。ある人からのメールの文章。

今日は○○の演奏会でした。フィンランディアや皇帝円舞曲をやりました。(中略)来週はM市に五つきみどりがくるので○○ちゃんと見にいきます。

頭の中には「おひまなら来てよね・・・」と歌いながらヴァイオリンを弾く誰かさんのイメージができあがってしまった。

70を過ぎた五月みどりショウを観に行くというのは、ちょっと想像できないので、多分間違いだが、しばらくは楽しかったな。

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