ラヴェル作曲の「ツィガーヌ」に「ポルタンドportando」という、不思議なイタリア語が出てくる。冒頭独奏部分の後ろの方である。
辞書で当たると「portare運ぶ」のジェルンディオ(進行形のようなもの)、ということになるのだが、「運んでいる」と解釈すると全く意味不明になる。
この「ポルターレportare」が語源の演奏指示語には「ポルタート」と「ポルタメント」がある。両方とも「運ぶ」とは縁遠い意味を有している。が、この「ポルタンド」解明のヒントではないだろうか、と私は考えた。
「ポルタンド」の標記がある部分、「ポルタート(スラーとテヌートで表記、長めのスタッカート)」は全くふさわしくない。となると「ポルタメント」が浮上してくる。
「ポルタメント」は2音間をずらす音を入れて弾く奏法、「ポルタメントを入れて弾いて」という意味を伝えたかったラヴェルは、その語源の「ポルターレ」をジェルンディオにして標記したのではないか、と推察した。フランス人とバスク人のハーフのラヴェルにとって、やはりイタリア語は外国語、ジェルンディオの使い方が正しくない可能性もあるだろう、と私は思った訳だ。
その解釈を取り入れ、他は故田中千香士先生の直伝を伝え、先日某コンクールで私の生徒さんにツィガーヌを弾いてもらった。
結果は、まずまずの評価だったのだが、ポルタメントをベタベタに入れたのは不評。
「そういうのも面白いかとも思いましたが、いろんな種類のポルタメントがあるべきでは、と思います」というような講評もあった。
そうかもしれない、と思うものの、みんなラヴェルの意図を本当に考えたのかなぁ、と思わずにはいられない。上述のように考えると、ここはどっぷり、たっぷり、こってりのポルタメント使用で、というのが絶対面白いし、ラヴェルの意図通りだと思うのだけれど・・・。
ということで、今年の最後は、なかなかブログを書けませんでしたが、来年もよろしくお願いします。