井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

ラヴェル作曲TZIGANEの「ポルタンド」とは?

2013-12-30 23:53:03 | ヴァイオリン

ラヴェル作曲の「ツィガーヌ」に「ポルタンドportando」という、不思議なイタリア語が出てくる。冒頭独奏部分の後ろの方である。

辞書で当たると「portare運ぶ」のジェルンディオ(進行形のようなもの)、ということになるのだが、「運んでいる」と解釈すると全く意味不明になる。

この「ポルターレportare」が語源の演奏指示語には「ポルタート」と「ポルタメント」がある。両方とも「運ぶ」とは縁遠い意味を有している。が、この「ポルタンド」解明のヒントではないだろうか、と私は考えた。

「ポルタンド」の標記がある部分、「ポルタート(スラーとテヌートで表記、長めのスタッカート)」は全くふさわしくない。となると「ポルタメント」が浮上してくる。

「ポルタメント」は2音間をずらす音を入れて弾く奏法、「ポルタメントを入れて弾いて」という意味を伝えたかったラヴェルは、その語源の「ポルターレ」をジェルンディオにして標記したのではないか、と推察した。フランス人とバスク人のハーフのラヴェルにとって、やはりイタリア語は外国語、ジェルンディオの使い方が正しくない可能性もあるだろう、と私は思った訳だ。

その解釈を取り入れ、他は故田中千香士先生の直伝を伝え、先日某コンクールで私の生徒さんにツィガーヌを弾いてもらった。

結果は、まずまずの評価だったのだが、ポルタメントをベタベタに入れたのは不評。

「そういうのも面白いかとも思いましたが、いろんな種類のポルタメントがあるべきでは、と思います」というような講評もあった。

そうかもしれない、と思うものの、みんなラヴェルの意図を本当に考えたのかなぁ、と思わずにはいられない。上述のように考えると、ここはどっぷり、たっぷり、こってりのポルタメント使用で、というのが絶対面白いし、ラヴェルの意図通りだと思うのだけれど・・・。

ということで、今年の最後は、なかなかブログを書けませんでしたが、来年もよろしくお願いします。


フェルディナント・ダーフィト讃

2013-12-17 23:36:30 | ヴァイオリン

Ferdinand David、フェルディナンド・ダヴィッドとも言う。本ブログでも一回書いた覚えがあるのだが、この名前を覚えていた人は「通」と言って良いだろう。

井財野が最も興味を示すのはヴァイオリニスト作曲家達、その中の一人である。

最大の業績はメンデルスゾーンにアドバイスしてくれたお陰で、かのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が小学生でも弾けるくらい弾きやすくなったこと。もう一つ、「ヴィターリのシャコンヌ」として有名になった曲を世の中に知らしめたこと。(これについてはその昔書いた。2010年9.29)

この二つの業績は、ヴァイオリンを弾く人ほとんどが恩恵を受けているはずだ。その意味で、ヴィエニアフスキやヴュータンよりもずっと重要な人物と言える。

一方、トロンボーン界にもダヴィッドという人がいて、この人のトロンボーン小協奏曲はトロンボーンを吹く人は必ず吹く曲だ。私には高校時代、トロンボーンを吹く友人がいて、そのお陰でこの曲はその頃から知っていた。そして、何と陳腐な曲、これをありがたく吹かなければならないなんて、かわいそうなトロンボーン、と思っていた。

ところが、そのダヴィッドとあのダヴィッドが同一人物だと最近知ることになる。しかも教えてくれたのは、うちの学生であった。

これにはびっくりだった。

ヴァイオリニスト作曲家がヴァイオリン曲を書くのは当たり前だが、管楽器の曲を書いて、しかもそれが重要なレパートリーにはいっている例、時々あるのだ。クラリネット曲のレイモン・ガロワ=モンブラン、トランペット曲のエネスコなどを想起するが、ダヴィッドのトロンボーン小協奏曲は、それらをはるかにしのぐ、トロンボーン界ではメジャーな曲だ。

ダヴィッドには当然ヴァイオリン曲もある。しかし、ヴィターリのシャコンヌ(ダヴィッドがかなり作っている)以外、演奏されたのを聞いたことがない。トロンボーン曲で有名なヴァイオリニストとは、全く類例をみない。

またダヴィッドはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターでもあった。コンマスのトロンボーン曲! こう考えても凄い。ここに井財野友人の祖型を見る思いがする。

いやはや、段々良い曲に聞こえてきた。ベートーヴェンの亜流がベートーヴェンへのオマージュに変化してくる。

という次第で、そのことを教えてくれた渡辺君をちょっとだけ紹介したい。宮崎県出身で、来年から宮崎で中学校の先生をしたいとのこと。緊張のため、あちこちでミスがあったけれど、本番は来年の2月頭だ、これからまだまだ完成度は上げられるだろう。